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14.王宮侍女は絡まれる



今日の仕事場は王族が住むグロリナス宮殿。

普段私達が仕事している王城の裏にある立派で煌びやかな宮殿です。

歩いてもそんなにかからない距離を馬車で通勤する王様ってすごいよね。

護衛とか色々あるんだろうけど、手間暇がすごいかかると思う。馬車用意している間に歩いて着いちゃうのに。

ちなみに王太子様は馬で通勤している。

私からすればどっちもどっちだけどね。


王族の足腰の事はいいや。

グロリナス宮殿の掃除と言っても、王族の私室だけは専属侍女がやるから関係ないんで他のとこね。玄関ホールとか、応接室とか色々。

普通、こういう煌びやかな場所の掃除は、肉食女子が持っていくんだけど、今回私たちにお鉢が回ってきたのは王族がいないから。

社交シーズンが始まったからね。去年デビューした末の王女様も含めて全員、サグリナ離宮に1週間のお泊まりです。

王都の端にある王族領地で、乗馬したりピクニックしたりと社交で大忙しらしい。

なんと陛下まで行っているとか。

仕事はどうした。


王族がいなきゃ高位貴族も高官も豪商も来ないんで閑散としてるんだよね。つまり、肉食女子には旨味がない。

いつもの事だけど、肉食さんのなりふり構わずな情熱はすごいなぁと思う。

私には、あの情熱が足りないのかもしれない。

だからと言って簡単に生まれるもんでもないよね。

いつか、これが『真実の愛』なのね!なんて世迷言を言う日が来るんだろうか。

………やだ、ゾッとしちゃう。




担当の階段を手すりから順番にブラシかけて掃除していく。

ここも人目につくから装飾過多なんだよね。

しかも、ここの人達って掃除が下手。

一見綺麗なようで、隅とか端とか溝の奥とか汚れてるの。磨けば光るんだよ?

一体どこを掃除してるのかと首を傾げるほど汚れている。王族の住居なのに大丈夫か?

やるならちゃんとしろよ。

職人魂が疼いちゃうじゃないか。


無心で磨いて掃いたよ。ピッカピッカに磨きましたともさ。

拭きながら前回の天井磨きを思い出したわ。

流石に今回は天井はやらないけど、シャンデリアは明日やるらしい。

数が少ないのが救いかもしれないが、手間取る分達成感も半端ないんだよね。頑張るしかないな。


さて。今日の分はやり切ったので満足。

久々に楽しい気分の私の前に、1人の侍女がでーん!と立ち塞がってきた。


…………誰?


「アンナってあんたね?」


腕組みでこちらを見下ろすような偉そうな彼女に見覚えはない。

多分ここを担当している侍女さんだろう。

しかも、離宮について行ってないとなれば階級も身分も低め。

容姿は中の下?下町じゃ美人だが、王宮なら十把一絡げってとこか。ちょっと性格が悪そうな感じの顔つき。

偏見?うん、知ってる。


「ちょっと!なんとか言いなさいよっ」


おまけに短気で身分主義とみた。

つり目で見つめてこないで欲しい。繊細な私の心が震えるじゃないか。


「私が思うに『アンナってあんた?』って語呂が悪くありませんか?」


「貴女がアンナさん?」とか「貴女のお名前はアンナさんで間違いないかしら?」とか言えないのか。

別に私の名前は悪くない。短気さんの言い方が悪いのだ。


「そんな事は聞いてないわよっ!」


短気さん。そんなに怒ると疲れるよ?


「まぁ、いいわ。貴女がユリウス様に付き纏っているという下女ね!?いい加減にしないと痛い目を見るわよ!」


短気さん。人を指さしちゃダメでしょう。

それにしても下女って……。

確かにうちは男爵家だけどさ、同じ侍女枠のお前に言われたくはないわ。


と言うか、ユリウス様って………誰?

イケメンっぽい名前だよね。なーんか頭の隅に引っかかってるんだけどなぁ。

なんて言うの?ここ、喉の奥まで来てるけど出てこないこのモヤモヤ感。

待って。

この前のサキイカみたいに、ここまで出かかってるから。いや、あれは鼻だったか。

まぁいい。もう少しで出てくるから。

待って。


「ユリウス様よ!ユリウス・ベネディクト子爵様よ!」

「それだ!!」


あー、そういやそんなイケメンな名前だったわ。顔もイケメンだけど、中身は女ったらしの残念なボンボンだもんね。

ありがとう短気さん。スッキリした!

両手で握手して、帰ろうとしたら、また前を遮られた。

なんかこのパターン多いな。


「なにを帰ろうとしてんのよっ!」

「え?スッキリして用事も終わりましたし」

「終わってないわよ!まだ話してるでしょ!」


ええー、めんど……。

短気さん、顔が怖いよ。

えっと、なんだっけ、私が子爵に付き纏ってる…だっけ?

