新米モンスターハンター、パーティーから見捨てられる
勇者パーティーが、魔王ともども次元の狭間に封印され、約一年が経過した。
その時空の狭間は、かつて魔王城があった場所に、魔王城の代わりに存在している。
その手前に広がっている森に、モンスターハンターのパーティーがいた。
森に生息するのは魔王の膝元に侍るに相応しい、凶悪な強さのモンスターたちだ。彼らはそんな森を突き進む、実力者揃いの一団である。
「お前は俺たちのパーティーにいらん! クビだ!」
「そんな……!」
だが今は戦闘中ではない。戦闘において足を引っ張るほどの弱い仲間を追放しようとするところであった。
「置いていかないでください! 僕じゃここのモンスターたちに勝てません」
「だったら『護衛依頼』としてなら街に連れていってやるよ。だがろくにモンスターの討伐もしてこなかったお前に、そんな金はあるのか?」
「お金は……ありませんが、街に着いたら、どうにか働いて返すので……」
「いやダメだ。ここで金が出せないならな。あばよ」
「そんな……」
追放された彼は、最近になってモンスター討伐を始めた初心者である。実力の釣り合わない有力パーティーから追い出されること自体は自然なことだった――場所さえ考えなければ、だが。
ブルルルル! ビルルルル!
ギャッギャッギャ! ギャッギャッギャ!
ボゴッ! ボボゴゴッ!
右にモンスター。
左にモンスター。
そして前にもモンスターがいるのがわかる。
この状況でまともな武器もなく、彼――ミバルは、一人取り残されてしまったのだった。
(武器も何もない状態で見捨てられるなんて、どうすればいいんだ……)
『うわ~あれはないわ~……』
その様子を傍観していた彼女の表情はひきつっていた。
『こんな森の奥に一人で置いていくって、死ねってこと? 最近のモンスターハンターってあんな最低な奴らが跋扈してるの? 勇者様がいなくなって風紀が乱れたのかなぁ』
……彼は真後ろからの声に、恐る恐る振り向いた。
女の子が宙に浮かんでいた。体が透けていて彼女の後ろの木が見える。足は透けているというのを通り越して全く見えない。
目が合った。すると、何かを期待するような目で少女が微笑んだ。
(この女の子は――)
ミバルは悟った。
「ゴーストだああああああああやめて呪わないで祟らないでくださあああああああああいいいいいいいい!!!!」
ミバルは彼女の真下を走り抜けて逃げていった!
『え!? ちょっと!? お化けじゃないよ! 待って!』
逃げる彼に、女の子は慌てて憑いてきた。足がないので浮かんでである。
『私の声が聞こえて姿も見えるんでしょ! ちょっとお話しようよ待ってお願いだから~!! あーっその先は底無し沼だからストップ!!』
ボチャン!!
響き渡る水音! 忠告はいかされなかった!
「ガボガボガボボ……」
彼はあっという間に沼に沈んでいってしまった。お化け(ではない)彼女はそれを見ておろおろと真上をさ迷っている。
『あわわわわ……。もう、仕方ないなぁ! 聖霊さんたち、彼を助けてあげて! お願い!』
――ドタバタとした出会いだった。この出会いが世界の運命を変えることを、まだ誰も知らなかった。