2.王宮侍女は部屋案内をする
今日は早朝に謁見室の掃除を済ませて、朝食を取ったら、次は大広間です。明日の夜に舞踏会があるんで総出で綺麗にします。
出席予定?
そんなもんあればここで鏡を磨いてないですよ。
かたっ苦しいの苦手だからいいけどね。それはいいんだけど、翌日の片付けがなぁ……。
床に落ちた料理にカーテンに付いたワイン、そして庭やバルコニーに散らばる情事の跡。
ため息しか出てこない。
食べて飲んでヤルとか、動物か。
はぁ、ヤダヤダ。
普通に「おほほ」「うふふふ」ってお喋りだけで止めてくれないかな。
あちこちで盛るなよ。後始末してる奴の事を考えて欲しい。
そんな脳があるならヤらないわな。
諦めて鏡をピカピカに磨いて、なんちゃらの男性像を磨き、なんたらかんたらの鳥の剥製に優しくハタキをかけていく。
そうは見えないけどお高いんだろうなぁ。
大広間をお昼を挟んで午後すぎまで掃除して、次は客室や従僕の方たちの控え室です。
自分の受け持ちの客室へと向かう。
一部屋を手早く済ませて、隣の部屋の扉を開けると人がいた。しかも半裸の男女はベッドの上で、どう見てもやる気満々の様子。
やっちまった。
「……。失礼いたしました」
ソソっと後退りして扉を閉める。
ちょっとおおおおお!ナニしてんだよ!ナニしようとしてんだよぉ!
普通に仕事をしようとした私は悪くない。悪いのは昼間から盛っているお前らだ。
恥じらいとか羞恥心を持て。
しかし、あの2人には無理だろうな。そんな言葉すらプレイにしちゃいそうだ。
男はいわゆる遊び人で、女は浮気三昧の貴族の奥様だ。
バッタリ出会うのは避けたいので、隣の隣の部屋の掃除を始める。
あの後再開するんだろうか。あの気まずさを物ともしない強者ってすごいな。まぁ、そのくらいなければ昼間からヤろうなんて思わないだろうね。
あっという間に舞踏会の夜である。
綺麗なお仕着せを着て働いております。働くと言っても目立たぬように隅に控えて、ご用事があればお呼びくださいとすまし顔で立っているだけです。
仕事が無い様に見えて意外とあるんだなぁ。
休憩室への案内とか、休憩室の案内とか。
本当にどうしようもないな、貴族共め。私もその端くれだけれども、羞恥心とか道徳心とかちゃんとあるから。
そんな中呼び掛けられて、振り向いたら奴がいた。
昨日、真昼間から盛ってた男。遊び人と噂高いユリウス・ベネディクト子爵。
たかが子爵と思う事なかれ。侯爵家の次男なので、親の余った爵位を貰っているボンボンだ。放蕩息子ってのはコイツの為にある言葉だと思う。
色の薄い金髪は羨ましいほどにツヤツヤサラサラで、切れ長の目や薄い唇が少し冷たく見えてクールで素敵と同僚が騒いでいた。
そんな外見のくせに、女性を褒める言動を惜しまないらしい。
同僚曰く「髪型はもちろん、香水を変えても気がついて褒めてくれる」らしい。
豆男だ。
あれだ。高級娼婦の男版だ。
私が目撃しただけで、5人の女性と遊んでいる。令嬢だけじゃなくどこそこの夫人もいた。
週7日のうち5日も潰れるわ、バッティングしないように調整しなきゃいけないんだよ?めんどくさくない?
よくそんなに相手ができるな。呆れを通り越して感心するわ。
私は1人さえも持て余してるのに。なんて言ってみたい。どうせ1人もいないよ。
奴はやはり休憩室の案内を頼んできた。
後ろの女性と雲隠れですか?まぁ、ごゆっくり。あんまり汚さないでね。
つか、後ろの女性って……。
教えといた方がいいのか迷うなぁ。いや、知ってるのかな。
迷ったが、やっぱり一言だけ伝えておこうか。寝覚めが悪いのはやだしね。
控え室へと着いた時に「子爵様」と声を落とせば、彼は女性を先に部屋に通してからこちらに目で問いかける。
「申し訳ありません。確認ですが、ご存知の上でございますよね?」
奴は不機嫌そうに「もちろんだ」と鼻を鳴らしたので「大変失礼致しました」と頭を下げた。
知っているのならば問題ない。
問題なのは、明日の掃除だ。出来るだけ汚さないで頂きたいものだ。まぁ、無理だろうけどな。
明日の片付けや掃除の事を考えてため息を吐いた。
3日後、珍しく表向きの用事をしていた私は、何故か奴に呼び止められた。
なんだと言うんだ。ちゃんと詫びはしたよ?
アレで足りないとはどんな高慢ちきだ。
「何か御用でしょうか?」
理不尽だなぁと思いつつもちゃんと応対する私は大人だ。うん。完璧。
ちゃんと対応してやってんのに、奴は不機嫌全開だ。
「君は知っていたのか?」
おい、ちゃんと文章を完成させろ。
意味が分からん。
「何を、でしょうか?」
「とぼけるな!彼女の性癖をだ!」
ああ、アレか。
「ちゃんとご存知の上だとお聞きしておりますので、問題はないかと…」
「大有りだっ!」
短気か。
やめろ、唾を飛ばさないで欲しい。
なぜか激怒する奴を冷めた目で見返す。私はちゃんと聞いたよ?そしたら知ってるって言ったじゃん。
ほら、問題ない。
「意味がわかりませんが」
「私は、部屋の使用方法についてだと思ったんだ」
何言ってんだコイツ。
部屋の使用方法なんて改めて聞く事でもないだろう?休憩しない休憩室とかなんの意味があるのか知らないけどねー。
ああ、めんどくさい。
「それは、言葉が足りずに申し訳ありませんでした」
深々とお辞儀をしながら、熟女の毒牙にかかったのか気になったが、翌日の掃除でそんな痕が無かったから逃げ出したんだろうなぁ。
謝ってとっとっと逃げ出したかったが、奴がネチネチとグチり出した。
日中にそんな内容喋るなよ。こっちは忙しいっての。
右から左へ聞き流してたのが良く無かったんだろう。聞いてないと怒られた。
解せぬ。
新キャラ出ましたが、現時点でヒーローの予定ではありません。ただのクズ男です。