ライン党
ライン党、という組織について、亜香里に教えてもらった。
この党は別名『リセット党』と呼ばれているらしく、その思想は過激の一言だった。
とりあえず一旦、全世界の都市をライン都市と同じものにしようと言う、非常に分かりやすくも、実現するはずのない主義主張を掲げてその勢力を拡大しつつある組織で、亜香里が所属する『旧市街地を守る会』とは犬猿の仲のようだった。
その講演会が本日、ライン都市の中の円輪型施設内の多目的ホールで行われるとのことだったので、聴きに行くことにした。
「このままでは地球がもちません。今こそ我々の手で徹底的に浄化するべきなのです!」
開口一番がそれだった。
しかし、よく聞いてみると、言っていることはデータに基づくものが多く、比較的にまともであるとも解釈することができた。
以下、ラインの14か条と呼ばれているものの宣言がなされた。
1、全世界の全ての都市を60年サイクルで造り替える今のシステムを根本的に見直すべきである。
2、余った労働力は全て地球の防衛、および浄化に回すべきである。
3、可能な限りの土地を余らせ、大自然へ変換し、傷ついた自然のサイクルを復活させるべきである。
4、スポーツ雇用や読書雇用や散歩雇用や瞑想雇用を本格的に広げ、【何も生み出さず、何も破壊しない雇用】を徹底的に増やすべきである。
5、全ての国家の独立を尊重し、戦争を防ぐべきである。
6、既存都市の寿命が尽き次第、世界中にライン型幾何学都市を建造し、都市の造り替えサイクルを1000年以上に伸ばすべきである。
7、段ボールを強化し、タッパーを用いることでペーパーレスを徹底し、樹木の伐採を最低限度にするべきである。
8、循環タッパー政策を採用し、プラスチックごみの排出をゼロにするべきである。
9、農業を拡大し、大飢饉に備えつつ、余剰分はバイオエタノールとして利用するシステムを早急に構築するべきである。
10、人口抑制は条約制として、違反した国家には経済制裁を科すべきである。
11、陸上交通網を刷新するべきである。
12、農薬の不使用を徹底し、動植物および昆虫や微生物の生態系を死守するべきである。
13、動物性たんぱく質は自然死した死肉と卵からのみ摂取するべきである。
14、過酷な労働となる上下水道ガス管の建設と維持は最低限度にとどめるべきである。
そこからは主として細かいデータを用いた質疑応答の時間だった。
一方的に主張を言うだけではなく、どちらかと言うと大人しく聴衆の質問を待って、それに丁寧に答えていくというスタイルだったのには少し意外性を感じた。
循環タッパー政策と言うのがよくわからなかったので、私は質問してみることにした。
すると、イラスト付きで詳しく丁寧に解説してくれるのだった。
「ありがとうございました。分かりやすかったです」
どうやら、思っていたよりもかなりまともな政党のようだった。
しかし、若干、時代を先取りしすぎているような気がしてならなかった。
どれもこれも今すぐにどうのこうのできそうな政策ではないものばかりなのだ。
循環タッパー政策に関しても、これをやると食品パッケージの包装を行う機械などがすべてお払い箱となってしまって、既存の雇用形態に大激震が走ることになってしまうだろう。
そんなことを地元の政治家たちが許すはずがないように思えた。
賛成するどころか邪魔されるのがおちである。
しかし、主張はまともなものばかりだった。
私は亜香里ほどには、このライン党が嫌いになれそうになかった。
と言っても、彼らが政権をとることは100%ありえないだろうが……。
翌日、私はレンタル自転車を借りて、自室から10キロほど離れたところにある老舗温泉に向かうことにした。
入浴だけなら700円で済むという。
この距離とこの料金、サービス内容なら、週1くらいで通おうかなと思える満足度の温泉だった。
「ふう……やっぱり、たまにはお湯にゆっくりつかるのも良いものね」
風呂上りには瓶入りのコーヒー牛乳を飲みながらマッサージチェアー(100円)に揺られることにした。
テレビではバスケットの試合が行われている最中だった。
そろそろ働かないとな……




