傘と鞄とカード
「この都市では傘、鞄、カードの所持数に上限が決められています。
傘は長傘が1本、折りたたみ傘が1本。
鞄は一つ。
各種カードは3枚まで、所持が認められています」
5人乗りエレベーターに乗り込む人数が4人になるまで、5分ほどかかった。
どうやらこののんびりしたスタイルがこの都市でのマナーらしい。
エレベーターの性能に問題は特になし。というか、最上階まであっという間についたところを見ると、機械の性能はかなり高いと言える。
「カード3枚というのは、厳しいですね」
国民健康保険と運転免許証を取得したら、実質持てるのはあと一枚までとなってしまう。
「ごみの排出量の削減を徹底するための方針です。
初期のころは傘、鞄、カードの使用を禁止にしようという案まであったらしいです」
禁止にされなくてよかった。
雨の日に全身濡れ鼠になって授業を受けるハメになる。
16階の最上階のエレベーターホールに出る。
構造は1階とまったく同じ様子だった。
あたりはしんと静まり返っている。
「788号室は……こちらですね」
エレベーターホールから4方向に伸びる通路の一本を進む。
何枚かのドアを通り過ぎた後、北山先生は1枚のドアの前で停止した。
「ここがあなたの部屋、と言うか家になります。
家賃は月額550円です」
「安っすいですね」
思わず声に出てしまっていた。
「この建物は最低500年、丁寧に扱えば1000年ほど使用することができます。
その年数と入居者数で建設費を割る計算式で家賃を設定していますので、こういう金額になるわけです」
「1000年間も使用できるんですか……」
「特殊な工法が用いられているとか。詳しいことは私にもわかりませんが、調べたければ図書室に情報があると思います。もしよければ。
一応、避難経路、というか、1階へ降りる方法もお教えしておきます。
この廊下の突き当りにドアが見えるでしょう。あそこから滑り台が1階まで続いています。
専用のソリをおしりに敷いて、滑り降りてください」
先生は何でもないことのようにそう言って、玄関のカギをポケットから取り出して見せた。
「失くさないようにしてくださいね。家のカギです」
玄関のドアは、周囲の壁や柱と同じく、特殊なコーティング(おそらく不燃処理)がなされた木製で、開き戸ではなく、横にスライドさせるタイプの引き戸だった。
「……結構広いですね」
殺風景な15畳の空間が私を出迎えていた。