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王宮侍女アンナの日常  作者: 腹黒兎


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番外編 王宮侍女と蓼食う虫

コミカライズ配信記念SS


蓼食う虫も好き好き。

破れ鍋に綴じ蓋。

千差万別。

十人十色。

三者三様。


人の好みはそれぞれで、常識では測れないものがある。

例えば、ルカリオは私の変顔が好きらしい。変顔というか、他人にはなかなか見せない素の表情が好きらしいのだが、どういう表情がツボなのかは私にもよく分からない。

陛下の侍従たちの筋トレ愛もよく分からないし、とある文官が切った爪を小瓶に入れて収集している趣味も理解し難い。

まぁ、そういうのはその人の勝手だし、私と私の家族に害が無ければどうでもいい。

なぜそんな話をしているかといえば、昨日そんな妙な趣味の令嬢に遭ったからだ。


休憩という名の鍛錬に行ってしまったローガンに用事があったので急いで追いかけ、伝言を伝えた帰り道。植え込みの合間にしゃがみ込んだ人影を見つけてしまった。

王宮の敷地内とはいえ、ここはは西側の建物の裏手である。目隠しに植えられた木や植え込みの先には兵舎や鍛錬場や馬場しかない。騎士の鍛錬を覗き……いや、応援にくる目をギラギラさせたご令嬢方なら鍛錬場の近くに押しかけるはずだ。こんな植え込み付近から見えるのは、外周を走る姿ぐらいだし、それもあっという間に通り過ぎてしまう。

だから、具合が悪くてうずくまってると思うじゃん。

「あの、どこか具合でも悪いのですか?」

そう問いかけるとしゃがみ込んでいた令嬢はくるりと振り返った。

驚いたのはその美少女っぷり。

亜麻色の髪はふわふわと柔らかく、晴れた空のような水色の瞳はキラキラと輝き、ほんのりとピンクに染まった頰が愛らしい。十三才ぐらいだろうか、とても可愛い顔をしている。五才若ければ前国王の趣味にドンピシャじゃないかと思われる美少女である。あの変態に見つからなくて本当に良かったと思う。

美少女に驚いていると、彼女は「早く隠れてっ」と私の腕を強く引っ張った。

見かけによらず力が強い。思わず彼女の隣にしゃがみ込んだが、なんだこれ。

「……あの?」

「しっ。見つかってしまうでしょ」

この状況を訪ねようとしたら秒で眼光鋭く止められた。

なに?どゆこと?

私もまだ仕事があるんですよ。休憩中に走り込みをしているローガンたちに伝言を伝えてきたばかりで、また執務室に戻らなきゃならんのだ。暇ではないのだよ。

無言のまま時間が過ぎていき、痺れを切らして立ちあがろうとしたら「動かないで」とまた引き戻された。

このご令嬢、可愛らしい見た目なのに力が強い。掴まれている腕は痛くはないんだが、振っても動いても離れてくれない。

「あのぉ…」

「しっ!…いらしたわ」

再度問いかけようとすると、反対の手で止められた。

またか。

なにが来たんだろう。

ご令嬢が顔を向けているほうへと視線を向けると、ローガンを先頭にした休憩中の侍従たちが走っていた。

掛け声なのか「私だ!」とか「私が!」とか「うおおっ!」とか叫んでいる。普段よりウザったさが増していてなんかヤダ。ついでに暑苦しい。

ローガンに「共に走ろう!」と誘われたが断って大正解だった。今後も引き続き断っていこう。うん、それがいい。

つか、休憩時間は休もうよ。何してんだあの人たちは。

顔が判別できるぐらいには離れているローガン一行が左から右へと消えていく。おそらく、兵舎近くまで行って戻ってくるのだろう。何周する気だ。

ローガンたちが消えると隣にのご令嬢は私の腕を離して「もう行っていいわよ」とそっけなく答えた。

いやいや、不審者をそのままにしておけないでしょう?

