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ほとんど異世界転生  作者: マウスノート
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生活模様

ドアノックの正体はお隣さんの挨拶だった。

60歳くらいのおばあちゃんで、今日、隣に引っ越してきたので、これからよろしくお願いします。とのことだった。

しばらく立ち話をしたことで分かったことは、この都市内部では3か月に一度、ランダムに部屋を移動することが義務付けられていることだった。

おそらく人間関係を円滑にするための措置だろうと私は直感した。

相性の良い人間とは離れ離れになっても、どこかで待ち合わせするなりして会うことができ、相性の悪い人間とは単純に距離を置くことができる。

治安維持を最小限度の労力で達成するための優れたシステムのように思えた。




翌朝、目が覚めたのは8時半だった。


ミネラルウォーターで口をすすぎ、トイレの小便タンクの中に汚れた水を吐き出した。

朝食は無しという斬新なスタイルの献立に従いつつ、私は病衣を脱いで全裸になり、濡れタオルを使って全身を清拭することにした。

幅40センチ、長さ1メートルほどの濡れタオルは、顔や体を清めるには十分な面積を備えていた。


昨晩にトイレ(大)を初めて使用したが、特にこれと言って問題は無かった。

タンク内に弁のような突起があり、それが衝撃を吸収することで跳ね飛びが起きない分、水洗便所よりも清潔に用を足せるケースもあるほどだった。

2,3割たまったところで交換ということは、おそらく2か月はこのまま動かさずに使えそうだった。


昼食はレストランでマッシュルーム・オムライスを食べた。

普通においしかった。

レストランの水道は混雑するため、私は都市の中央に引かれている上水道から直接採水している露天の水道場へ向かい、そこで歯磨きをすることにした。

今日も快晴だった。


午後からは両親との面会だった。

二人は目に涙を浮かべていて、私はそれを見て確かにこの二人は両親なんだなという実感を持てた。

しかし特に深く思い出すようなことは、ほとんど無かった。

記憶障害が残っていることはもうすでに通達済みだったのだろう。

昔のアルバムやビデオテープを見せられたが、『小型の私が映っているな』くらいにしか思うことは無かった。

しかし、ぼんやりとした直観というのはやはり正常に働くようで、家族仲は非常に良好そうだった。


「しばらく、この都市で暮らしてみます」


私がそういうと、両親は首をひねって変な顔をした。


「でも、お風呂も水道もキッチンも水洗トイレもないんでしょう?」


母親は心配そうにそう言ってくれたが、私はそれほど不便じゃないことを伝えた。

すると、しばらくの間のここでの一人暮らしはすぐに了承された。

北山先生の診察室で行われた面談は30分ほどだった。

あっという間に時間が過ぎ去ったところを見ても、それほどストレスを受けずに済んだのはありがたいことだった。


それから私は再度スポーツ・アルバイトに挑戦することにした。

腕立て、腹筋、スクワット、ジョギングをミックスにしたメニューをこなし、3時間で3000円を稼ぐことに成功した。

この経済スタイルには賛否両論あるらしかったが、私は大いに賛成だった。

ちなみに現在はもう少し進んでいて、『読書アルバイト』というものを時給400円で採用するかどうか検討中とのことだった。

学術本や論文を読むだけで賃金が稼げるというのも非常にありがたいことである。

ぜひ正式採用してもらいたいところだった。

百貨店ブースで見た薄水色の冬物のコートの値段は6万円だったので、まだ1割も稼げていないのが実情だったが、私の気分は晴れやかだった。


今日から夕食後に薬を1錠、飲むことになった。

記憶障害に効果があるという精神薬の一種で、まだ治験段階だが比較的安全な薬ということだった。

この面白い都市にただで住ませてもらっている以上は、実験台として活躍しなければならない。

私はおとなしく従うことにした。

薬は徐々に効いてくるタイプのもので、2,3週間はこのまま様子見とのことだった。


翌朝。


スポーツ・アルバイトは昼から行うことにして、私はとりあえず図書室へ向かうことにした。

途中で大学生とみられる女性から声を掛けられ、アンケート調査に協力してほしいと言われた。




【二段階資本主義の実現に向けたアンケート調査】




…………?




一見すると意味不明のタイトルだったが、話を聞くうちに興味をそそられるものがあることに気付いた。

私と、同い年くらいのその若い女性は、まだ午前中で人気の少ないレストランに移動して話を続けることにした。




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