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30.王宮侍女はウソがつけない

2ヶ月ぶりの更新になります。

遅れてすみません。言い訳は活動報告にて。



買い物デートから早1週間が過ぎ、ルカリオさんからプレゼントだという小箱が美文字なカードと共に届いた。

『使ってください』という内容をお貴族様らしく美辞麗句で彩られたカードを読んで箱の中を確認する。

箱にびっしりと詰められた魔法粉にルカリオさんの本気が垣間見える気がした。

そんなに気に入ったんだ。いや、薦めたのは私だけどさ…。

趣味に関する情熱って凄すぎる。

そこまで本気ならば、私も負けてられない。これを使って誰よりも綺麗にして差し上げようじゃないか。


せっかく魔法粉がたくさんあるので、口紅とファンデーションとか色々混ぜてみた。

市販品があるにはあるんだけど、自分でやると好きな色の物が作れるし愛着が湧くじゃない?

中でも気に入ったのはボディクリーム。薄く伸ばすと肌がキラキラして綺麗なんだよね。

うっすらと煌めく感じになるまで配分が難しかった。入れ過ぎると下品になるし、足りないとなんだかゴミが付いたみたいになるからからね。

クリームも上手く混ざる物と混ざらない物があったり、なかなか大変だった。大変だけど楽しかったし、完成した時は達成感に震えたね。

ハンドクリームも試したんだけど、手がきらきらするのって仕事する時はちょっと気になるんだよね。水仕事だとすぐに落ちちゃうし。

ハンドクリームはちょっと失敗かなぁ。少なくとも私は使わないや。


今日は仕事なので普通のハンドクリームを塗ってみた。

なんの変哲もない右手を開いたり握ったりと動かし、目の前で手の甲や手の平をじっと見る。

そんなに手荒れは無いけれど、令嬢の手かと言われれば違うと言える。クリフォード侯爵令嬢の手に比べたら雲泥の差だろう。

彼は、こんな手にあんな事して、何が楽しかったのか。

あれは、なんのつもり……いや、まさか、ないない。そんなはずはない。多分。無いハズ。

そうじゃなきゃオカシイ。


「アーンナちゃん。手、どうかしたの?」

「うぇおっ。ビックリしたぁ。なんだ、エレンか」

「えー、ひどぉい」


急に声をかけられて一瞬心臓が跳ねた。

驚かすなよ。か弱い心臓がバクバクしてるわ。

斜め後ろからやってきたエレンはプクッと頬を膨らまして抗議する。

そういう仕草は未成年までだと思う。


「手。怪我したの?」

「え?ううん、してないよ?」


なんでそんな事を言うのかと首を傾げたら、右手の指を左手で抱きこんでいた。


「………。うわっ」


慌てて手を離してスカートで手を軽く叩く。

エレンから見たら右手の指を怪我でもしてるように見えたんだろう。


「顔、赤いよ?」

「な、なんでもないっ。そう、なんでもない。大丈夫、なんでもない」

「ふふふ。変なアンナちゃん」


今日の担当場所は、エレンと途中まで一緒なので雑談をしながら歩く。

会話のほとんどはエレンの恋話だ。あれだけ騒いだハンスとは別れて、今は新しい恋に爆進中なのだそうだ。たくましい。


「アンナちゃん」


不意に会話が途切れた後、エレンがクイッと私の袖を引いて立ち止まった。

いつもより真面目な顔つきだったので、珍しいと思いながらちゃんと聞こうと足を止めて向かい合う。


「あのね。嫌な気持ちにさせちゃうかもしれないけど、黙ってるのも気になるから言っちゃうんだけど」

「うん。なに?」

「あのね、身の回りに気をつけてね。私、偶然だけど、メイドさんたちがアンナちゃんの悪口言ってるの聞いちゃったの。だから、その、何かあるか分からないから、気をつけてね」


