80.ネル、姉になる02
「そうさね、あれはアタイがこの王都に来る前さね。
医者も居ない辺境の村で、アタイは男の子を生んださね」
ナンシーさんの出産の間、オバサンが話をしてくれた。
マック君やネルが聞き入ってる。
ナンシーさんも、痛みを我慢しながら聞いているらしい。
「……それで15の時、王都で兵士募集してるのを聞いて村を出て行ったさね。
兵士になって、王都でパン屋の娘を引っかけて、そのことを手紙に書いて送って来たさね。
まったく、あのバカ息子、村にちっとも帰ってこなかったさね」
俺はナンシーさんと胎児の様子を鑑定する。
ふむ、問題ないな。
「それで、娘が生まれたとか手紙で自慢してきたから、孫の顔見たさに、アタイは王都に来たさね。
ああ、ネルちゃんが知ってる、あの子さね。名前はシャム。
アタイは孫の可愛さのあまり、実家を売り払ってこっちに引っ越すことにしたさね」
「母方の両親と住むことになったわけですね。揉めたりしなかったですか?」
マック君は他所行きモードの喋り方だ。
「揉めたさね! シャムちゃんに誰がおやつをあげるかで、いつも喧嘩してたさね!
よくもまあ、そんなくだらないことで揉めてたもんさね!」
……む、胎児の頭が見え隠れし出したぞ。
ナンシーさんはここから激しい痛みが現れるはずだ。
痛みにヒールをかけないのか、だって?
ヒールの仕組みがよく分からないから、うっかり普通の痛みどめの効果が表れると、胎児に悪影響が出るから駄目だ。
「あたたた! 助産師さん、もう産まれるんですか?!
早くないですか?!」
「奥様は経産婦なので、初産よりも早く済むんですよ」
と言っても、分娩の第2期と第3期は、初産と1時間くらいの差しか無かったはず。
その代わり、第1期が終了する時間が大幅に短くなるのだ。
順調に進めば、あと2時間以内に胎児が娩出されるはずだ。
「奥様! 呼吸は、長く息を吐くように心がけると良いですよ!」
「すぅ、すぅ、はぁーーー。イタタタ……少し痛みがマシになりますね」
ラマーズ法を教えたいのだが、まあその呼吸法でも良いか。
俺達は無駄話を止め、ナンシーさんを見守ることにした。