第4話 講義開始
これが、運命的な出会いというヤツなのだろう。
祖父から言われ、急遽通う事になった学習塾。
元々は通わなくても、錬金術スキルも手に入っていたし、工房の手伝いを続けるだけでも問題無いと思っていた。しかし、変成スキルを上手く使う為には、他の知識も必要になると感じて来た。
魔法系の、技能取得まではいかなくても、知識を学べるのは大歓迎だった。
「えぇ〜っと、魔法系の講義を担当しますキャロルと言います。ヨロシク!」
「……はぁ? 私らと歳変わらないんじゃないのあの子」
ルビーの言葉に、フリードとジェットが応える。
「魔法の先生なんだ、見た目通りの歳ではないのかもしれないよ?」
「おぉ! 何か触れてはいけないモノに手ぇ出して成長止まったみたいなヤツとかな」
「ちょっとソコ、私は正真正銘の10歳よっ!」
違ったらしい。
彼女の名前はキャロル。貴族家の生まれで、政略結婚に納得出来ずに家名を捨てて逃げてきたらしい。
納得出来なかった理由として、彼女にはニホンジンという前世の記憶があるという。神様と話したとか、妄想癖がありそうな女の子だが、あの歳で既に火水土風の魔法全てが【特級】との事だ。
さて、その上級魔法使い様の授業はというと。
「はいは〜い、まずは魔力の流れを感じてね〜。属性の取得の前に魔力操作に慣れて貰います」
意味があるのか、無いのかよくわからないけど延々と瞑想させられていた。
キャロル先生によると、この世界の魔法の使い方はおかしいらしい。魔法の下地として、魔力操作が無いとスキルが成長し難いという。というのも、各属性魔法の【初級】の初めに覚える『火弾』等の魔法を上位スキル所持者が撃つと、少し大きくなるという現象がある。
それは、上位スキルの方が魔力効率が良い為、同様に初級魔法を使用した場合勝手に大きくなってしまうだけの話だ。
火魔術【特級】まで上がると、火炎操作が可能になるらしい。他の属性でも同じで、各属性の自然物もある程度操作可能になる。
これが、キャロル先生の言う通りに魔力操作を身に付けると、【初級】でも火を操作出来るし、『◯弾』の魔法の大きさも自在になるのである。
キャロル先生とんでも存在である。
結局、初日ということもあり、俺には魔力操作というか魔力を感じる事も出来なかった。
ルビーだけは、最初から魔力を感じてはいた様で、『水弾』の大きさを変化させる事が出来ていた。
キャロル先生の話では、最初は魔力を少なくして魔法の発動回数を増やすと早く上達するらしい。
その後も、魔力を感じろ〜魔力を操れ〜と若干洗脳にも似た講義が続きキャロル先生は戻った訳だが塾の講義は魔法だけではない。
お昼を挟み、午後の講義は体力づくりという名の持久走だった。
講師は、魔拳流道場支部長のハーグ先生。ムキムキマッチョな、スキンヘッドのオッさ……先生である。
「さぁ、若い内から育てないとイイ筋肉は育たない! みんなで筋肉しようではないか!!」
意味不明だった。死ねば良いのに……。
大した速度ではない、速度ではないのだが、既に2時間程街の外周を走っている。暑苦しい、ハゲの先生と共に。先生は、生徒に声を掛けながらペースが落ちない様に調整して並走していた。
「よぉ〜し、時間的に次の正門から校舎に戻るぞ!」
遂に終わりが見え、一部の生徒の速度が上がり列が乱れそうになった時にハーグ先生から待ったがかかった。
ペースはあくまでも、最初から最後まで変えてはいけないらしい。ホントよくわからない。
「みんなよく頑張った。疲れただろうが、回復薬や魔法で疲労回復はしないように。まぁ怪我をしてしまったら話は別だがな」
ハーグ先生によると、運動後の疲労を自然回復以外で治してしまうと、運動しなかったレベルで体力筋力の成長が低いらしい。経験則であり、理論的になものでは無いのだがよく言われる話だそうだ。
「あぁ〜やっと終わった。早く帰って寝たいぜ」
ジェットの呟きに、激しく同意だったがジニーから絶望の言葉を掛けられた。これが呪術か……。
「まだ歴史の講義が残ってる」
そう、まだ歴史の講義が残っていた。講師は、黒髪黒目でスラっとしたモデル体型の爽やかメン。いつもニコニコ、仏のジェーン先生である。
今日は初めなので、この領地の成り立ちを軽く話していた。まぁ、ここの住民ならばそれこそ一般常識なので、全く難しい話ではなかった。半分寝てた。
無事に塾での初日を終えたが、基本1年目はこの3種類を繰り返すらしい。ハーグ先生を思い浮かべて、ジェット以外の生徒はどんよりしていた。
それにしても、ハーグ先生が薬使うなよと言ってくれて助かった気がする。回復魔法なんて、あまり見掛けないし生徒全員が薬買いに来たり、俺に作れとか言われたら誰か過労死しそうだし。
厄介そうなジェット達、クラスメイトに捕まる前にそそくさと帰宅する俺であった。