11.王宮侍女は解される
あ、あっ、あっ、あん、そこ、そこぉ。
あ、ヤバい、そこイイ!あ、あん、イイ!
いやん。そこ、ゴリゴリしちゃダメ〜〜。
あっ、あっ、そこ!そこいいわ!
く〜〜〜!
「くはぁ〜。てくにしゃ〜ん」
「変な声出さないでちょうだい」
思わず声が出たら頭をぺちんと叩かれた。
だって、超気持ちいいんだもん。背中の肩甲骨のそこ!あー、そこそこ。
おふぅ、たまらん。
「変な声出す奴はこうだ!」
って足裏をグリグリとやられた!
アカン!そこはアカンやつ。脳天まで痛みがきた。
声無き悲鳴ってこれの事か!ってぐらい痛かった。
「はい。おしまい」
「…あ、ざーす」
本日は、貴族街と市民街の境目にある体のほぐし屋さんに来てます。
裏路地にある「ほぐし屋にゃんにゃん♡」というラブリーポップな看板が目印の可愛いお店。
店名といい、ピンクとリボンとフリルの店内といい、ツッコミどころが多すぎる店なんだが、腕がいい。
もう本当にスッキリとする。全身コースなんて痛気持ち良くて昇天しそうなぐらい。
今日は肩・背中コースだったのだが、不意打ちされた足裏はサービスだと言う。
スッキリはしたけれど、痛みの方が強かった。
サービスとは一体…。
裏路地のいやん・あはんなお店が軒を連ねる端っこ。
こんな怪しげな場所にある怪しげな店なのに、そういうメニューは全くないのが面白い。
店長曰く、間違えてやってきた客を泣き叫ばせながら体のコリをほぐすのが楽しいのだとか。
なんとなく、不本意ながら、なんとなくは分かる。蟻ぐらいの理解力だが。
店の前に店員の似顔絵を貼って『当店ナンバーワン!』とか『期待の新人』とか書いてある貼り紙からは店長の茶目っ気というか、罠をひしひしと感じる。
ワザとだよね、店長。
店員さんは黒のワンピースに白いエプロンというハウスメイドのような制服に猫の耳が付いたカチューシャを付けている。
『にゃんにゃん』だから猫なのだろうけど、なんで耳?
よく分からんが、そこがいいと通う常連は多いとか。
そうか、これが通ってやつか。
店員さんにはお姉さんなお兄さんもいて、同じ制服を着用しているが厚い胸板は隠せていない。ミミィちゃんという名の彼…ごめん、彼女はそこそこ強いので酔った迷惑客ぐらいなら簡単に撃退してくれる。強いおねにいさんはお好きですか?
私は大好きです。
ちなみに入店すると「いらっしゃいにゃん♡」と挨拶してくれ、帰る時は「いってらっしゃいにゃん♡」と挨拶してくれる。たまに「来ちゃったにゃん♡」とポーズまで取るキモオヤジな客がいるのはご愛嬌。そっと視線を外す事をお勧めする。
視界と聴覚の暴力が凄まじい。
店長の趣味がどこを目指してるのかよく分からないが、店員さんの腕は確かなので通ってます。
常連になりつつありますが、なにか?