「先ほどの者たちにが用事があるならお伺い致しますよ。私、陛下の専属侍女のアンナ・ロットマンと申します」

私が名乗ると、彼女は目を大きく見開いて驚いていた。

「貴女が……」

震える声で発せられた言葉に内心首を傾げる。

私のことを知ってる感じ?でも、私は知らないんだよなぁ。こんな美少女なら忘れるはずがないし。うーん、だれ?

彼女はすくっと立ち上がると真っ直ぐに私を見つめてきた。目が大きいせいか、目力半端ない。

私も立ち上がると、ちょうど目線が同じくらいだった。なんだか、親近感が湧く。

「貴女が、モリス様がお認めになった女性同僚ですのね。まぁ、こんな痩せて筋肉もないお方だなんて思いもしませんでしたわ」

言い方に棘を感じるのは勘違いだろうか。

いや、不躾な視線といい、好感は感じないな。

だが、言動が刺々しくとも年上の私が寛大な気持ちでスルーしてあげよう。

ええ、背丈は似ていても、私、大人の女性ですから。

「さっき腕を掴んだときも思いましたが、なんですのその筋肉のなさは。そんな細い腕でモリス様のお役に立てるとお思いですの?」

筋肉なくて悪かったな。これでも付いたほうなんだよ。

……てか、この人、ローガンの関係者?

様付けしているなら妹じゃなさそう。

「恐れ入りますが、お名前をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

尋ねると、彼女は仕方ないとばかりに息を吐き出すと姿勢を正して私をまっすぐに見つめた。

「私は、シェリーナ・ハイディン。ハイディン子爵の娘であり、モリス・ローガン様の婚約者ですわ」

「こんっ!うっしょっ……んんっ、失礼致しました。ローガン卿に婚約者がいると存じませんでしたもので」

思わず「うそっ」と言いかけたのを無理矢理飲み込んだ。

ローガン、婚約者いたんだ。驚き。いや、衝撃。

口を開けば「陛下」と「筋肉」しか語らないから、女性の影など思いつきもしなかった。考えてみれば結婚していてもおかしくない年だもんね。しかし、こんな美少女と婚約しているとか、からかいネタしかないじゃないか。

しっかし、歳の差エグいわ。シェリーナ様はどう見ても十三ぐらい。ローガンと軽く十以上離れてるんじゃない?

熱狂的な陛下ファンのローガンが、まさかのロリコン説。うわ、犯罪臭がする。やばいやばい。

でも、シェリーナ様はローガンが好きみたいだから、まぁいいか。人の恋路に口出したらダメよね。揶揄うぐらいでやめておこう。

「モリス様は謙虚でいらっしゃいますもの。ご自分のことを後回しにしてでも陛下に尽くすその忠義心、本当にご立派ですわ」

謙虚な奴は同僚を熱心に筋トレに勧誘しないと思う。

「せっかくいらしたのですから、ローガン卿をお呼び致しましょうか?今は休憩時間ですので、お二人でお庭の散策でも……」

「まぁ!なんてことを!」

「………あの」

せっかく婚約者が来てくれたのだ。陛下一辺倒のローガンとはいえ、婚約者に時間を割くだろうと提案したのだが、婚約者の彼女から「信じられない」と言わんばかりに驚かれてしまった。

「私にモリス様の貴重なお時間を奪えと?あんなに活き活きと走っておられるのに、私にその邪魔をしろとそうおっしゃるの!?」

「申し訳ございません。そのようなつもりではございませんでした」

「まったく、これだからモリス様の偉大さを理解していない者はダメなのよ。そのような学の無さでモリス様と並び立とうなんて、恥をお知りなさい」

「…申し訳ございません」

すまん。何を言っているか分からない。

もしかして、シェリーナ様も筋肉教なの?え?こんな小柄な美少女が筋肉フェチなの?ローガンと同類なの?

