621.【後日談】猫の日2024年
「誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントだけ渡して、彼氏の義務を終えましたみたいな顔をする男がいるじゃないですか」
「にゃー(なんの話だ)」
ぽかぽか陽気のある日の昼間、俺は魔獣都市マタタビから南東に居る、全長100kmの巨大アースドラゲニャイ(睡眠中、あと数十年後に起きるだろう)の上で日向ぼっこをしていたところ、ヨツバに叩き起こされ(というか腹を勝手に触られた、セクハラだ)、意味の分からない話が始まった。
「違うんですよ! 普段の何気ない日も大事にしてほしいんです! 例えばそう、猫の日だけ猫の話を作る小説家! そう、そこのあなたの事です!」
ヨツバは空に向かって、ビシッと指差す。
空には大量のマグロちゅるる〜んの袋が舞っている。
あぁ今日も良い天気だ。
「にゃー(空に誰か居るのか?)」
「居るんですよ、この世界の創造主、管理人が!」
「にゃー(誰も見つからないが。まぁ、神様連中に物理的な座標は関係ないかもしれないな)」
ヨツバの言う創造主が誰の事を言っているのかは知らないが、この場所の創造主ならハーディス様か。
「この世界は作り物なんです! それにようやく気が付いたんですよ! ゲームの電源をプチっと切るように一瞬で消える、データだけの存在なんです!」
「にゃー(確かそんな仮説があったな。時代ごとに色んな呼ばれ方をされてるが、一番有名なのは前世のシミュレーション仮説、か)」
もっとも、そんなもの証明出来なければただの戯言だ。
自分だけが世界の真理に気づいている、と勘違いしてほくそ笑む学生と変わらない。
いい大人のヨツバがこんな事を言うのも、心が子どものままなのだろう。前世はきっと高校生くらいで終えたに違いない、そこから魂が老化せずそのままの価値観を持ち続けているのだろうか。
……。
……ZZZ……。
「猫さん、話は終わってませんよ! まずは世界の創造主に反逆すべく、世界全体に負荷をかけて化けの皮を剥がしてですね……」
「にゃー(餃子の皮が何だって?)」
「誰が中華料理の話をしていますか! いいですか、私達はこれから世界の真理に挑むべく」
「ま゛あ゛あ゛あ゛ーーーーーー!!?(小籠包が出来たってマ!?)」
「にゃー(いかん、アースドラゲニャイが中華料理の話につられて起きた! こいつの大好物は小籠包だ!)」
こいつが通った場所は中華料理にされ、都市ごと滅ぶ。
今、魔獣都市マタタビに向かっているぞ!
あと10秒も持たない!
もう駄目だ、おしまいだぁ。
いや、まだだ、魔獣都市マタタビがバトルフォームに変形して、巨大八宝菜を地下から召喚したぞ!
これなら対抗出来る!
さぁ、今こそ……
◆ ◆ ◆ ◆
「誕生日プレゼントやクリスマスプレゼントだけ渡して、彼氏の義務を終えましたみたいな顔をする男がいるじゃないですか」
「にゃー(それいけ、八宝菜バリアだ!)」
「……はぁ?」
負けるな、魔獣都市マタタビ!
……む。夢を見ていたようだ。
というかそもそもネコ科魔獣が、ニンニクたっぷりの中華料理が好物なわけないだろう、体に毒だし。
今は夕暮れ時、ここは宿屋のベッドの上だ。
この匂い、今日の夕食はナンシーさん手作りの中華料理だな。
「違うんですよ、普段の何気ない日も大事にしてほしいんです!」
ヨツバは、俺を冷めた目で見てため息をつき、何事も無かったかのように続けた。
「にゃー(言われてるぞスペンサー君)」
「わ、吾輩!? いやヨツバの彼氏ではないが」
あたふたする片眼鏡のスペンサー君に、ムスッとしてるヨツバ。青春だなぁ。
「にゃー(さぁ俺はもう一眠りするとしよう)」
「猫さんはのんきで良いですね……」
何を言う。これから夢の中で魔獣都市マタタビを救わないとならないんだ。
二度寝しようとしたが、外が騒がしい。
そういえば今日は猫の日か。
外に行けば屋台に美味しい物がたくさんあるだろう。
だが俺は眠い。
お祭りに毎回参加する必要もあるまい。
義務ではないのだし。
俺は今日は寝たい気分なのだ、なので寝させてもらう。
……。
…………。
「にゃー(ぐぁぁ八宝菜バリアがぁ〜!?)」
「なんなんですか、さっきから!?」
俺の夢の中では、魔獣都市マタタビは小籠包にされてしまいアースドラゲニャイに食べられてしまった。無念だ。