エレンの言葉に『まさか』と思ったけど、同時に『やっぱり』とも思う。

掃除する場所に人が来なかったり、変更の連絡がなかったり、話しかけてもよそよそしかったり。

なんかもやーとした事が多かったけど、アレか!ついでにアレとかアレとかアレもそうか!なるほどね!色々と納得したわ。くそったれ。

思い出して顔が凶悪になっていたのか、エレンから心配されてしまった。


「大丈夫。ちょっと色々納得したとこだから」

「私、あまり役に立たないけど、グチとかお話はいつでも聞くからね」

「…ありがとう」

「いつも聞いてもらってるらね。お返し」


エレンのくせに。ちょっと感動したじゃないか。


「でもぉ、アンナちゃんが簡単にやられるなんて思ってないけどね」


前言撤回。感動を返せ。

えへへと笑いながら手を振って別れたエレンを見る目が思わず半目になった。




王宮で働く女性は侍女とメイドに大きく分けられる。

侍女は貴人のお世話が主だが、王宮の各省のお手伝い等もある。メイドは洗濯・掃除・調理補佐が主な仕事で基本的に裏方。

メイドになるには紹介状と面接が必要だが、侍女の場合は2通以上の紹介状と年に1回ある採用試験に合格して面接を通らないとなれない。けっこう厳しいんだよ。


自慢じゃ無いが、その採用試験に私は合格している。

姉の淑女教育があんなに役に立つとは思わなかった。ついでに兄たちから教わった勉強もちょっと役立った。家畜の知識はいらなかったよ、父さん。

頑張って侍女で採用されたのに、仕事のほとんどがメイドの仕事ってのが意味不明。仕事内容は嫌いじゃないし、お給金はちゃんと貰えてるからいいんだけどさ。

侍女の方がお給金高いんだよね。いいの?

