おみくじと初夢の巧妙な罠
時系列・・・「涙の魔法」完結から数日後の月曜日。
元日の朝から三人で初詣。少し遠い場所にある大きめの神社でお参りを済ませ、おみくじで今年一年の運試しを。
茂松「……げえっ!」
豊島「どうした、関羽でもいたか?」
菜々「再現率を上げるための銅鑼がありませんからね。お寺の鐘で代用します?」
豊「…三国志ネタまで知ってたの?菜々ちゃん」
菜「ジャーンジャーンジャーンっ、ですよね」
豊「合ってるな」
茂「何かの間違いだろコレ!嫌々連れてこられた挙げ句、この仕打ちはあんまりだ!」
菜「うええ!?大凶!?」
豊「……ぷ」
茂「てめえ笑いやがったな裕太!」
豊「まあそう怒るな。新年早々カッカしてっと、余計運気が逃げるぞシゲ」
菜「ほあー。大凶なんて本当にあるんですねえ」
茂「…なっちゃんはどうだったの」
菜「あたし大吉ー!」
豊「さあっすが」
茂「しこたま運気吸い取られた感が半端ない」
菜「被害妄想おーつ」
茂「憎たらしいわー。で、裕太は」
豊「半吉」
菜「……はんきち?」
茂「……それっていい方?悪い方?」
豊「知らん」
菜「はんきち」
茂「…書いてある内容もどっちつかずというか、いいんだか悪いんだかわかんねーな」
豊「名前の通り、ちょうど中間の運勢ってことじゃねーか?」
菜「はんきちぃー」
豊「なんでそれさっきから繰り返してんの、菜々ちゃん」
茂「言葉の響き気に入っちまったんだろ」
菜「はんきち!」
豊「巫女ものか何かの四文字タイトルアニメか」
茂「今年も夫婦漫才は絶好調なようで何よりだわ」
菜「…って、カナちゃんさん!なんでもうおみくじ結んじゃってるんですか!」
茂「あー?だって一通り読んだら枝に結ぶもんなんだろ?」
菜「あたしまだ読ませてもらってないです!恋愛運チェックしてないです!」
茂「恋愛運もそれ以外もぜーんぶ絶望的でござんしたー。大凶なもんでー」
菜「おのれ孔明!」
茂「だまらっしゃい」
豊「ネタを織り交ぜすぎだ」
――なんやかんやで初詣を済ませ、豊島の車で帰る途中。
菜「すぴー…」
茂「……寝ちゃったな、なっちゃん」
豊「夜勤明けだし無理もねーよ。着くまで寝かせとけ」
茂「着いたらお姫様抱っこでベッドまで運んでやれよ?」
豊「んなこと出来るか」
茂「爆睡してんなあ。寝顔見放題だぞ裕太」
豊「…安全第一」
茂「かてーこと言うなよ。ルームミラーで見れんだろ」
豊「別に見なくていいし。…………ちっ」
茂「拗ねるな、信号が赤になんなかったからって」
豊「拗ねてねーわ」
菜「むにゃ……豊島さぁん…」
豊「……寝言か?」
茂「初夢に彼氏の夢見るとは、相当愛されてんなあ裕太」
豊「…うるせーよ」
菜「…んにゅ……らめれすぅ……そんなとこ、突っ込んだり……したら…」
茂「……」
豊「……」
茂「……まさかの、淫夢?」
豊「んなわけあるか!」
茂「馬鹿っ、声でけーっつの。なっちゃん起きちまうだろ」
菜「うあー……あたし、まだ、準備が…………あああそんなにイキったらあられもない姿にぃ…」
豊「だああああっ!!」
菜「にゃああああっ!?」
茂「あーあー起こす奴があるかヘボ彼氏が」
菜「あぇ?…あたし、寝ちゃってました?」
茂「おはよ。純情彼氏に安眠妨害されて、かわいそうにな」
豊「……とりあえず、ごめん。せっかく寝てたのに」
菜「ああ、いえ、むしろ車出してもらってるのに、あたしだけ寝ちゃうなんて…」
茂「ろくに正月休み取れねーなっちゃんが気ー遣うことねーよ。むしろこいつ叱ってやれ。正月デートに浮かれて、仕事で疲れてる彼女起こしてんじゃねーって」
菜「叱る気なんて起きませんよ。今見てた夢に出てきてくれたんですから、豊島さん」
豊「…そう、なんだ」
茂「ちなみにどんな夢見てた?」
菜「一緒にゲームしてる夢です。例のネトゲで」
豊「…………ゲーム?」
菜「はい」
茂「えーと、確か、そのネトゲで裕太が使ってるのは特攻型のキャラで、なっちゃんは支援型のキャラなんだっけ」
菜「そうです。豊島さんたら、火山地帯のフィールドに行くクエスト受けたのに、皮とか布系の装備ばっかり身につけて来ちゃって」
茂「…そんな装備で大丈夫か?」
豊「…大丈夫じゃない、装備が燃える」
茂「やっぱそういう仕様か」
菜「カナちゃんさんと同じ台詞、あたしも夢の中で言ったんですけど、ここで死ぬ運命ではどうたらこうたら言いながら、軽装備の豊島さんのキャラは颯爽と火山へ…」
豊「…つまり、俺のキャラが軽装備で特攻かけることを想定してなかった菜々ちゃんは、装備を保護する補助アイテムの準備が間に合わず、何故かイキった俺は火山に突っ込んでった、と」
茂「で、裕太のロリキャラの装備が燃えて、あられもない姿を晒したわけだ」
菜「…なんでそこまでわかるんですか?」
茂「健全な夢でよかったな裕太。なっちゃんの寝言の謎が解けて、一安心だろ」
菜「わええ!?あたし寝言いってました!?」
豊「…あやうく、あらぬ誤解までするとこだったよ」
茂「そんなとこ突っ込んじゃらめえ、なんて言われちゃな」
菜「はわわわ…!」
豊「新年早々、不健全な疑いをかけて焦らされるとはな…」