自然牧場と平野部の広さ
図書室で調べてみると、確かに面白い主張をしているグループが大勢いるようだった。
たとえば、ライン型幾何学都市に日本の総人口である1億3千万人を収容しようとすると、その都市の総面積は3000㎢となる。
これは日本の国土である38万㎢のわずか0.8%であり、日本の国土が有する平野部9万㎢と比較しても3.3%しかない。
余った平野部の土地8万7千㎢を全て農地にして、巨大な機械で効率的に米やサツマイモを栽培した場合、現状の50%程度の労力で、4億人分ほどの食糧が自給できる計算になるらしい。
現在は細切れにされた農地で極めて非効率な農業や畑作が行われているらしかった。
もちろん、その分、雇用は満たされているのだが、現実には年収200万円台の農家が多く、多くの農村が後継ぎ問題を抱えているらしかった。
驚きなのは、1億3000万人を収容するのに、たったこれだけの土地しか使用せずに済むという点だった。
しかもライン型幾何学都市はその名の通りライン状に細長く、しかもなだらかな坂道に建設するのが理想的なので、本来ならば都市開発には不向きな山間部などの安い土地を利用でき、しかも土砂崩れなどによる災害によるダメージを完封できてしまうので、立地条件等をそれほど悩まなくても、ごり押しで建てればあとは何とかなるという優れた特性も兼ね備えているのだった。
さらに驚きなのは、日本の国土の20%程度に当たる平地9万㎢の、さらに半分ほど(国土の10%程度)を利用するだけで、2億人分以上の穀物、野菜、そして自然死した家畜の死肉が入手可能という点だった。
特に家畜が自然死してから解体して死肉を食し、骨や革を利用するという生活スタイルは、大豆ミート以上に人道的な食物連鎖スタイルなので、ぜひ大々的に行うべきだという意見に私は賛成だった。
さらに全国に広がる河川敷や山際のじめじめした不毛の土地で、自然に生えてくる草を餌にして山羊を飼育すれば、それだけでも相当な量のミルクと自然死死肉、山羊革及び骨材が手に入るのだという研究結果も記載されていた。
「ふうん。これも面白い研究データね」
ネット上には【日本、終わった】とか、【夢のない時代】などという単語が溢れかえっている今日この頃ではあるが、やり方次第でいくらでも改善することが可能であるということがよくわかる研究内容だった。
問題はライン型幾何学都市が本当に1000年以上もそのまま使用できるのかどうかという点だったが、それについては問題ない様子だった。
強化コンクリートの内側と外側にゴム板とステンレス板を密着させ、内部には不燃処理を施した木材を用いて階層化させる。
最も軟弱そうな木材は、実のところ侮ることはできず、なんと確実に1000年以上使用することができるらしかった。
しかも耐震性に優れ、乾燥を防ぎ、保温性もあって、唯一の弱点である歩行などの振動音さえ住民たちの配慮で最小化することができれば、コスパ最高の素材になるとのことだった。
図書室で一通りの調べ物をした私は、それから広場に出て、そこから東側の山の手にずらりと並んでいる自然牧場を見学してみることにした。
一番近い牧場には牛がいた。
幸せそうに草を食んでいる。
たしかに、これをまだ元気な姿のままに殺処分して肉や革を奪うというのは、非人道的な行いであるように思えた。
20年ほど待てば、そこからは毎年毎年、自然に死亡する死肉を獲得することができる。
もっとも、これまでの経済スタイルでは、その20年待つ、というのがどうしてもできなかったのだろうが……。
モー、モーと鳴く牛をぼんやりと眺めながら、時折運ばれてくる家畜のにおいを吸い込みながら、私はしばらくそのまま思考を停止させていた。
このまま、いつまでも眺めていられそうな気がした。




