75.タイプライター
翌日、俺は森に帰らず、マック君と一緒に町の工房に向かった。
なぜかネルもついてくる。
その工房には、小人のようなオッサンが8人ほど居た。
「こんにちは。王国お抱えのドワーフの皆さん」
マック君が挨拶する。
マック君いわく、ドワーフというのは鍛冶が得意な亜人である。
人間に友好的なので、国が保護しているのだとか。
「わぁ、かまどがたくさんあるー!」
ネルは工房にたくさん並ぶかまどに喜んでいる。
「おお、ニコの旦那!
旦那が作ってくれたミスリルの塊は中々良かったぞ!
おかげで兵士の連中に上等な武具を作ることができた!」
「それは良かった。
ところで、ここに居らっしゃる猫さんのお願いを聞いてほしいんだけど……」
「ん、何だって?
猫さん?」
「にゃー(こんにちは)」
小さなオッサンが俺を見る。
「ははぁ、この猫が例の、ケット・シーって奴ですかい?」
「まあそんなところだね」
俺は木の板を取り出し『違う』と書く。
これ以上、俺に変なあだ名を増やすんじゃねぇ。
「おお! 人の言葉が理解できるんですかい!
すげぇや!」
「猫さんは凄いんだよー!」
自分のことでないのに、ネルが得意げな顔をしてる。
「で、要件を聞きましょうか」
俺は、昨晩2人が寝た後に書いた、タイプライターの設計図を見せる。
生前、学会用のイラストはほとんど自分で書いていた。
外注で頼むと高いからな。
多くの研究室はいつだって火の車寸前なのだ。
小さなオッサンは設計図を書いた木の板を見て、目を開く。
それを持ちあげる。
手が震えている。
「ニコの旦那……」
「どうしたの?
技術的に難しい?」
「確かに難しいが、やって出来ないほどじゃねぇ。
それよりだ……これはすげぇ発想だ。
文字を書く機械なんて、信じられねぇ」
オッサンはポケットから酒ビンを取り出して飲む。
昼間から酒を飲むんじゃない。
「ぷはっ! よーし!
ニコの旦那! 確かに引き受けた!」
「どのくらいで出来そう?」
「少なくとも1週間、いや、1ヶ月くらいかかりそうだ」
「ん、じゃ、よろしく。
費用は王様につけておいて」
「まいどっ!」
俺達は工房から出る。
完成したらマック君が受け取るらしい。
その間に、俺は紙の製造にでも取りかかるとするか。