第6話 課外授業から
どうしてこうなった……?
俺達は、課外授業という名のアルバイトである冒険者ギルドの依頼で森に来ていた。そして、今まさに兎型の魔獣と戦闘中である。
依頼自体は、青茸の採取であり元々は戦闘皆無の依頼だった。つまり何が言いたいかというと、今のPTは全く戦闘が出来ない奴が2人、呪術師見習のジニーに自称錬金術師の俺だった。
引率には、キャロル先生が居るのだが彼女も魔法使いで後衛である。
ジニー以外の2人は、騎士爵家の三男でサイモンと、商家の四女でマールというらしい。そもそも、騎士の家系から出て来てるのに、武器を扱った事が無いとかどういう育ち方だと思う。
さて、解毒薬に使える青茸採取を休止しての兎狩りだが、何故か俺が前衛で短剣を振っている。本当に、どうしてこうなった。
サイモンは、武器を扱った事が無いと言うが、俺もまともに使った事は無い。確かに、体型だけなら俺は一般的で、サイモンはデb……恰幅が良いので俺が前に行くのは必然だったかもしれない。
俺は、男で体型も普通だから選ばれてしまったが、お前らも毎日地獄の持久走してんだから体力あんだろ!
とまぁ、愚痴はともかく初の実戦だ。敵はホーンラビットの子供(角が小さいからの予想)で数は3体。恐らくだが、こちらは5人だし数を減らせば逃げるだろう。
前衛の俺が抜けられても、流石に危険だとキャロル先生が魔法で助けてくれるに違いない。そう自己完結しつつ、一瞬後ろを見ると最後尾がサイモン?
間には、ジニーとマールが居て、俺の渡したポーションに手を掛けている。というか、回復前提じゃなくて戦えよ。じゃない、キャロル先生が居ない!?
「サイモン、キャロル先生は何処に行った!?」
「わかんねぇよ! 気付いたら居なかった」
そう、気付いたらだ。魔獣が出て俺が前衛になったのもキャロル先生の指示があった。少なくとも、気配を察知して事前に逃げた訳ではない。とにかく今は、目の前の敵に集中だ。
「ジニー、何か役に立つ呪具とか無いか?」
「範囲内の器用と敏捷を下げるのならあるけど」
「けど?」
「呪具頼りだから、見える範囲敵味方関係なく下がる」
何でそんな物を? その場の全員下がったら意味無いだろ……。いや、もしかしたらいけるか?
「その呪具を使わずに俺に投げてくれ!」
「? わかった……ほいっ」
俺はその呪具を拾い、変成によってある程度の対象指定を追加して投げ返した。
「ジニー、そいつをこの3体の兎を意識して発動してみろ。呪術師のお前なら大丈夫だ!」
ジニーは、不思議に思いつつも受け取った。恐らく、俺が確認して呪具の品質が高いか何かの違いがわかった、とでも思っているかもしれない。
実際には、中身を書き換えてるのでジニー次第な訳だが何とかなるだろう。
「いくよ? 『縛鎖』」
ジニーの掛け声と共に、3匹の兎達の足元から複数の鎖が立ち昇り拘束するような映像が見えた。俺達には、エフェクトが無かったし動き難い体感も無い。
恐らく事前に、発動する呪いを込めていたからだとは思うが、呪具を手にして呪術名を言えばノータイムで発動するとか呪術ヤバいな。
「おぉ? 初めて成功したかも?」
ジニーが自分で驚いているが、それは対象指定が初めて成功した事に驚いたんだよな?
呪術自体が、今初めて成功した訳じゃないよな??
気を取り直して、この隙に俺から斬りかかる。先頭に居た兎は、慌てて躱そうとしたが思うように動かずに綺麗に左肩から袈裟斬りされて血が吹き出ている。
俺が幼い上に、武器が短剣という事で一撃では倒せなかったが、まずは1体の動きを止める事に成功した。そこへ、残りの2体が襲い掛かって来たが、呪いが効いてる様で軽く回避出来た。下手をすれば、ポッチャリ系のサイモンでも躱せそうだ。
すれ違い様に、もう1体に逆手での切り上げをカウンターで決めた。どうやらコイツは、その一撃で動かなくなった。攻撃して来たもう1体は、そのまま逃げて行ったので、後は最初に切り付けた瀕死の兎に止めを刺した。
「やぁやぁ、無事撃退出来たみたいね〜」
タイミング良く、後ろの茂みからキャロル先生が戻って来た。援軍が居る訳でもなく、普通に出て来たので最初から監視していただけの様だった。
「先生、魔獣が出たのも最初から先生の仕業ですか?」
「いやいやいやいや! 流石にそれは偶然です〜!」
話を聞くと、確かに元々遅かれ早かれ課外授業の採取で、こっそり魔獣の近くに誘導するらしい。勘の良い生徒だと、その時点で近くに魔獣が居そうなので場所を変えようと進言し戦闘を回避するそうだ。後日、その生徒を外して誘導する仕組みらしい。
今回は、流石に時期が早過ぎたが偶々襲われたので、様子を見てみようかなと考えたとの事。勿論危なくなったら魔法で助けたと言っていた。
「では、僕達は合格という事ですか?」
「う〜ん、サクヤ君とジニーちゃんは問題無いし、マールちゃんもいつでも動ける様に気を張っていたのは見えたから3人は合格なんだけど……」
「えっ俺は?」
サイモン以外、全員が顔を見合わせた。
「いや、お前男なのに最後尾で何もしてなかっただろ」
「そう、サイモンは後ろで震えてた」
「流石にアレは無かったと思います」
「とみんなそう言ってるけど〜?」
騎士爵とは言え、貴族の端くれだし激怒するかとも思ったが、サイモンは言葉を出さず項垂れた。
その後、青茸採取を再開して依頼を達成した。勿論、ついでに自分で毒消薬を作る様に多めに採って来た。
塾に戻り、ご苦労様と解散を言い渡された直後に、俺だけキャロル先生に引き止められた。
「サクヤ君、ちょっと良い?」
キャロル先生は、いつもの語尾が伸びた様な口調ではなく、真剣な表情をしていた。
「大丈夫ですけど、何かありました?」
キャロル先生は、周囲を見渡し誰も居ないのを確認した後に何かの魔道具を発動し言葉を発した……。
「サクヤ君、貴方の技能って錬金術じゃないでしょ?」
俺は、笑い飛ばして誤魔化す事も思い浮かばずにフリーズしてしまった。