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16.王宮侍女は復讐する

物騒なタイトルですが、タイトルだけです。


厚い灰色雲のせいで昼なのに薄暗い。

昨日までの雨はあがったものの、外の地面は濡れているし空気もじめっとしている。

早くカラッと晴れてくんないかなぁ。


「もう!アンナちゃん、聞いてるの!?」


窓の外を見ていたら怒られた。

仕方なく視線を戻せば、ハンカチ片手に頬を膨らませた侍女仲間のエレンが睨んでた。


「はいはい。聞いてます」

「それでね、ハンスったら酷いのよ。私よりターニャの約束を優先させるのよ!」

「だから、そんな不誠実な男とは別れたら?」

「でも、でも、ハンスが好きなのっ!愛してるの!ハンスだって私が好きって言ってくれたもの」


そう言っておいおいと泣くエレンを見つめて、心の中でため息を吐いた。

ああ、めんどくさい。

他人の恋愛事情ほどめんどくさい物はない。

付き合おうが別れようが好きにしてくれ。

でもここで正直に言うと更にめんどくさい事になるのは、分かっているので口を閉ざす。


同じ下っ端侍女のエレンは明るくて世話焼きで涙もろくて、悪い子じゃないんだがたまに鬱陶しい。主に恋愛面がすごく鬱陶しい。

よく言えば尽くすタイプで、悪く言えば重い。

彼氏のタイムスケジュールは常に把握して、手作りの差し入れは欠かさない。時間があれば一緒にいたがるので、仕事中でもふらっと会いに行ったりする。

ちゃんと仕事しろ。


そんなエレンは、下っ端文官で子爵家の四男ハンスと付き合っているらしい。

んで、付き合って3ヶ月目にして浮気が発覚したと嘆いているのだ。

美味しい昼ご飯を食べていたのに、運悪く捕まった私が延々とグチを聞かされる羽目になった。半分以上は食べていたとはいえ、飯が不味くなる話は勘弁して欲しい。


おまけに、話を聞いてると「それ本当に付き合ってるの?」と疑いたくなる。

エレンが「好き」と告白してハンスも「俺もエレンは可愛くて好きだよ」と答えてくれたという。

どう聞いてもハンスは付き合ってると思ってないんじゃないだろうか。

そんなことを言えば「ちゃんと好きって言ってくれたもの。なんでそんな酷いこと言うのぉ。アンナちゃん彼氏がいないから私の不安が分からないのよぉぉ」と泣かれた。


彼氏がいなくて悪かったな。

お前の不安も分かんないよ。全くね。

って言うか、人に「どう思う?」って聞くなら聞く耳を持て!

あー、めんどくさいなぁ。

誰か変わって欲しいのに、私と目が合うと「頑張れ」と苦笑いして去っていく。

くっ、薄情者共め。


「エレンを大切にしない彼氏ならやめておいたら?」

「そんな事ないよ?ちゃんと大切にしてくれるのよ。この前だってね……」


優しく言えば、惚気かよ?って話を延々と聞かされる。終いには流行っている占い師に相性が良いと言われたとまで言い出した。

これは、ダメだ。

この子の中に別れるって選択はなくて、誰かに聞いて励ましてもらいたいんだろうなってのは分かった。

でも、下手に応援して私のせいにされるのも嫌だ。気のせいかもしれないが、下手したら恨まれそうな気がする。

めんどくさいなぁ。と思いつつ冷めたコーヒーをゴクリと飲み干した。


昼食時間いっぱいまで惚気なんだか相談なんだか分からない話を聞かされた挙句に「ありがとう。私、頑張ってハンスを取り戻してみせるわ」と晴れやかな顔で業務に戻って行った。

いや、取り戻せとも頑張れとも言っていないんだけど。

自己完結できて良かったね。次から巻き込むなよ。



午後からは夜会後の汚れた客室の掃除の続きに精を出す。

午前中にリネンは全部変えたんで、後は部屋のあちこちに散らばる残骸処理ですよ。

絨毯も大変だけど、どうしてベランダが汚れてんのかな!?

昨夜は雨だったよね。雨の中ヤってたの?

ベランダまで降り込んではいなかったみたいだけど、馬鹿なの。馬鹿でしょ。馬鹿だよね。

風もあって降り込んじゃえば色々と流れて掃除が楽だったのに。ついてない。

アレだけじゃなくて、茶色いモノまで落ちてる。何やってくれてんだ。

マジで泣く。


ベランダを終えて室内も終えて、換気に開けておいたベランダの窓を閉めようとした時、何か聞こえた。

気になって、下を覗くとベランダの下で1組の男女がイチャついている。

こんな時間に逢引ですか?お熱いことで。

さっさっと戻ろうとした私の耳に「ハンス」という名前が届いた。

音を立てないように慎重に下を見下ろす。

下のカップルはお互いに夢中で上なんて見ていない。


「もう、性急すぎよ」

「お互いに時間がないだろ。な?早く済ますから」

「ゃん。そこなでちゃダメぇ」

「よく言う。濡れてるくせに。淫乱だな」

「ふふ。ハンスだって私以外にも手を出してるじゃない?」

「あぁ、エレン?あいつが勝手に寄ってくるから相手をしてやってるだけだよ。言うならボランティアさ」

「あんなに尽くしてるのに、かわいそ〜」

「あいつが好きでやってるからいいんだよ。ちょっとウザいけど、部屋の掃除とか飯とかやってくれるから便利だぜ」

「ふふふ。ひどぉい」


胸糞悪い。

ほら、エレン。だから別れろって言ったじゃない。あいつの中じゃ、アンタは恋人でもないんだよ。便利屋扱いだよ。

それでも、私の忠告はアンタの耳には入らないんだろうね。


振り返った先には、ベランダの端に置いていたバケツ。中身は、さっきブラシを洗った灰色と茶色が混じった汚い水。


ねぇ、エレン。これはアンタの為じゃないの。私の自己満足よ。


私は持ち上げたバケツを下の2人に向けてぶちまけた。

背後に聞こえた悲鳴を無視してベランダの窓を締める。

ちょっとだけ胸がスッとした。




3ヶ月後、仕事が一緒になったエレンから「新しい恋を見つけちゃったの〜」と呑気な報告を聞いて、脱力した。

本当に、たくましいな。

そういうエレンがちょっと苦手で、ちょっとだけ羨ましい。


サブタイトル付けるの難しいですね。

毎回誤字チェックしながら、アンナは何してるかな〜と追ってます。

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