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ほとんど異世界転生  作者: マウスノート
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禁止事項

喉が渇いたので食堂に行くことにした。

そこで聞かされたのは、「水道の水は飲料水ですので自由に飲んでください」の一言だった。

どうやら山の手の湧水をそのまま引いてきているらしかった。

もっとも、水道自体がそもそも1本しかないので、それほど便利というわけでもなかったのだが。


もっと驚かされたことは、この都市では飲食と掃除が無料サービスということだった。

(ちなみに本日のメニューは【自然死した牛の牛筋煮込みカレー】だった)


レストラン内で近くの席に着いた若者たちが「今日は当たりだね」と言っていた様子から察するに、食事はそれほど豪華なものではないらしかった。(塩むすび2個という日もたまにあるらしかった)

それでも無料にしてはかなり美味しいほうだと評価せざるを得ない味だったのだが。

ちなみにレストランでは毎回毎回生演奏が行われているらしく、今日はピアノの独奏だった。


昼食を済ませた私は円輪型施設について調べてみることにした。

電子端末でざっと見た限りでは、円輪型施設は№によって入居している施設が全く異なる。

百貨店が入っている建物もあれば、学校や病院や幼稚園が入っている建物もある。

どの円輪型施設も、見た目よりも内部が非常に広大だったため、ぶらぶらしているうちにあっという間に時間が過ぎてしまった。


4時40分に、手持ちの電子端末から呼び出し音のようなピーピーという音が鳴り、私はマイクに向かって話しかけてみることにした。

相手は北山先生だった。


「どうですか、調子のほうは。今から会えますか?」


「はい。よろしくお願いします」


「それでは病院での私の部屋まで来てください。場所は……」


指定された番号の部屋に行くと、同じく15畳くらいの広さの部屋の中で北山先生が椅子に座ってコーヒーを飲んでいた。


「慣れましたか? この街に」


北山先生は優しい笑顔でそう言った。


「いえ、色々と前と違うことが多くて、戸惑っている最中です。

今一番聞きたいのは医療費のことなんですが……」


私はずっと気になっていたことをまず最初に聞くことにした。


「ここでの医療費は無料です。

先進医療の実験台になることと引き換えに、すべてのサービスが無料に設定されています」


200万円くらい請求されるんじゃないかと思っていた私は、その言葉にほっとした。


「先進医療の実験台ですか……。あのゼリーみたいなやつとかですか?」


「そうです。皮膚の壊死を防ぎつつ、電気刺激で筋肉の衰えを防ぐ機能が付いています。

もっとも、一度入ると1か月は体を洗えないので、そこが難点なのですが」


あの最初の部屋だけ人口密度が異常だった。

おそらく無料の措置を目当てに、世界中から意識のない患者が送り込まれているのだろう。


「先進医療は両親が希望したのでしょうか?」


「そうです。あまり経済的に余裕がないとかで、仕方がなかったそうです」


どうやらそれほど裕福な家庭ではないらしい。


「両親は元気でいますか?」


「特に問題はなく、健康そうでしたけどね」


「先生が担当している患者は何人くらいですか?」


「30人くらいですが、なぜですか?」


「いえ、ちょっと気になったもので。すごく丁寧にいろいろ質問させていただけるので、もしかしてマンツーマンなのかなと……」


「ははは。慣れているだけですよ。それに初診のときには時間が多めにとられるものです」


「なるほど。そうですよね」


「時乃さんは、どうやら記憶障害の気がありそうですね。

通っていた学校のことなど、思い出せないのではないですか?」


「はい。実は両親の名前も顔も、ちょっと思い出せなくて……」


「あらそうですか。……ふむ。まあ、時間はたっぷりあるので、少しずつ写真や映像で過去の暮らしを確認していくことにしましょうか。もしかすると、何かのきっかけで大きく思い出すことがあるかもしれません」


「そうですね」


「とりあえず、今から説明するのはこの都市で禁止されていることについてです。

一応口頭で伝えるのがしきたりになっていまして。

えー、まず、通信販売、集合住宅への可燃物の持ち込み、集合住宅内でのSEXや激しい運動、川での洗濯、自殺、勝手な商売、勝手な間食、旧市街からの勝手な荷物の持ち込み、派手なアクセサリー、都市内部への車での侵入、大声での会話、暴力、飲食物の交換や譲渡……このあたりは厳重注意となっています。悪質な場合は指導室へ送られることにもつながりますので、注意してください。

他の細かいことは、また時間があるときに電子端末で確認してください。【禁止事項】で検索すれば出てきます。もっとも、細かい規則に関しては多少、曲げてもどうこうはありませんが」


「了解しました」


「ご両親から面会希望が入っています。

一応聞きますが、会えますか?」


「はい。いつでも大丈夫です」


「そうですか。一応、虐待などは無かったと調査員から報告は入っているのですが」


虐待……なるほど。

そういう家庭もあるのか。


「はっきり覚えてはいませんが、家庭に問題はなかったような気がします。たぶん」


「そうですか。それは良かった。

それでは……明日の午後2時に面会で大丈夫ですか? 私も立ち会いますが」


「それでお願いします」


「はい。それでは、部屋に戻って大丈夫ですよ」


「はい、あの、部屋の洗濯機とお風呂と台所と洗面所がなかったんですけど、それは……」


私は思い出すようにそう言っていた。


「お風呂は、円輪型施設内部に大浴場がありますが、有料です。一回につき10分で500円になります。洗濯物はこの都市内部の住民全員で共有していますので、個別に洗濯することはできません。明日の朝になると、新しい病衣が1階のボックスに届けられます。……ミネラルウォーターも一本サービスされているはずです。もう届いていると思いますが、殺菌成分を含んだ濡れタオルが2本ありますから、それで体をふいてください。それがお風呂代わりになります。台所に関しては、残念ですが個別調理はこの都市では禁止されています。食材ロスが出るからです。洗面所は無いですが、トイレのドアの内側に姿見が張り付けられているかと思います」


トイレのドアの内側の姿見……


「見落としていましたね」

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