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ほとんど異世界転生  作者: マウスノート
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単純スポーツ経済

091番の塔に戻り、1階のポスト・ボックスで788号室用の投入口の前まで行った。

ポストの中には水色のプラスチックの筒2本に収められた濡れタオルと、小さなゴミ箱、生理用品、歯ブラシと歯磨き粉と小さなコップ、以上が入っていた。


一人用エレベーターに乗り込み、最上階に上がって自室へと戻る。


トイレの中の姿見を確認して、特に何もすることがなかったので、電子書籍端末を開いてライン型幾何学都市の映像をしばらくぼんやりと眺めることにした。



挿絵(By みてみん)



「……………………」


暇だなと思った。


最初はインパクトがあった都市の映像も、何度も何度も見ていると、さすがに飽きてくる。


ティッシュペーパーを丸めて小さなボールを作り、部屋の隅に置いた小さなゴミ箱に向かって勢いよく投げてみた。

3回目で見事、ごみ箱の中にすっぽりと入った。


「……………ん~ん~、ふふふるるーふ~ん」


小声で鼻歌を奏でる。


「…………ふう」



暇だった。



今夜の夕食のメニューを検索してみた。


【自然死したクジラの照り焼きステーキ丼】


画像付きで表示されたそれを見て、思わず生唾が出た。


「おいしそう……これが無料なのか」


都市財政のほうは果たして大丈夫なのだろうか?


というか、自然死したクジラをどうやって発見するのだろう?

疑念は残ったが、それでも無料でクジラステーキを振る舞ってくれるというこのシステムに感謝せざるを得なかった。


ゴミ箱の中からティッシュのボールを取り出して、もう一度投げてみることにする。

今度は1発でゴミ箱の中にすっぽり入れることができた。

うむ。気分が良い。


「…………」


生理用品のチェック、トイレの姿見で自分の容姿のチェック。


(うん。……まあ、大体こんな顔だったような気がする)


客観的に採点するとすれば、まあ中の上、という感じか。

胸はCカップくらいかな。

どこかのイケメンに熱烈に求婚されることもないだろうけれど、結婚できないくらい見た目に深刻な問題があるわけでもない、みたいな。


「……………」


暇なのでライン型幾何学都市に関するニュースを片っ端から見ていくことにする。


数十記事を流し見たところで面白そうなタイトルの記事が目に入った。



【グレート・リセットとライン型幾何学都市】



内容は、小惑星の衝突や火山の破局噴火によってもたらされる被害に、最近世界的に話題となっている日本のライン型幾何学都市がどの程度まで耐えられるのかどうか、というようなものだった。

結論としては、ある程度の火山噴火や、ある程度の小惑星の衝突には耐えることができるだろうが、ある一定レベル以上の衝撃には耐えられないだろうという、至極まっとうなことが書かれていた。

その下には【グレートリセット経済とライン型幾何学都市について】という記事があった。


小惑星の衝突などのグレートリセットを回避できるようになるまでの紆余曲折を経済スタイルに取り込んでいる国家の経済は破綻しないーーーー。

これがいわゆるグレートリセット経済というものらしい。

この記事の言わんとするところは、ライン型幾何学都市は果たしてグレートリセット経済と言えるのかどうかという問題に、疑問符を投げかけるようなものだった。

その中でも最も攻撃されているのは、『体を動かすだけで賃金が支給される仕組みである単純スポーツ経済』についてだった。



「ふうん……スポーツ系アルバイトは機能するのか否か……」



腕立て伏せ1回5円、腹筋1回3円、マラソン10キロ2500円…………



この都市ではこのようなアルバイトが実際に存在しているらしかった。

おそらく、両親が面会の時にいくらか持ってきてくれるだろう。

でもしかし、私は、少し早めに冬物の新しいコートが欲しい気分だった。


「アルバイトか……。ちょっと挑戦してみようかな」


電子端末のレンズを自分のほうに向けて床に置き、録画モードに設定。

そのレンズの前で腕立て伏せを合計50回行い、その動画映像を〈腕立て伏せ50回コース〉に送信してみることにした。

これで1000円の収入になる……と思いきや、帰ってきたのはエラーだった。


「……?」


何かの故障かと思ったが、どうやら腕立て伏せ50回の解釈に問題があるようだった。

途中で休憩したりテンポを大きく乱したりすると、機械判定で『腕立て伏せしていない』ということになるらしかった。

要するに…………


「え……? 軍隊式腕立て伏せを、休憩なしで50回連続で?」


とても無理だった。

仕方がないので15回コースに変更、再度録画して送信してみることにした。



数秒後。



150円稼げた。



電子端末の中に150円分のお金がチャージされた。



「……よし」


面白いなこれ。


なんとなくだが、私はこの新しい街での暮らしが好きになれそうだった。

しかし、住民のみんながみんな全員、こんなアルバイト暮らしをしていたとしたら、都市の経営は上手くいかなくなってしまうはず……。

あるいは、正社員の仕事にはよほどの高給が設定されているのだろうか?

それとも何らかの特権付与があるのか……。



コンコンコン。



玄関のほうから、ドアをノックする音が聞こえてきた。

どうやら誰か来たらしい。

誰だろう。

何かのクレームだろうか?

私は恐る恐る、ドアを開けた。







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