…………うわぁ、めんどくさい臭いがぷんぷんする。

第一、付き纏うどころか毎回さっさっと帰ろうとするのを引き止めるのは奴の方だというのに。

納得できぬ。


「なに黄昏てんのよ!いい?これ以上ユリウス様に近づいたら承知しないからねっ」


あー、これ放置してもめんどくさいやつだ。

仕方ない。


「不快な思いをさせてしまったのなら申し訳ありません。ですが、誤解されたままではベネディクト子爵様にも申し訳なく思います」

「誤解?」


愁傷に頭を下げると、訝しむ声が聞こえた。

よし、かかった。


「まず、ベネディクト子爵様は侯爵家の御方。私如きが憧れこそすれ、付き纏うなど恐れ多くてできません」

「で、でも、実際に2人でいたと言う噂があるのよ」

「まあ!それは、勿体なくも恐れ多い事です。実は……あ、いえ、これは口止めされておりました」


わざと思わせぶりに口に手を当てて視線を外す。

短気さんは面白いぐらいに引っかかってくれた。


「なに?なんなの?」

「いえ。子爵様に口止めされておりまして…」

「なんなのよ!気になるじゃないっ!」


激昂する短気さんに、視線だけチラリと向ける。

言おうかどうしようかと迷うフリ。

これは重要な話なのだと装い、躊躇って、十分引き付けてから視線を合わす。


「子爵様のプライベートな内容なのですが………内緒にして頂けますか?」

「もちろんよっ」

「私が話したとは、くれぐれも秘密にして頂けますか?」

「ええ!分かってるわ!私はこう見えても口が固いのよ」


絶対に嘘だな。とは思うが、おずおずと短気さんに近づくと短気さんも近づいてくる。

短気さんの鼻息が荒くて近づきたくないが仕方ない。


「実は、意中の方へのプレゼントを落とされたと仰られておりました。私は偶然その場に居合わせたので、僭越ながらお手伝いをさせて頂いております」

「意中の方って?」

「お名前は存じ上げません。ただ、察するにご身分差に苦しんでおられる様に見受けられました」

「身分差…」

「あくまで、私の主観ですが。子爵様は、黒髪の方を切なそうに見ていた様でしたので、もしかしたら、黒髪の女性かもしれません」


そんな事実は微塵もないけどな。

短気さんは黒髪だ。ちなみに私は茶色です。平凡だね。うん、知ってる。

身分差に黒髪というキーワードにぽぅと頬を染める短気さん。

乙女だねぇ。

相手は下半身の緩い子爵だよ?

どこにトキメキ要素が?

ーーーーー顔と爵位か。


「慈悲深い子爵様は、探し物をお手伝いする私を気にかけてくださっただけなのです」

「ふ、2人で会う必要は無いんじゃないかしら」

「物が物だけに公にするわけにもいかず、申し訳ありません。以後気を付けます」


慈悲深いとか、否定しないのね。

貴女の仰るユリウス様は本当にあの子爵様ですか?言ってる私が笑いそうなんだが。


「それで、落とし物ってなんなの?私も探してあげるわ」

「まぁ!本当ですか?子爵様が仰るには、このグロリナス宮殿か王城で落とされたらしいのですが、私グロリナス宮殿はあまり来れないので助かりますわ!」

「それで?物はなんなの?」


落ち着け。食い気味で怖いわ。

グイグイくる短気さん。どれだけ子爵好きなんだ。

趣味わるー。

子爵は悪い奴じゃないけど、良い奴でもないよね。

付き合うとか無いわー。

姉妹丼とかごめんだわ。うん、やっぱ無いわー。

呆れそうになる表情をなんとか押し留めて、神妙な顔を作る。


「指輪でございます。小さな物ですので、転がって隅の埃でも被っているのか、なかなか見つからなくって」

「指輪……」

「はい。詳細はお聞きできませんでしたが、女性用としか…。申し訳ございません」


頭を下げて下手に出れば、短気さんの自尊心は満足するらしく、腰に手を当てて踏ん反り返っている。

つくづく友達にはなりたくないタイプだわ。


「分かったわ。見つけたら、私が子爵様にお渡ししますからね!」

「それは構いませんが、どうか他の方には他言無用にお願い致します」


短気さんは頬を染めて了承してくれた。

特別とか、自分だけが知っているとか、優越感あるよねー。分かる分かる。

しかも、自分の好きな人の事だもんね。

……偽情報だけどね。

ちょっと心が痛むが訳のわからない因縁つけてきた短気さんが悪い。




子爵に話を通しておこうかとも思ったが、余計な火の粉は浴びたくないのでやめておいた。

どうせ女性の扱いに慣れた子爵の事だから、どうにかするだろう。

だって、何も明確な事は言わず匂わせるだけにしたし、特に不都合はない。うん、無い無い。

なんとかなるだろう。

件の指輪も永遠に出てくる事はないのだから。




後日、グロリナス宮殿の掃除が丁寧になったらしい。

良いことをするって気持ちがいいね。

と、浮かれていた矢先に子爵に嘘がバレて説教をくらった。


………ちっ。


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[一言] アンナって・・・ス・テ・キ! ☆連打しちゃった!
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