閑話 「勇者」の名を狙う者たち
――キュウの怒りの声など聞こえない、遠く離れた魔王城の跡地に、腕に覚えのあるモンスターハンターが集っていた。
三人とも、二十半ばほどの年齢の、熟練モンスターハンターである。彼らは森の奥の目的地で、何かをしていた。
「……どうだ?」
剣を持った男が問うと、魔王城跡に浮かぶ巨大な空気の傷――次元の狭間を調べていた魔術師の女がため息をついた。
「ダメね~これ。さすが勇者パーティーよ、この封印は簡単なものじゃないわ。とてもじゃないけど、この次元の狭間に入って無事に出られるとは思えないわね」
「さすが、だと!? 勇者パーティーはあれだけ騒がれてたくせして魔王を倒せなかったザコ連中だろうが!」
大声をあげるのは巨体の男だ。
「待て。ミーシャが無理なら無理なんだろう。半年後だっていう魔王復活より先に討伐しちまおうと思ったが、一年もこのままにされている訳だな。誰も手出しできないからだったのか」
剣を持った男が巨体の男を窘めた。
「見てみろ。魔法はわからないから何がおきているのかはよくわからないが、この次元の狭間とやらの中はあんな状態だぞ」
剣を持つ男に言われ、巨体の男は宙に浮かぶ切れ目を覗きこむ。
「なんだあれ。吹雪か? かなり激しいな……。そのせいでほとんど見えないが、あの人影は凍っているのか?」
「時間を無理矢理、動かないように固めているせいよ。このまま入っても、私たちも一緒に凍って動けなくなるわね」
「お前の魔法でどうにかできないのか?」
「これは魔法ではなくて、聖霊による封印よ。魔術師の魔法と聖霊の魔法は格が違うの。とてもこの嵐には対応できないわ」
「聖霊……確かに、勇者パーティーには聖霊術士がいたな。聖霊術士ってのは魔王の封印もできるのか」
称賛とも恨み言ともとれる言葉を漏らす巨体の男に、剣を持つ男は苦笑いした。
「聖霊がどれだけ頼みを聞いてくれるのか、というのが聖霊術士の力量らしいぞ。そんな他力本願な奴が本当にすごいか?」
「あら、すごいわよ。だってこんなこと、凄腕の魔術師が百人いたってできないことでしょう。それに聖霊の姿が見えるっていうのがもう特別じゃない? 私も子供の頃は聖霊さんとお話ししたいなって夢見たものよ」
「そりゃかわいらしい夢だな。今のお前は歳をとりたくないだの肌がどうのとうるさいが。この次元の狭間の中で凍っちまえば老けないぞ?」
「うるさいわね! あんたみたいなデカブツがそんなこと言うとますますモテないわよ!」
ぎゃあぎゃあとじゃれ合う二人をよそに、剣を持つ男はため息をついた。
「聖霊術士は滅多にいない。仕方ない、魔王討伐の一番をとるのは、今日のところは諦めよう。街に戻るぞ」
「そうねぇ。あの雑用係くん、ポイ捨てしてからあれこれめんどくさくて仕方ないし。街でまた引っかけられそうなのを見つけましょ」
「でもあのザコを連れてきて『真の勇者パーティー』の一人に、なんてのはムカつくだろ?」
「まあそうね、あそこで捨てるべきよね。今回は魔王を倒せなかったから、今となってはもったいなかった気もしてきちゃった」
「もういいだろ。あのお偉いさんが言ってる、魔王の封印が解けるっていう半年後まで、俺たちが勇者と呼ばれる日はお預けだ」
そして、三人は街へと戻っていった。




