狼に追われたり、コガネドラゴンを一撃で倒したりしつつ
――つまり。
槍を持つ男は、キュウの姿は見ることができるが、声は聞こえない。
魔術師の女はキュウの声は聞き取れるが、姿は全く見えない。
そして剣を持つ男は、キュウの存在に全く気が付かなかったのである。
『森でも姿が見えるだけの人に逃げられたり、声が聞こえるだけの人に逃げられたりしたことがあったなぁ……懐かしいなぁ』
「いや懐かしむようなことじゃないよな、それって……」
しみじみとした顔のキュウに、ミバルがつっこむ。が、キュウはそんなミバルの言葉を華麗に躱し、三人組に笑顔を向けていた。
『私は精霊術士のキュウだよ! とりあえず、うちのミバルと仲良くしてね!』
「精霊術士のキュウって、あの勇者パーティーの!? ぜひ! ぜひよろしくお願いします!!」
「えっあの勇者パーティーのキュウって名乗ってる!? そういえば勇者パーティーの絵にそっくりな人がいた!」
「くそう! 俺だけ聞こえないし見えないのは不公平だ!」
「……あれ? もしかしてキュウ、これからこの三人と一緒に行動するっていうのはもう決まりなのか?」
『大所帯は賑やかで楽しいよミバル!』
「決まりなんだな……」
キュウに振り回されるミバルであった。
――ちぐはぐな三人組との旅は、退屈するひまもなかった。
モンスターを倒しながらセンドー国を進む中で、ミバルは三人に(キュウと比べると)無理のない訓練に付き合ってもらったり、共に強敵を倒したりした。
「ミバルってモンスターハンターにしては、怖がりだよなぁ」
剣を持つ男――ケンは不思議そうに言う。
「恐れるなとは言わないが、モンスターに対して怖がりすぎだな」
槍を持つ男――ジャックも不思議そうに言う。
「どのモンスターも一撃で倒せるくらい強いのに、そんなに怖がらなくてもいいんじゃない?」
鏡を持つ魔術師の女――ミライも不思議そうに言う。
『最初よりは怖がらなくなったけどね!』
キュウの言葉は容赦ない。
「山の木は俺に襲いかかってこないから、襲いかかってくるモンスターには慣れてないんだよ」
ミバルは苦笑いだった。だが、嫌な気持ちではない。
キュウがいること以外は、以前のパーティーと似た集団だった。しかし以前と違い、ミバルは戦力外だと罵られることはなかった。
むしろ三人は、ミバルの境遇に憤った。
「パーティーに入れたのに、練習相手にもなってくれなかった!? 最悪な奴らだな!」
特にミバルと仲良くなった、ジャックの怒りは大きかった。
『ほらミバル、これが普通の考えだよ。あいつらの言ってたことなんてテキトーなんだから!』
「キュウ様の言うとおり! ミバルは自信を持って!」
『ミライ……さんの方が年上だよね。モンスターハンターとしても先輩みたいだし、様付けなんてしないでほしいんだけど……』
「しない方がいいのならやめるよ。ニオン国出身として、勇者パーティーは憧れだから、つい」
恥ずかしそうなキュウの声に、ミライは縮こまってしまった。それを見てケンが笑った。
「妹は勇者パーティーが大好きなんだ。俺もニオン国の人間として誇りに思ってる」
『う、嬉しいけどやっぱり恥ずかしいな』
「ケン、今の言葉でキュウがすごく照れてるよ」
『うわわっ!! ミバルったらなんで言うの! もっと恥ずかしいよ!』
ケンとミライという、ニオン国出身者を含むパーティーであったため、彼らはミバルとキュウへ快く協力してくれた。
そんな賑やかな旅が、二週間ほど続き――
「ここがニオン国の街……」
ついに、キュウの姉妹たちがいるニオン国の大都市――王都「ショーカ」に、ミバルたちはたどり着いたのだった。
「人が多い! 建物が大きい!」
ミバルはショーカの賑わいぶりに、すっかりはしゃいでいる。ケンたちもあちこちを見渡して楽しそうである。
『……さて。問題は、ちゃんと姉さまに会えるのかってところだけど……』
唯一、キュウだけが緊張した顔をして、くるくると宙を泳ぎ回っていた……。