下っ端が改善を申し出るには、侍女頭補佐に話して侍女頭から侍女長に話を通してもらわないといけない。その上で現状を調査して改善という形になるんだってさ。

あのすこぶる評判の悪い侍女長がただの侍女一人の為に動いてくれるとは到底思えないので、とりあえず不都合が出るまでそのままにしてある。


今の侍女長はカンドリー伯爵の妹さん。妹って言っても40歳前後の独身様。

女性には厳しいのに男相手だと態度が変わるとか、権力に弱いのに部下には強気だとか、悪評はゴロゴロ出てくる。

変な若作りが異性にも評判が悪い事に本人だけ気づいてないらしい。白く見せようと肌と合ってないファンデーションを厚く塗ってるから余計に年齢が目立つと思うんだよね。

婚期を逃した嫌味な行かず後家だとおばちゃんたちが言っていた。

おばちゃんたちは本当に歯に衣着せずと言うか、表現が的確で容赦がない。見習いたいとこである。


「年相応って言葉を知らないんだろうね。見てる方が恥ずかしくて仕方ないよ」


マチルダおばちゃんが嫌そうに話してくれた事がある。王妃様の遠縁ってのも気に入らないみたいだった。

マチルダおばちゃんって何気に王妃様嫌いだよね。昔、何かあったんだろうなぁ。闇が深そうで聞けないけどね。





見事にすっ転んだ地べたからゆっくりと起き上がる。

上半身を起こして座ったまま手を払い、上半身に付いた汚れを払い落とす。

あー、手の皮が擦れた。擦り傷から血が滲んでるのが地味に痛い。

でも手よりも両膝の方がジンジンと痛みを訴えている。たぶん、手よりも擦りむいてる。

あー痛い。まじで痛い。クソムカつくぐらい痛い。

慎重に立ち上がれば、膝から血が出てるみたいでスカートの裏地が張り付いている。

ヤバイ。けっこういってる気がする。見るの嫌だなぁこれ。


「あらら、大丈夫?最近浮ついてるから足元が疎かになってるんじゃない?」


腕を胸の前で組んで見下ろしてくるのは、キャロライン・ブロッケン。キツめの性格に相応しいつり目に、濃いめの化粧をした男爵令嬢。

ムラのあるファンデーションとか左右で長さも角度も違う眉とか塗りすぎてるチークとか、その化粧は個人的にどうかと思うが他人事なので口は挟みませんとも。

平民が多いメイドの中で貴族令嬢だと低めの鼻を高くしている人なので、あまり関わりたくない。

面倒くさい臭いがぷんぷんしてる。


「平凡で地味な平民のくせに最近生意気なのよ」


平民じゃねーっての。

メイド仕事するのにわざわざ家名まで名乗らないし、この人と仲良くなりたいわけでもないから誤解を解く気もないけどさ。

キーキーと高い声で捲し立ててるのを聞き流しながら落とした箱を拾う。割れ物じゃなくて良かった。

足かけたんだからお前も手伝えと言いたいが、余計な手間になるので黙っておいた。


「ちょっと聞いてるの!?」

「はいはい聞いてますよ。では、仕事があるので失礼します」

「はぁ?誰に向かって口を聞いてるのよ」


貴方にですが?

他に誰が?もしかして目には見えない誰かが見えてるとか。

やだ怖いわー。


「サボりは減給になりますよ?」

「はぁ?サボってないわよ、ちょっと休憩してただけよ。貴女と違って貴族の私は色々と忙しいのよ」


いや、それサボりじゃん。

仕事に平民だろうが貴族令嬢も関係あるか。

確かに私と貴方は違うけどね。そっちは親の代で成り上がった男爵家で、うちは数十代続く由緒正しき貧乏男爵家だ。

うちの家系に手柄を立てようとか爵位を上げようとする気骨のある人物はいなかったらしい。初代から爵位も領地もほぼ変化してないと聞いた事がある。うちらしいと言えるかもしれない。


「さすが貴族令嬢様は色々と大変なんですね。そう言えば、今日は抜き打ちがあるとかないとか……。あ、貴族令嬢様には関係ありませんね」


そう言えば高飛車女は慌てて走り去って行った。

少しの段差に躓いて転けろ。けっ。

だけど、そんなに急いでも間に合うかな?


ごめん、ごめーん。間違えたわ。

抜き打ちは今日じゃ無くて、3日前に終わってたわ。

アンナちゃん、うっかり。てへ。


3日前は彼女と同じ議会室の掃除だったけど、彼女ともう1人は最初から最後まで来なかった。おかげで200人入る議会室を2人で掃除する羽目になったんだよね。

もぉ中腰で椅子とか机拭きまくったから、腰が痛いのなんの。次の休みにはほぐし屋に行かなきゃ。

途中で監査っぽいメイド頭補佐の人に「他の2人は?」って聞かれたからちゃんと正直に答えてあげましたとも。嘘なんてとてもとてもつけませんもの。

誇張もなくきちんと、最近全く仕事中はお見かけしないと伝えておきました。気が利くな〜。


遠慮なく減給して差し上げてくださいませ。

むしろあれだけサボってて減給ですめば御の字じゃない?


ちょっと説明回でした。

メイドを束ねるのがメイド頭。侍女を束ねるのが侍女頭。その上司が侍女長になります。(それぞれ補佐がいます)


※ 内容を見直し、アンナの年齢を19から18に変更しました。物語に影響はほぼありません。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 待ってましたーーーっ!! とうとう怪我をさせるような嫌がらせが出てきましたね。 膝の擦りむきは意外と跡が長く残るのでいけませんね。 乙女(乙女ですっ)の柔肌に傷をつけやがるとはっ!
[良い点] そういやアンナさんは侍女なのにお仕事は掃除とか掃除とか掃除ばっかりで、なんで下働きばかりしているのかな〜?と不思議でしたww そっかぁ……なぜかいじめられていたのね……(つД`)・゜・
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