もちろん、情報源は同僚のお姉様です。
店長と友達なんだってさ。
いつか繋がりを聞いてみたい。怖いけど。
私の担当はキティちゃんという正真正銘のお姉さん。見えないけど25歳の2児の母。
旦那様はここの店長さんのダニエルさんである。
分かって頂けるかと思うが、キティちゃんも旦那様同様のS属性な方である。
体のツボを押して痛みに悶える姿がたまらなく好きらしい。
癒したいという慈愛の心と、ツボを押して泣かせたいという嗜虐心を同時に持つ様である。
夫婦揃って天職だよね。
「背中と腰がバキバキよ?足もまだまだね。もう少し通ってね〜」
「ふぁい」
天井磨きもやっと終わって、通常業務に戻れたよ。ああ、普通の掃除の嬉しいことと言ったら。
まさか、後始末掃除を喜ぶ日がくるとは思いもしなかったわ。
結局、足場要員のイケメン騎士たちとはお近づきになる事なく終了した。
ま、分かっていた事だけどね。
あの格好じゃ恋に落ちる要素が皆無だわ。
代わりに得たのは天井掃除と刺繍で培われた肩と背中の痛みだけというありがたさ。泣ける。
あーあ、どっかに出会いが落ちてないかな。
贅沢言わないけど、甲斐性があってそこそこカッコいい旦那様が欲しい。
残念ながら、この店で出会うのは「久しぶりにゃん♡」とかふざけた挨拶をするハゲたオヤジか腹の出た中年オヤジぐらいだ。
そのハゲオヤジが宰相の右腕とも呼ばれる高官だと言うことは私の胸の内にしまっておこうと思う。
他にも何人か見た事ある人がいるが、そっとしておく。私の人生に波乱はいらない。
「あ〜、いい男いないかなぁ」
「とびっきりのがそこにいるじゃない」
「人の旦那とか数に入りませーん」
キティちゃん、旦那自慢ですか。「痛い〜!」って悲鳴を嬉しそうに聞いている旦那様は彼女にはとびっきりなのだろう。私は遠慮するが。
そんなS夫婦に「またおいでにゃん♡」と営業スマイルで見送られて店を出た。
「いってくるにゃん♡」なんて言ってやるものか。言わないぞ。言わないったら言わないにゃん。
………あぅ。
怪しい裏路地は、昼間のせいか人影は少ない。朝帰りの客たちも掃けて今から夜の営業まで寝てる人も多いからね。
そんな中をそっと帰ります。場所も場所なんで帽子を目深に被って、雰囲気的に『奥様の訳ありなご用事を頼まれた侍女風』です。
知り合いに見つかって変に勘ぐられるのも嫌なんだけど、もし王宮で会ったりしたらお互いに気まずいじゃない?
気遣いよ、気遣い。
だって、女王様の館からこそっと出てきた財務省のお偉いさんとか、女装クラブから颯爽と出てきた外務省のお偉いさんとかに王宮で偶然出くわしたら気まずいでしょ?向こうが。
私?全く気にしませんよ。だって変態なのは私じゃないし。
高官にそういう人が多いのはストレスからなんだろうか。
理解はできないが、別にいいんじゃない。
つか、私に迷惑がかからなきゃどうでもいいわ。
今日はまだ陽も高いからそんな変態さんはいないかな?と思ったけど、別口がいたよ。
怪しげな店からこそこそ出てきたのは、王妃様付きの侍女さんだ。
確か、伯爵令嬢だったかな。こんなとこにお使いとか嫌がらせなのか信頼されてるのか迷うとこだよね。
あの店って、媚薬とか精力剤とか避妊薬とか扱ってる店だったはず。
へー。ふーん。
陛下用かな。
なーんて。そんなワケないか。
陛下相手にこんな所の薬なんて使えば問題になるだろうし、十中八九陛下用じゃないだろうし。
陛下も王妃様も愛人いるもんね。
『真実の愛』を体現した2人なのにさ。
20年も経てば無くなるものなのね『真実の愛』って。
消費期限でもあるんじゃないだろうか。
ぷぷぷ。もろ〜い。それとも腐ったのかな?
真実ってどこいった。
それとも愛人が『真実の愛』だったのかな。
その愛は後何年保つの?それとも何ヶ月?
死ぬまでにどれだけの数の『真実の愛』に出逢うのかしらね。
輝くような笑顔で『真実の愛』を語ったアイツの愛もいずれ腐っていくんだろうか。
―――――ほんと、くっだらない。
また濃い人が出てきました。
タグに「変態」を追加しようか迷うこの頃です。




