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 小舟に敷き詰められた花たちは、照りつける日にしゅんとしなだれ始めた。

 お腹の中のものを全部海へ捨てたシアは花の上へごろんと転がる。

 

 生まれ育った島は海の向こうにわずかに霞んで見える。戻ることはできない。戻れば、別の者が花嫁に選び直される。そして、自分と家族に、生きる場所は無くなる。

(弟は自分のせいで姉が海の神の花嫁に選ばれたと思ってるだろうな……)

 それは、確かにそうだろうと思う。弟が美しいから、男とは知らず、神官に選ばれたのだ。母は美しい人だった。自分は父に似た容姿だけれど、弟は母に似ている。

(まあ……あの子は綺麗だから、何とでも、生活してゆけるだろう)


 このまま舟と共に流されて、自分がたどり着くのはどこだろう。海の神の元か。怪物の腹の中か。

(どちらでもなくただ、干からびて死ぬかもしれない)

 黄泉の国には、幼い頃にそちらへ旅立った母がいる。なら、そこへ行くのもいいかもしれない。ただ、シアには少し心残りがあった。

 

 (あのお話の続きが読みたい)


 それも書庫にあった本の一つだった。表紙をめくったところに、大陸から来た随筆者のサインがあった。大陸の本なのだろう。シアはそのお話、5冊を読んだ。

 

 一人の少女が世界を冒険し、いろんなものを見て、友を作る。仲間たちは世界を覆う黒い影と戦う。大きな化け猫が現れて、仲間のひとりを食べた。

 そこまでを読んだ。

 あの子は無事なのか。世界は救われるのか。黒い影ってなんなのか。


 シアは拳を握りしめた。そろそろ小舟は島の者から見えなくなっているだろう。何かができるとすれば、今だ。

 目を閉じて深呼吸する。そして、上半身を起こす。

 この衣装のまま海に落ちれば、たっぷりと水を吸って溺れてしまう。

 長い裾に手をかけ、ぐっと引っ張ると、布は簡単に裂けた。美しいが弱い布のようだ。島の女たちは、太ももをあらわにする服を着ることは無い。けれども、羞恥心の許すところまで、短く切り裂いた。

 

 それからシアは帆を固定するマストの、横に固定された木に手をかけた。そして木に結われたロープをじっと見つめる。

(この結わい方、解ける。島の男がいつもの癖で巻きつけたんだな……)

 シアはロープの先端を引っ張る……だけでするりと外れる。舞い上がる帆布をマストに巻きつけた。

 これで小舟が風に押し流されるスピードは弱まったはずだ。風向きが変わることがあれば、また帆を張って舟を北へ向かわせられないだろうか……。

 一縷の望みでしかない。けれど、できることはして置きたい、とシアは思った。



 シアは神の存在を心から信じてはいない。

 書庫の本を読んだことで、それは確信となった。少なくとも、島で大神官が偉そうに『神のお告げだ!』と話すことは、全て彼の嘘だ。彼だけではない、何代も続く大神官の一族が、島を支配するために神の名を利用しているのだ。

 では、島民は不幸な暮らしか、と言えば、それほどではない。大きな争いもなく、ひどい搾取も、無い。

 100年に一度、娘を生贄に差し出して、平和を買っている。もしくは、そのつもりになっている。そう、自分だけが、ひどい外れくじを引いたのだ。


 喉の渇きを感じるようになっていた。どれぐらい時間が経ったのか。その間に少し、泣いたかもしれない。気づくと空には雲がかかっていた。風向きが変わるだろうか? 振り返ると島は見えなくなっていた。

(しまった! 方向がわからない)


 焦って海を空を見渡す彼女の視界に、何かが見えた。

 海の上を走るように──何かが飛んで来る! 

 それの周りの海水が立ち上がり、一本の道が生まれる。

(ぶつかる!)

 小舟は大きく揺れ、花が辺りに舞い散った。海に放り出されそうになるシアは、次の瞬間、海水に抱き上げられる。


「ずいぶんみっともない姿の花嫁だ」


 その声に、シアは驚愕する。海の上に立っているものは、シアの美しい弟と同じ声と姿をしていた。

とりあえず、ここまで。

個人的には次の投稿はショートショートを書いてみようと思っています。

こちらはその後、どう進むかはその時の気持ち次第。(なんとなくの方向は決めてます)


アドバイス・感想ございましたら、よろしくお願いします。

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