第7話 キャロル対談
「サクヤ君、貴方の技能って錬金術じゃないでしょ?」
俺は、キャロル先生の質問の意図を考えるあまり沈黙してしまった。取り敢えず、技能の話をするのには流石に危険だとは思ったのか相談室の様な部屋に通された。
キャロル先生は、どこかの国や研究機関の関係者だったりするんだろうか?
「……急にどうしたんですか?」
「急じゃないわよ。課外授業で魔獣に襲われた時にサクヤ君、あなた妙な行動したわよねぇ」
やはり、あの時キャロル先生は隠れてずっと見ていたのか。確かに、少しおかしいとは思った。魔獣の兎は、単独ならデバフ無しで無傷でとはいかないが普通に倒せる。問題は、同時に襲われた時だけだったのに1人減った訳だ。その後、理由があって見ていたのは聞いたけど最初からだったとはな。
さて、何と答えるのが良いか。
正直に答える。キャロル先生が、今現在どういう繋がりから追求してるのかわからない。国だと戦争の道具、研究機関だと実験体にされる未来しか見えない。これは無いだろう。
錬金術だと言い張る。今疑われた行動は、呪具の受渡しという行為は何かという点の筈だ。流石にあれは、錬金術の知識があっても無くても不可解に見えるだろう。
実は鑑定【初級】があり、どこまで効果があるか調べた。これも、鑑定技能持ちは自己申告されないのか確認されてないスキルらしい。道具実験体コースだろう。
あっ、先延ばし出来るかも?
「他人の技能詮索は迷惑行為だと身内に教わりました。キャロル先生は、どの様な理由で聞いたのですか?」
「うっ……。う〜ん、そう言われるとそうなんだけどね。厨ニいや、特殊な記憶から私のココロを満たせるモノに出会えるかも〜とか考えたら抑えきれなくて質問しちゃったワケ」
「どこか、偉い人からの調査とかでは無いと?」
「違う違う、元々貴族籍を捨てて生きてるのに偉い人と関わるワケ無いじゃないの」
「そう言われるとそうですね」
そういった意味では、この人は安全かも知れない。鑑定くらいは、説明しても大丈夫だろう。鑑定技能の存在自体、全く知られていない訳だし誤魔化し易そうだ。
「そういう事であれば。絶対に他言無用ですが、俺には錬金術の他にも鑑定【初級】の技能があります。初級でも道具の名前や品質、集中すれば効果なども見えるので確認してたんです」
「あぁ、それで受渡ししてたのか。私が好きだった小説の、主人公みたいに錬成師とかであれば心躍る闇アイテムを作って貰えると思ったのに」
何かよくわからないけど危険な香りがする。でも、以前の照明器具製作でもわかってたけど、知識の重要性から先生のニホンジンの知識というのも興味がある。
まぁ、2年目から今の体力向上と魔力向上の講義から専門的になるらしいしその後でも良いかな。
「まぁ俺も、錬金術の修行だけでなく付与魔法も覚えて後方支援に特化したいとは思ってます。良かったら今度、先生の知識とやらも参考に聞かせて下さいね」
「そうよね、別に幅広い生産系技能があるなら錬成じゃなくても作れそうな気もするしサクヤ君に頑張って貰うかな」
「いやいや、何で俺が頑張る対象になってるんですか。あからさまに、タダ働きさせる気しか感じないんですけど。絶対に嫌ですからね?」
「タダなんて人聞きの悪い。きちんと、お互いに得をするオハナシにするわよ」
「……例えば?」
「そうね、サクヤ君は鑑定持ちって言ってたけど初級なのよね? 前世の知識からいくと、階級上げ的な手伝いとか出来るかも知れないわ」
キャロル先生曰く、チート鑑定の場合には階級が無くて最初から何でも見えるらしい。チートの意味は、通常では考えられない的な意味だそうだ。階級がある場合、物にはレア度が設定されていて珍しい物を鑑定すると成長し易いらしい。そして、キャロル先生は10歳ではあるが強大な魔法使いとして既に冒険者で名が知れている。当然珍しい物も手元にあるそうだ。
「参考までに、どんな物が欲しかったんですか?」
「まずは、眼帯は欠かせないわね」
「眼帯って、キャロル先生は別にどちらの目も悪くないですよね?」
「ただの眼帯じゃないのよ、己のチカラを封印する……」
何か、延々と語りに入ってるけど拘束具みたいな物かな?
確かに、相手の視界を塞いでチカラを封印……己の?
いや、全くわからん。多分、キャロル先生の言うニホンとは己を律する的な厳しい世界だったのだろう。
「あ〜、わかりました。素晴らしい物なんですね、出来ると良いですね。もう聞きません」
「そうね、取り敢えずサクヤ君の今後に期待する事にして今回は我慢しておくわ」
取り敢えず、キャロル先生がまだ疑ってるかはわからないが解散になりそうだ。しかし、のんびりライフを壊す様な繋がりが無い事はわかった。収穫と言っても良いだろう。頭の中は危険そうではあったが……。
「ところで、いつもの語尾が伸びた口調とは違うのは何かあるんですか?」
「あぁ〜、男っておっとりした子の方が好きでしょ?」
それは、偏見です。
「なるほど、それではこれで失礼します」
「はぁ〜い、また明日ぁ」
俺は呆れつつも、退室し家に帰ることにした。
あの時、呪具に期待して良かった。剣とか防具自体を変成させてたら、言い訳の余地は全く無かっただろう。
鑑定の事もそうだが、キャロル先生の知識を借りれば目当ての技能も育て易くなるかも知れない。上手く利用して行こうと誓った。