619.【後日談7】隣の飯は美味そうに見える
おはよう。今日も良い天気だ。
昨晩は久々に、自宅じゃなくて外で寝た。
と言っても魔獣都市マタタビ内の道の端っこで寝たのだが。
都市の気温は適温で管理されているので、そこらへんで寝ても風邪をひいたりはしないのだ。
俺はお気に入りの木箱から飛び出す。
木箱を仕舞おうとしたら、黒毛皮のネコ科魔獣が、木箱に吸い込まれるように入った。
「みゃーん(すごくイイ! 何故か分かんないけど、この木箱は他と比べ物にならないくらい居心地がイイッ!!)」
そりゃそうだろう。
なにせエルフの建築家、チャールズ君の渾身の作だ。
そのまま木箱は置いておくことにした。
俺からのプレゼントだ。
さて、今日は猫の日だ。
あちこちにネコ科魔獣向けの食べ物を売っている屋台が乱立し、お祭り騒ぎになっている。
ハメを外し過ぎたネコ科魔獣達が、猫のお巡りさんに怒られているのが見える。
俺はというと、特に予定も何もなく、てくてくぶらぶらと散歩している。
うむ、異常なし。
まあ直接見なくても、このあたりの事は肌感覚で全部感知出来るのだが。
猫としての本能が、自分で見て歩いて周辺のチェックをせよ、とささやきかけるのだ。
もっとも俺は他のネコ科魔獣みたいに、自分の縄張り的なものは持ってない。
なので、チェックすべき場所も持ってない。
「にゃー(おっと、もう都市を1周してしまったか)」
先ほどの場所に戻ると、俺がプレゼントした木箱の中に、ネコ科魔獣が6体ほど詰まっていた。
狭くないのか?
「おーい、ご飯の時間だぞ〜」
「みゃーん(はーい)」
人間が、ネコ科魔獣を呼ぶ。
だが呼ばれたネコ科魔獣は返事だけして、木箱から出てこない。
冬の寒い日に布団から出られないのと同じ感じか。
仕方ないな。
俺は人間の前に来て、ちょこんと座る。
「にゃー(代わりにご飯を貰ってやってもいいぞ)」
「何を言ってるんだこの魔獣?」
「みゃーん(ダメ! 僕が貰うの!)」
俺にご飯を取られると思ったのか、木箱から黒毛ネコ科魔獣が出てくる。
そして人間の奴隷が、黒毛ネコ科魔獣にご飯をあげる。
カリカリタイプのやつが、お皿に盛られている。
何故か俺の元にも、同じご飯が置かれた。
ふむ、くれるなら貰おう。
ぼりぼり、ぼりぼり。
マグロベースの王道の味だ。美味い。
ふと、黒毛ネコ科魔獣が、俺のご飯の皿に視線を注ぐ。
俺も彼のご飯の皿に視線を注ぐ。
俺と彼は、何も言わず場所を交換した。
そして交換した皿のご飯を食べる。
ぼりぼり、ぼりぼり。
さっきと同じ味だ、分かってた事だが。
隣の飯は美味そうに見える。
まさに至言だな。
その後、知らない人にご飯をたかったことを、乞食ですかとヨツバから罵られた。
やれやれ、食べニュケーションを理解出来ないとは、ヨツバは猫の事を何も分かってないな。