六車計画
緩やかに右にカーブする長い滑り台を滑り降りると、そこは風の強いコンクリートの広場だった。
どうやら滑り台はこの集合住宅に巻き付けるようにして設置されているらしかった。
かなり滑稽に感じるものの、慣れればどうということでもなくなるのかもしれない。
「検索、091番塔から一番近い図書室」
ダメもとで電子端末にむかって検索をかけてみると、即座に画面上に地図が表示された。
「便利ねこれ……それじゃあ、検索、時乃小明の両親」
エラーが表示された。
さすがにそこまで万能ではないらしい。
事故の影響か、色々なことに対して記憶が曖昧だった。
両親が存在していたことは思い出せるが、顔や名前は思い出すことができないでいる。
病衣をはためかせながら最寄りの図書室へと向かうことにする。
途中、2,3台ほどの自転車とすれ違った。
自転車は通行可能らしかった。
しかし見渡す限り、都市内部には自動車の影が無かった。おそらく安全と、足元のコンクリートを保護する名目で進入禁止になっているのだろう。
№093の円輪型施設の南側1階に図書室があった。
ちなみに図書室の隣は屋内遊具場で、中からは子供たちの声が漏れ聞こえてきていた。
「このライン型都市の由来について、詳しく書かれた本はありますか?」
受付でそう聞いてみた。
係の書士は旧型のパソコンで何やら検索しつつ、しばらくして「B-5-7の棚にあると思います」というアバウトな回答をよこしてくれた。「A4サイズの大きな本です」
「ありがとうございます」
指定された棚番号の前まで行き、見回してみる。
大きなサイズだったので見つけやすかった。
本のタイトルは【ライン型幾何学都市の成立】という、ずばりそのものだった。
席に着き、さっそく読んでみることにした。
イラストが多い本だったので、1時間ですべて読み切ることができた。
本の内容を要約すると…………
2020年頃に始まった自動車産業の急激なEV化に乗り遅れた日本の自動車業界は壊滅的な経済ダメージを受けることになり、ほとんどが倒産することになった。
どうせ業界ごと消し飛ぶのだからと始めた慈善事業、通称「六車計画」が世界中の発展途上国などで喜ばれ、受注が回復。寄付金なども世界中から集まり、逆に資金的に大きな余裕ができてしまう。
そのころ世界的に新しい都市づくりが模索されており、六車計画マネーもその方面へ流れていくことになる。
慈善事業で危機を脱した日本企業は、そのまま善意経済の可能性を模索しつつ、究極的にエコロジーで、なおかつ住民の生活負担が少ない未来都市、ライン型幾何学都市の建造を決定。
現在に至る。
以下、全世界1億人の難民救済のための6種類の特殊車両の画像。
トイレカー
濡れタオルカー
洗髪・洗濯カー
空調安眠カー
図書カー
食糧配給カー
「自動車業界のごたごたと、大量の寄付金、難民及び発展途上国からの需要、新型都市の模索……以上4つの条件が見事に融合して、自然発生的に生み出されたというわけね……」
なるほど。
「面白いわね……」