うっそぉ。

筋肉隆々には見えないが、その可愛らしいドレスの下には割れた腹筋が存在するの?腕を振り上げて背中の脊柱起立筋を寄せたり、僧帽筋を盛り上げたりするの?

もう、とりあえず謝っておこう。そしてそっと離脱しよう。ローガンもその婚約者も私の理解の範疇外にいるようだし、ここにいる意味はなさそうだ。

「では、私は、これで」

言葉を濁しながら軽く礼をすると、急いで離脱。でも、走らない。涼やかな顔でなるべく早く歩くのだ。ええ、私、できる侍女ですから。

だが、見えないところでは走るよ。

要らんことで時間潰したわ。



休憩時間を終えて戻ってきたローガンたちは、運動したことで上気した顔と、やり遂げた高揚感で満ちていた。それを尊敬の眼差しで見つめる侍従が多いこの場所は、国王陛下の執務室である。

陛下、このままでは筋肉バカの集まりになりますよ?

視線が合った陛下は、私の考えを読み取ったのかふっと笑って目を逸らした。

陛下、諦めないでください。

仕方ない。私の憂さ晴らしの為にローガンを揶揄ってみよう。

「モリス卿。愛しの婚約者殿にはお会いできましたか?」

ささっと近寄り周りにも聞こえるように尋ねてみた。

「む?なんのことだ?」

「先ほど、婚約者という方にお会いしました。とても可愛らしいお方ですね」

「ふむ。彼女が来ていたとは知らなかった」

顎に手を当てて頷く姿に、本当だったのかと言っておいて驚いてしまった。

婚約者という言葉に周りがざわつく。

「まさか女史が…」

「嘘だろ…」

「明日は公休を取るぞ」

なにやら不穏な声しか聞こえないが、ローガンの表情に変わりはない。

周囲の恐れようはどうしたことか。あの婚約者を偏愛している彼女を女史というには無理がある。まさかあの容姿で私よりも年上だというのだろうか。

前例があるだけに無いとは言いきれない。

「アメリア嬢が来ているのかい?そんな報告は受けていないが、誰か確認してくれ」

陛下もご存じだったんですね。……って、え?

「あ、あの、アメリア嬢ってどなたでしょう。私がお会いしたのはハイディン子爵令嬢ですけれど……」

手を挙げて恐る恐る聞いてみると、部屋中のみんなが驚いた顔をしたあとに「あー、なるほど」と納得した顔をした。

なに、なに?どういうことですか?

「ハイディン子爵令嬢というとシェリーナ嬢か…」

陛下が困ったようにこめかみを揉む。

そして周囲の「いや〜良かった」という安堵の声。

誰か説明を、説明をお願いします。

「ハイディン子爵令嬢は従姉妹なのだ。昔から『お兄様のお嫁さんになる』と可愛いことを言ってくれていたのだが、まだそのようなことを言っているのだな」

困ったものだ。とローガンは首を振るが、あの子ガチでしたよ?「困ったもんだ」と軽く終わらせるような案件では無さそうですよ?

部屋中が「なんだ。そうか。はい解散」みたいな雰囲気なのだが、いいのかそれで?

とりあえずシェリーナ嬢は要注意人物と思っておこう。以降、関わりたくないけどね。

それよりも、みんなに恐れられている本当の婚約者が気になるんですが!?誰か教えて!

すでに聞ける雰囲気でなくなったので、後日聞き出そうと心に決めた。


お読みくださりありがとうございます。


知らぬうちにコミックが配信されていたので、お祝いSSとして投稿します。

お祝いなのに、ローガン主人公みたいなのはなんでやねん。って自分でも思いますが…。

アメリア嬢は、ローガンよりも二つ年下で、自分の研究に没頭している人です。主に人体とか骨格とか。

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うわ懐かしい!! そして何より祝!コミカライズ配信!! コミカライズ版アンナさんは小説版1巻の初々しさよりも小説版2巻の図太さに近いキャラデザ? メイド仕事の気苦労を考えるとこちらの描写の方が親しみや…
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