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王宮侍女アンナの日常  作者: 腹黒兎


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65.王宮侍女は真実を求める


カーテン越しに室内に降り注ぐ光が、朝というには少し時間が遅いことを教えてくれる。

気だるい目蓋を押し上げれば、その眩しさに眉間に皺が寄る。

起き上がるのも億劫でごろりと仰向けになる。

あー、だるい。そんで頭痛い。

なんでこんなにだるいんだろう。

ごろりと反対方向を向けば、すやすやと眠るルカリオさんがいた。


「ぅひゃおぇ」


びっくりしすぎて変な声出た。ついでに心臓が跳ねてバクバクしてる。

うぇ。な、なんで。隣にいるの。

うわ、まつ毛長っ。口ちょっと開いてる。

いや、違う。そうじゃない。

ルカリオさんの目蓋が気だるげにゆっくりと開いた。

私と目が合うとふわりと柔らかく微笑まれ、危うく朝からときめいて死にそうになった。


「おはよう、アンナ。調子はどう?」

「お、おはよう、ございます。調子?調子はよろしいかと思われますです、はい」


テンパってるのでもう何を言っているのか分からない。

朝から!朝から色気が漏れてますけどぉ!!

居た堪れなくて、体にかかっていたシーツを引き上げて潜り込む。

シーツ越しにルカリオさんがくすくすと笑い、頭を優しく撫でられた。


「先に支度をしてきます。アンナはゆっくりしていてください」


足音が隣の浴室に消えるまで詰めていた息をようやく吐き出す。

そして、シーツに埋もれながら思い出す昨晩の出来事のアレコレ。


やってしまった。

やってしまったああぁぁぁ!!

どうしよう。寝ちゃったよ。

寝ちゃったんだよぉぉ。

どうすればいい?この後どんな顔で会えばいいの!?

あんな誘い方しといて、私、爆睡してしまったっ!!




どうも。

意を決して婚約者をベッドに誘ったのに爆睡した女です。

………何がいけなかったんだ。

準備してもらったお湯が冷めるからと、先にお風呂に入ったのがいけなかったのか。

ルカリオさんを待つ間、緊張に耐えられずに寝酒として置かれた酒を確認もせずに飲んだのがいけなかったのか。

舞踏会でほとんど食事が取れなかったお腹にアルコール度数の高い酒を入れたら酔いも回るよね。そうだろう、そうだろうとも。

ふらふらしながらベッドに倒れ込んで、あー、柔らかい、気持ちいいと思ったとこまでは記憶がある。それ以降はさっぱりだがな。

目覚めたら朝だった。

なんてこった………。


なんかふわふわして、くすぐったくて、暖かい夢を見た気がするが、もう覚えてない。

……え?シテないよね?ヤってないよね?

そんなことをルカリオさんに聞けるわけがない。聞けるわけないじゃんかっ。

ヤってたら流石に体に違和感とかあるだろう。

今感じるのはダルさと頭痛と胸のムカつき。

これは、そう、二日酔いだ。


……終わった。

何かが色々と終わった気がする。

何もしてないのに終わった。いや、何もしてないから終わったのか。

そんなことよりこの後、どうすればいいの?

どんな顔して会えばいいんだよぉぉぉ。


「アンナ」


ジタバタと身悶える私のすぐ側で声が聞こえ、ピタリと動きを止める。

私を守る薄いシーツがゆっくりと剥がされ、頭と肩が外気に触れた。

そろりと見上げると、身嗜みを整えたルカリオさんが柔和な笑顔を浮かべている。

あれ?怒ってない。

お預けを食った状況だったのに、怒るというより機嫌が良い?なんで?


「朝食を頼んできますね。食べれそうですか?」

「軽いものなら…」


本当は食欲なんてない。だが少しでも食べないと二日酔いが悪化しそうな気がする。食事は大事。

私の返事に一つ頷くと、私の髪を梳きながら手に取った一房にキスを落とす。

ぬおぉぉ。行動がイケメン過ぎる。

私の婚約者がイケメン過ぎて、どう反応したらいいのか全然分からない。

あわあわと狼狽える私にふふっと色気漂う微笑みを向けると、頭をひと撫でして離れていく。

さっきまでは逃げ出したいような気持ちだったのに、離れていかれると寂しくて引き止めたくなる。

うぅ。なにこれ。

胸の奥がぎゅうぎゅうする。

なにこれぇぇ。

奥歯を噛み締めてルカリオさんの背中を見ていたら、不意に振り返って彼が戻ってきた。


「昨晩は、とても可愛かったですよ」


は?

言うだけ言うと、驚きに目を見張る私を置いてルカリオさんは部屋の外へと出ていった。

可愛かったって、なにが。

え?シたの?ヤってないの?

え?どっち?

どっちなんだよぉぉぉお!!




朝食の時もその後も、ルカリオさんが真実を話す事はなかった。

恥を忍んで水を向けてもかわされる。直球で聞けるわけないからぼかすのに、話を変えられたり逸らされたりして聞きたい事が聞けないままである。

この外交官めっ!

