新谷ありさ 他者視線恐怖症
カララ・・・
「失礼します。少し気分が悪いんですけど・・・」
3限目の途中に女子生徒が保健室に入ってきた。
「あら、大丈夫?少しベットで横になりましょうか?」
北斗が声をかけベットへ向かう。
女子生徒は北斗を見ようとはしなかった。
「君、2年生かな?」
誠史郎が声をかけると女子生徒はビクッとしてうなずいた。
「どういう風に気分が悪いか少し教えてくれないかい?」
女子生徒の行動に違和感を感じ、誠史郎は相談室のソファをすすめる。
少しためらいながら女子生徒はうつむいて相談室に向かった。
「名前は?」
「新谷ありさ 2-Cです」
「どんな風に気分が悪いんだろう?」
「・・怖くて・・」
「ん?」
「みんなの目が怖くて・・・いつも誰かににらまれている感じがして・・・」
ありさは誠史郎の目もあわせず、下を向いて話し始めていた。
「振り返ったらにらまれていた?」
「怖くて振り返れません・・・」
「大丈夫。誰も新谷さんの事をにらんでなんかいないよ?」
「でも・・・いえ。そんなことはありません」
「いつから?」
「2年になってクラス替えしてからです」
「少しクラス替えの緊張からきていると思うよ?大丈夫、気にしないで。
思ったよりみんなは新谷さんのことをじろじろ見ていないから?自分の目で確認してごらん。
そしてその回数を増やしていけばどうかな?」
「他の人を見るのは怖いです」
「そう。だから最初は一日1人を背中だけでも見てみよう?」
「大丈夫。それで時間をかけてクラスメイトの後ろ姿でいいから視線を上げよう」
視線を斜め下に落としたままの、ありさ。
「どうしても無理そうならお家の人と相談して
カウンセリングしながらやってごらん?並行してやるともう少し肩の力抜けるよ?」
「思い詰めたりしないで。ガマンしては駄目だよ?本当に少しづつで平気」
「カウンセリングって、私病気・・ですか?」
「うーん。そんなに深刻に考え込まなくても平気だよ。
せっかく新しいクラスになったんだから、新しい友達作りたいじゃない?」
こくりと、ありさはうなずく。
そのままありさは午前中をベットで過ごし、保健室を後にしていった。
「対人恐怖症ですか?」
北斗がたずねる。
「いや、どちらかというと他者視線恐怖症でしょう。クラス替えからならまだ治りますよ。
何がきっかけだったのかが少し気になりますが、
仲のよかった子とクラスが離れてしまったりしたんでしょう。
いきなり発症してしまう子もいますが、学校に登校できてますから彼女は大丈夫ですよ」
誠史郎は言う。
クラス替え 生徒にとっては大きなイベントなのだ。
体調も心も不安定になる。
「う~ん。不安定か」
コーヒーを飲みながら誠史郎がつぶやく。