夜桜
出所当日監獄内が慌ただしかった。凶悪犯罪者を仮出所するのだから無理もない。ヒルドの首に呪符を張り付ける。逃げたら爆発する呪いと強制転移が掛けられている。逃げることも隠れることも出来ないようになっている。
「仮出所だがその依頼を完遂したら即戻れよ」
「分かってるよぉ」
監守長の言葉に怒りを覚えるが、それをぶつける玩具がいると内心笑っていた。
マルスが定刻時にやって来た。監守長と話を着けて漸く出所となる。ヒルドは指を鳴らして魔法を発動する。収監される前に身に付けていた服に着替えていた。ヒルドの得意とする魔法<複写>は見たものを自分の糧とする最強の魔法である。ヒルドが造り出した魔法の一つである。
「先代から聞いていた通りじゃな。では転移するぞ」
マルスは何か納得したように呟いた。マルスは転移魔法を発動させ、その場から消えていった。
ヒルドは目を疑った。自分がかつて壊滅させようとしたギルド夜桜がそこにあったが建物、内装ががらりと変わっていた。マルスが動き出して一緒に中に入ると、中も変わっていた。以前静かだった内部は騒がしく変貌を遂げていた。昼間にも関わらず酒を飲んでいるもの、喧嘩しているものもいた。ヒルドが知っている人1人さえいなかった。まさに別の国に飛ばされたようであった。それもそうだ200年も時が進んでいればな。
「貴様ら静かにせぇ!」
マルスの言葉に皆が静まり返った。
「この夜桜に久しぶりの入団者がおる。彼がヒルド・エルティーナじゃ仲良くせぇ」