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 広い海だった。

 島の北の海の向こうには大きな大陸があって、島もその大陸の支配下にある。けれど、南側の海は果てしない。まだ誰も、何にも、たどり着いていない。

 南側を調べる船は、食料が尽きるまでずっと南へ向かい、海しかないのを確かめて帰ってくるばかりだ。

 島の者は、南側の海は海の神の所有地だと考えている。

 神聖なる南の海へは、たくさんの金を納めて大神父の加護を与えられた者のみ、出られる。

 

 シアも南側の海に出るのは初めてだった。幼いころから時折、舟に乗ることはあったが、北側だけ。

 南側の海はどこまでも続く青さで、めまいがしそうだ。

(波の荒さが違う……こんなに揺らされるのは初めて。まずい、何もできないかもしれない)

 シアの顔はみるみる青くなり、彼女は、お腹の中のものを海へ還した。


 

 半年前に遡る。

 猟師の父と弟と3人で暮らすシアの家の屋根に、カラフルな鳥の羽で装飾された一本の矢が刺さった。その折、父は狩りで不在であった。


 大神官が青い羽織りの村の衆をぞろぞろと引き連れてやって来て言った。

「海の神の花嫁が選ばれた! 100年に一度の、婚儀を執り行う!」


 大神官は選ばれた花嫁の手を引いた。それは、美しき、シアの弟であった。弟が美少年と言われているのは知っていたが、まさか、神の花嫁に選ばれるとは思わなかった。

 シアは知っていた。海の神との婚儀する、選ばれた花嫁は、婚儀の後、戻っては来られない。

「待って。おかしいわ、なぜ、神様が花嫁を求めているとわかるの!? 誰も、神様に会ったことが無いのに」

 大神官は振り向かなかった。

「わたしが、神の言葉を聞いた」

 そのまま、弟を連れてゆこうとする。村の衆はその様子に、動揺していた。

「あの」

 神官に声を上げたのは、手を引かれている美少年だった。


「僕は男なので、花嫁にはなれません」

 

 大神官の歩みが止まった。捕えている手を離し、やはり振り向かず、大きな声でどなった。

「その娘を、連れて来い。神は我々を試しておられる」


 そうしてシアは海の神の花嫁に選ばれ、精一杯美しくなるように半年をかけて全身を整えられたのである。



 神殿の奥に閉じ込められ、毎日数人の女たちに体を磨かれ、礼儀作法を教えられた。家族にも友人にも会えない。女たちも、私語を禁じられていた。

 唯一、シアが自由に過ごせた場所は、書庫、であった。


 書庫には様々な本があった。千年前の島の神官の手記だというものから、北の大陸の歴史を書いた本もある。この書庫は神官と神の花嫁になる者のみが入室できるのだと言う。ずいぶんと埃が積もっていて、神官もここへは入っていないようだとシアは思った。


 ある日、大陸から来た者の書いた随筆を見つけたシアは、夢中になってそれを読み漁った。大陸の常識と島の常識を比べて面白がっている文章は、シアの世界を変えた。島では決まった身分を親から子へ受け継ぐことが決まっているが、大陸では身分を買うこともできるらしい。大陸ではお金がものを言う、と筆者は記している。


 海の神との婚儀の様子も、シアは書庫の本で知った。小舟に乗せられ沖へ放たれる。それだけだが、帰って来た花嫁はいない。

 海の神が花嫁を受け取るのだろうか。それとも。

 

 大陸の者の随筆にはこうあった。

『島の者たちは南の海に海の神がいると信じている』

『大陸では南の海には怪物が棲むと信じられている』

3までを、つらつら書き溜めてあるので、見直しの後、数時間以内に投稿したいと思っています。

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