有能な婚約者が憎い。

もういい。シてない。うん、シてない。

だって、体に違和感はないし、パジャマ着てたし。あれ、ルカリオさんは服着てた?覚えてないぃぃ。

まぁ、アレとかソレとか?大丈夫だったし、印は無かったし。

うん、ヤってない。決定。


「何か気になるの?」

「も、申し訳ありません」


王太子妃に声をかけられて我に帰る。

マッサージ用のクリームをかき混ぜている最中だった。

いかん、いかん。仕事中だった。

クリームを手に取って温めてから王太子妃の顔に手を当てて、小顔マッサージを始める。

今晩の晩餐に向けての準備の為に王太子夫妻のお部屋にお邪魔している。ちなみにルカリオさんは侯爵様とお仕事らしい。ほっとしたような寂しいような………って、寂しくないっ!ないったら、ない。

普段、春風みたいに無害で爽やかなくせに、昨夜と朝の色気は何事だ。破壊力がありすぎやしないか。


「大丈夫?」

「はい。大丈夫です。申し訳ありません」


いかん。切り替えろ。仕事中なんだから。

今回はマッサージだけ。流石にヘアメイクは専属侍女さんが色々心得てるので、私の出番ではない。

この後、王太子の脚マッサージにいかなきゃいけないしね。


「あら。……貴女、デコルテもちゃんと白粉を塗っておいた方が良いわよ」


マッサージを終えて、王太子妃の侍女が自分の首から肩までを指で指し示して教えてくれた。


「? はい。ありがとうございます」


今日着る予定のドレスは首まで隠れるタイプなので塗る必要は無いのだが、彼女は知らないから忠告してくれたのだろう。

王太子妃のドレスがデコルテが綺麗に見えるドレスだからね。似たようなドレスを着る勇気なんて無い無い。


クリーム等を入れた鞄を手に隣の部屋へと移動する。次は王太子の脚である。

侍従と護衛が見守るというか見張る中でやらなければいけない。正直にいえばめんどくさい。

だが、やらないという選択肢は与えられていない。けっ。

王太子は男性ということで、遠慮はいらないだろうと、ベッドに横になってもらう。


「座ったままではいけないのか?」

「座ったままですと、私の体が殿下に近づきすぎますので」


昨日、王太子妃にやってたのを見てただろう。思い出せ。

座ってやると、私の上半身が相手の脚に触れる場合もあるんだよ。私も女性なので察して欲しい。

王太子妃にも、ルカリオさんにも申し訳ないだろうが。

言いたいことが伝わったのか「なるほど」と頷いて、大人しく横になってくれた。

今度は服の上からなんだけど、一応タオルをかけておく。そして、容赦なく指で押し上げる。


「うおっ!」


王太子らしかぬ悲鳴に内心にやりとしながらも、しれっとした顔で「痛みが強いようでしたらおっしゃってください」と告げておく。

プライドが高ければ「痛い」とは言えないと思っていたが、意外にも「少し痛いな」と正直に告げてきた。

男の人って強がる事が多いから、この答えにはちょっとびっくりした。

王太子が私に泊まっていけなんて言うから、このもやもや状態になったわけで。意趣返しの気持ちがあったのだが、こうも素直な反応をされて少し反省する。

力を抜いていつもより丁寧にマッサージをしたら、終わった頃には軽く寝ていたようだ。

気持ち良かったようでなによりです。


「其方はどこでこのような技術を身につけたのだ?」


荷物を片付けている最中に王太子に聞かれた。

まぁ、普通の侍女は足のマッサージなんてしないわな。


「市民街にほぐし屋という店がございます。縁あって仲良くなった店の方に、足の疲れが取れると教えて頂きました」

「妃にしていた顔のマッサージもその店か?」

「はい。互いにヘアメイクに興味がありますので、話の延長で特別に教えて頂きました」


女装でどこまで小顔に見せられるかっていうの大事だからね。メンバー同士で研究してますとも。

私の話を聞くと王太子は何やら思案している。

これ、お店に連絡いくパターン?

やべ、帰ったら先に連絡に行こう。怒られはしないだろうが、驚くだろうなぁ。ごめん、キティちゃん。


「ああ、そうだ。ルカリオ・ガルシアンに伝言を頼む」

「はい。どのようなことでしょうか」


退室しようとする私に声がかかったので振り返れば、王太子は意地悪そうにニヤっと笑って、左手で自分の耳の下辺りを指差した。


「跡をつけるなら場所を考えてやれ。とな」

「?はい。畏まりました」


部屋を出て歩きながら王太子の言葉を反芻する。

跡?と首を傾げる。

そういえば、王太子妃の侍女からもデコルテがどうのと言われたな。

部屋に戻って何気なく指し示された場所を鏡で確認すると、虫刺されのような赤い跡があった。

痒くないし、虫刺され跡の盛り上がった感触もない。

これは、噂に聞いた、あの、キスマーク!?

は?え?マジ?誰が?

誰がってルカリオさんしかいないじゃん。

寝てる間にヤられたの?

いやいや、そんな寝てる相手に無体を働くような鬼畜な人じゃない。

いやいや、最後までは無い。多分無い。なら、途中までして寝落ちしたの?

いや……。いやいや、ちょっと待て。落ち着け。

なぜか唐突にビードル夫人のにんまりとした笑顔と「あら、まぁ。お熱いわねぇ、おほほほほ」という幻聴まで聞こえてくる気がした。


てか、これか!

王太子妃の侍女や王太子が言ってたのはコレか!

もっとちゃんと教えてよ。直に言われても恥ずかしいけどさ。

付けたまま歩き回っていた事実に耐えきれず、しばらくうずくまって動けなかった。


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― 新着の感想 ―
[良い点] アンナさん貴女という人は……(笑) 上機嫌なルカリオ氏……ギリギリ見えちゃう所にワザと印つけました? 抱きしめて添い寝だけだとつまらないし所有印かなー泥酔したアンナさんがよっぽど可愛かった…
[一言] そろそろアンナに脇腹を全力でぶん殴られそう
[良い点] とうとう本当に朝チュンだ~ヾ(*´∀`*)ノ おめでとうございます~~~ヾ(*´∀`*)ノ と盛り上がったところで、コレ… ルカリオさんの心の広さが眩しい^^; [気になる点] 読後当…
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