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ほとんど異世界転生  作者: マウスノート
3/28

ライン型の理由

広い廊下を車いすを押されながら進む。

LEDの冷たい光が空間を照らしていた。


(窓がない……)


手元の電子端末に映し出されている都市の映像に視線を落としつつ、私は気づいたことを一つづつ質問していくことに決めた。

この北山という初老の医師は、こちらが黙っていると何もしゃべらないタイプのように思えたからだ。


「どうして、都市の形状がまっすぐライン型に伸びているのですか?」


なんとか噛まずに喋ることができた。

しかし声が小さかったようで、もう一度同じセリフを繰り返すことでようやく回答を得ることができた。


「この都市が建造された理由はたくさんあるんだけど、その中の一つに、核兵器に対抗するという名目が設定されているんだ。一般的な都市に核兵器が投下された場合、発生することが予想されているヘル・リングにおける被害者の総数を最小限度にすることを目指す場合、都市の形状はライン型になるんだよ。

検索、ヘル・リングとマイクに向かって喋って御覧なさい。イメージ図が出てきますよ」


言われるままに端末の右下に埋め込まれている小さなマイクに向かってそう言ってみると、一枚の画像が出てきた。



挿絵(By みてみん)



「核兵器に対抗……廊下に窓が無いのも同じ理由ですか?」


「その通り。さっきの病室にあった窓は、ドーナツ型施設の内側に張られたスケルトンガラスだ。ああ見えてかなりの強度がある。もっとも、核には対抗できないだろうから、その時には避難する必要があるけどね」



挿絵(By みてみん)



検索すると施設の解説画像が出てきた。

どうやらさっき森に見えたのはこの人工的に植えられた木々らしかった。


「すべての施設は厚さ1m以上ある強化コンクリートで覆われています。

これで小型の戦略核兵器による被害は最小限化できるようになっています。

もっとも、その代償として切り取られたインフラも結構ありますが。

さ、もうすぐ出口です。少し風が強いので注意してくださいね」


切り取られたインフラ……。

何だろうと私は思う。


木製の自動ドアが開くと冷たい風が全身に当たった。

次の瞬間、目に飛び込んできたのはだだっ広いコンクリートの広場だった。

どうやら円輪型施設の外に出たらしい。


「都市をライン型にしたことで、風通しが良くなりすぎてしまいました。これは想定外のデメリットの一つです。風が強いでしょう。寒くないですか? 」


少し寒い。

でも我慢できないほどでもなかった。

正午を少し過ぎたくらいの位置で輝く太陽の光が温かい。

ところどころに点在している人々の服装は、見る限り夏服といった感じだった。


「今は……何月ですか?」


「9月22日です。

風のせいで体感的には10月半ばのように感じますがね。

さ、あなたの部屋に行くことにします。

同じような建物ばかりなので迷わないように注意してください。小明さんが入る集合住宅のナンバーは091です。この数字を忘れないようにしてくださいね」


091。


先ほど画像で見た都市を、こんどは地上から眺めている構図になっていた。

緩やかな坂道を下る方向にずらりと並ぶのは、台形のような形をしたコンクリートの塊と、地上からは長方形に見えるドーナツ型の円輪型施設。それが見えなくなるまで、おそらく海の手前まで等間隔で並んでいる様子だった。

等間隔になっているのは見栄えが良いからだろうか? 

それとも万が一、核兵器が投下されたときに犠牲者数を最小限度にするために分散させるためだろうか?


「地面には厚さ1センチのコンクリートが敷かれています。

芝生にしようという案もあったようですが、水やりの手間がかかりすぎるということと、強風でゴミが目に入るのを防ぐためにこまめに掃除をするのに便利になるようにと、そういう理由からコンクリート敷きになったそうです」


それからしばらくは無言だった。

幅5,60mほどはありそうななだらかな傾斜の集合住宅を2個通り過ぎたところで、先生は前方に向かって指をさした。


「091番塔です。見えますか?」


よく見るとコンクリートの上のほうに黒いペンキでナンバーが記されている。


「見えます」


「ここの788号室があなたの部屋になります」


788?


「何部屋くらいあるんですか?」


「800個です。ちなみにすべての部屋は規格化されていて、まったく同じ形状をしています」


800?


「そんなにあるんじゃあ、部屋は狭いですよね」


4.5畳くらいだろうか?


「いえ、広いですよ。15畳ありますから」


15畳?


「そんなにあるんですか?」


「広さに関していえば、旧市街の建物と比較して優れていると言えますね」


旧市街……。

たった7年間眠っていただけなのに、さっきからずいぶんとたいそうな単語が使用されているなと私は思った。

まるで1000年くらい前の都市と比較されているような気がする。


「さあ入りますよ。まずここがエントランスです。郵便受けがたくさん並んでいますね。

毎朝ここに濡れタオルが一人につき2本、投函されます。体や顔を綺麗にするためのものです。

料金は無料です。福祉サービスの一環ですね。

そしてこの通路をまっすぐ進むとエレベーターホールに到着します」


「800人もいるのに静かですね。……誰ともすれ違わないなんて」


「それはエレベーターの仕組みがほぼ一方通行だからです。

車いすに関していえば、上りも下りもエレベーターを使用できるんですがね」


話しているうちにエレベーターホールに到着した。

最初の感想はこうだった。

ドアが多い。

しかもドアのサイズが3種類ある。

大、中、小。


「一人乗りエレベーターが7機、5人用エレベーターが6機、10人用エレベーターが4機あります。

一人で上がるときは、必ず一人用エレベーターを使用してください。5人用エレベーターを使う場合、二人しかのていないような場合は、しばらく上昇を待つのがマナーです。10人用エレベーターは基本的には使わないようにしてください。いいですね?」


たかがエレベーターにしては強い制約であるように感じられた。


「旧市街との比較で、どれだけ省エネできるかどうかという実験をしている最中でもあるのです。ご協力のほど、よろしくお願いします」


と言うことは下りは階段を使わされるのだろうか?

最上階からだとけっこう面倒だな。

考えながら私は足に力を入れ、車いすから降りてみた。

一歩、二歩、三歩。どうやら歩行に問題はなさそうだった。


「歩けそうです」


私は振り返って北山先生に向かってそう言った。

先生は笑顔で頷いて見せた。



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