ドラマに加われない男と実は不運だった男
時系列・・・第三章の終わりから、第四章6以前までのとある金曜日の夜。
外伝「薄幸ヒロインとラッキースケベ」の続きです。
茂松「うーっす」
豊島「おつかれー」
菜々「お疲れ様でーす」
茂「サビ残上がりのド底辺がラブラブなお二人さんの邪魔しに来ましたよーっと」
豊「何言ってんだか」
菜「僻みモード全開ですね」
茂「もーマジで勘弁して欲しいわ。データ送信して先方に詫びの電話入れてすぐ上がれると思ってたら、そういえばあの件はこの件はって保留案件掘り起こしてきやがって…」
豊「うわー、そりゃ災難だったな」
菜「カナちゃんさんもツイてなかったんですね」
茂「俺もって?」
豊「なんでもねーよ。こっちの話だ」
茂「なんだよ。俺いない間にこいつ何やらかしたの、なっちゃん」
菜「まあ、やらかしたのはどちらかというと、あたしなんですが…」
豊「余計なことは言わなくてよろしい」
茂「妙に隠したがるな裕太。開発リーダーの確認必要な案件もあったのに、俺の電話散々シカトしといてさ」
豊「色々と立て込んでたんだ。それにちゃんと電話かけ直したろ。話し中だったけど」
菜「あー。あの時カナちゃんさんに電話しに行ったから、病室にいなかったんですね」
茂「病室?何、お前ら病院にいたのかよ。何があったの」
豊「…菜々ちゃん。天然なのかどうか知らないけど、すぐそうやって口を滑らせる癖を何とかしなさい」
菜「…はぁい」
――結局、一部始終を説明することに。
茂「…お前らさ、なんで俺がいない時に限ってそんな壮絶ドラマ繰り広げたがるわけ?毎度のことながら」
菜「なんでなんでしょうねえ…」
豊「したくて繰り広げてる訳じゃねーよ…」
茂「てか、なっちゃん不眠症持ちだったの?」
豊「軽々しく詮索すんな、無神経すぎる」
菜「今はもう平気ですから。普段こんな風に能天気な感じに見えて、実は結構繊細なんですよ?あたし」
茂「それ、ツッコんでいいとこ?」
菜「お任せします」
豊「ツッコめるかっつの」
菜「ナイスツッコミです」
茂「まあ何はともあれ、無事でよかったじゃん。裕太もナイト気分味わえていい経験できたな」
豊「何がいい経験だ。めちゃくちゃ気疲れしたし、明らかに寿命縮んだわ」
茂「何言ってんだ。役得でなっちゃんお姫様抱っこしといて、ばっちり株上げやがったくせに」
豊「人命救助だっつってんだろ!」
菜「そこなんですよねえ。どうせなら意識ある時に抱っこしてもらいたかったなー。ねー豊島さん?」
豊「…こんなところで再現させる気か」
茂「個室だから平気じゃね?」
豊「お前も止めさせる気無しか」
菜「じゃあカナちゃんさんやってみます?」
茂「どら」
豊「マジかよ」
茂「なっちゃん軽っこそうだし、いけるだろ」
豊「腰やらかしても知らねーぞ」
茂「よっこらせー」
菜「ひゃー!」
豊「飲み屋の個室だからって、一滴も飲んでねーくせによくそんなこと出来るな」
茂「おーマジで軽いわ。余裕余裕」
菜「それ以外に感想無いんですか?」
茂「無いけど」
菜「…無神経乙」
茂「なんでよ。降ろすぞー」
菜「むー…」
豊「不満そうにしてるぞ、お姫様」
茂「やっぱ裕太に抱っこしてもらった方が喜ぶんじゃね?」
豊「俺だろうがシゲだろうが、変わんねーだろ」
菜「豊島さん、抱っこぉー」
豊「あざとい」
茂「なっちゃん。それ例の妹ちゃんの声マネでよろしく」
菜「抱っこして?お兄ちゃん」
豊「あざとい」
茂「いいからお前もやれって。彼氏の点数稼いどけ」
豊「いくら稼ごうが、どのみち菜々ちゃんの飯代を奢るのは俺なんだがな…」
菜「抱っこしてくれたら免除してあげてもいいです」
豊「じゃあやる」
茂「ゲスいわ」
豊「どのみちやらなきゃごねるんだろ…いくぞー」
菜「はーい」
豊「よっと」
菜「うやー!」
豊「…気が抜けるリアクションやめろって」
茂「で、感想は?」
豊「…特に」
菜「えー!」
豊「だって俺、三回目だし」
菜「あたし的には一回目なのに!」
豊「降ろすよー」
茂「抱っこする方は色々気ー遣うし、コメントに困るんだよ実際」
豊「まさにそれ」
菜「うー!」
茂「うーうー言うのやめなさい」
豊「そのネタ何だっけ」
菜「あーあ。せっかく二人に抱っこしてもらえたのに、全然得した気分になれないです」
茂「残念だったななっちゃん。きゅんきゅんできなくて」
豊「きゅんきゅんってお前な。どっちの立場だろうが恥ずかしいだけなのはわかりきってんだろ、いい歳なんだから」
菜「むか」
茂「あちゃー」
豊「…何」
茂「裕太。その発言だけは完全アウトだ。いくらなっちゃんだからって、女子相手に年齢ネタでツッコむのは御法度だろ」
豊「いや、俺はただ、抱っこしたくらいでいい大人が…」
菜「ううううぅ…!」
茂「…こりゃ色々と手遅れだな」
豊「え、あの、菜々ちゃん?俺そんなに間違ってること言った?」
菜「知りません!」
茂「まあ落ち着けなっちゃん。裕太も別に悪気があって言った訳じゃないんだって」
豊「そ、そうそう」
茂「大したことはしてねーけど、仮にもこいつはなっちゃんの命の恩人だろ?ちょっと言葉の選択ミスったくらいで、そう怒りなさんなって」
豊「そうそう」
茂「裕太のラッキースケベに免じて、許してやれよ。ラッキーにばっかりあやかってるようで、実はなっちゃんの意識がない間にちゃっかりスケベしたかもだけど」
豊「そうそう……って馬鹿野郎!」
茂「ほう。ノリツッコミで来るとは珍しい」
豊「誤解だからな!?俺が話したことに嘘偽りなんかひとっつもないからな!?信じてくれ菜々ちゃん!」
茂「なっちゃんの意識がない間の裕太の話を信じるかどうかは、日頃の裕太のスケベっぷり次第」
豊「てめえ弁解するふりして楽しんでるだけだろ!」
菜「あーもうっ!豊島さんの奢り免除の話は無しです!」
豊「あー、いいよいいよ。それくらいで許してくれるなら…」
菜「全員分払ってください」
豊「はあ!?」
茂「おーラッキー」
豊「ちょっと待て!誤解を招く事実無根の発言をしたシゲの分まで奢るとか、納得できるかっつの!」
菜「じゃああたしに何もスケベなことしてないって、証明出来ますか?」
豊「…………出来ません」
茂「…なんつーか、哀れになってきたわ。他人事ながら」
菜「今日はあたしもカナちゃんさんも、散々な一日だったんですから。少しくらい豊島さんのラッキー分けてくれたっていいじゃないですか」
茂「確かにそうだ」
豊「はあ……ツイてねーわ」
せっかく三人で恋人をしている変わった関係の彼らのうち、ラッキースケベばかりにラッキーさせるのは不公平だろうということで急遽書き上げたネタです。おふざけ全開でさらっと書けました。
菜々の不眠症に触れたり、豊島が病室を離れていた理由に触れたりと、色々と外伝の補足を交えることが出来ました。そしてラッキーな豊島に始まってアンラッキーな豊島で終わる。外伝とSSという二作に渡って割と綺麗にまとめられたのではないかと。
それにしても、デリカシーのない男どもですね。そんなんだからいつまで経っても魔法使いなんだよ、とツッコミながらそんな彼らを主題に取り上げて書き上げた作品でした。




