618.【後日談7】猫パ その21
・トミタ(猫)視点
ゴゴゴゴゴ……
地響きとともに、地面から台座が次々と現れる。
台座には『乗ったらギミック発動(班に有利)』と『乗ったらギミック発動(班に不利)』と書かれている。
前者の台座にはお魚マークが、後者の台座にはバッテンの付いたタマネギマークが付いている。
ちなみに台座の高さは15cmくらいだ。
「にゃ!(台座に乗ると、ギミックが発動するよ!
続いて、外周リングが現れるよ!)」
司会の白い猫又の言葉とともに、会場がグーンと広くなり、10の班を取り囲むように地面から幅20cmほどの荒縄が現れる。
「にゃ!(縄から外に体が付いたら、アウトだよ!)」
「にゃー(縄から外に体が出ずに、縄に乗っている状態はセーフか?)」
「にゃ!(セーフだよ!)」
つまり、この縄から外側に出れば、班の残機が失われる。
その辺は相撲と同じか。
ルールを分かっていない魔獣が何体か、縄をひょいっと飛び越えたり、ちょいちょいっと触ってみたり、噛んだり、乗って爪とぎをしたりしている。
「にゃ!(ではでは~、バトルロイヤル相撲、スタート~!)」
「にゃー(よーし、まずはギミックとやらを試してみよう)」
お魚マークの台座に、ひょいと乗る。
ポチッ! という音とともに、台座から光の粒が現れ、俺達爪とぎ班を包み込む。
――――――――――――――――――――――――
爪とぎ班にバフ追加。
パワー1.5倍
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ふむ、班に有利なギミックというのは、こういう感じか。
ならば積極的に狙ってもいいかもな。
逆に班に不利なギミックへと、他の班員を追い込むような感じで立ち回るのが良いのだろう。
「あんなー(ボクも乗る~)」
ポチッ!
アンニャが、タマネギマークの台座に乗ってしまった。
どこからともなく段ボール箱が出現する。
ご丁寧に、『産地直送! リング外行き』と書かれている。
おそらく、この段ボールに入ると、リング外へと運ばれるのだろう。
「にゃー(こんな見え見えの罠につられる奴が居るのか?)」
だが、爪とぎ班の皆は目を輝かせている。
よく見ろっての。
ガブリ。俺は段ボール箱に飛びつき、噛む。
「痛ってぇ!?」
「にゃー(いわゆるミミックという魔獣だな)」
「おぁーん(我が愛しき段ボールから、手足が生えてきたのだ!?)」
「ちくしょう、こうなったら力づくでリング外に連れ出してやる!」
ミミックから、さらに体が生え、段ボール頭の人間の姿となり、俺へ目掛けて襲ってくるが、甘い。
猫の体の柔らかさを駆使して、猫パンチにフェイントを混ぜて翻弄する。
「おわぁああああああーーー!?」
「にゃー(頭が高いぞ)」
ずてーん!
俺の動きに付いていけずに、ミミックは床に倒れる。
「にゃー(よーし、さっそくコイツで、色々と試してみよう)」
この特殊ルール下で、俺や他の班員がどのくらい弱体化ハンデを負っているか、ミミックをサンドバッグにして測定するのだ。
「にゃー(みんなで、この偽物段ボール君を攻撃だ)」
「ピィウ!(偽物段ボールめ! よくも俺達を騙したな!)」
「グルルゥ(お仕置きなの~♪)」
「ナニィ(噛んで、爪とぎして、馴染んでいく。それが段ボールです)」
ガジガジガジ!
ケリケリケリ!
ガリガリガリ!
班員に噛まれ、蹴られ、爪とぎされ、ミミック段ボールは一瞬にしてボロボロの段ボール箱になった。
「ぐっ!? 殺すならひと思いに殺せ!」
「にゃー(悪いが、ネコ科魔獣は、いたぶる趣味を持っているものだ)」
そしてボロボロの段ボール箱は、さらに壊れ、噛まれて湿気て、いいようにオモチャにされる。
「にゃ!(はいは~い、そろそろ回収するよ~)」
司会の猫又がやってきて、段ボールミミックを連れて行こうとするが、班員がイヤイヤと段ボールミミックに乗る。
せっかく馴染んだオモチャを取り上げられるのは、不本意なのだろう。
だが、ネコ科魔獣達が乗ったのがトドメになったのか、段ボールミミックは光となって消えてしまう。
「おぁん(あぁ、我が段ボール……)」
「ニゥ(な、何よ! あんたなんて居なくても、次の遊び相手が居るんだから!)」
そう言って、ジョンさん家の金髪ロールマンチカンは、タマネギマークの台座に乗ってしまった。
多分、段ボールミミックのおかわりが来ると思ったのだろう。
他の班に有利なギミックが来ると思い、俺は身構える。
だが台座に乗っても何も反応は無いようだ。
「にゃー(台座の効果は1度きりか、あるいはクールタイムがあるのか?)」
「み(試してみます)」
ピンポン猫がお魚マークの台座に、ぴょんと乗る。
だが反応無し。
「にゃ!(一度発動した台座は、5分間使えないよ!)」
「にゃー(だからルールは先に言えっての)」
司会の説明が後から入ってくる。
ま、一度に沢山ルール説明されても、ネコ科魔獣達が混乱するだけ、か。
「にゃー(さて、俺達の現状の能力値だが……)」
先ほどのミミック段ボールとの戦闘で得たデータを班員と共有する。
変化しているのは、素のステータスだけではない。
噛む破壊力と猫キックは全員、大幅に弱体化されている。
だが猫パンチの、吹っ飛ばす力が大幅に強化されている。
つまり、いかに敵の班の班員に猫パンチを当てるか、というのが今回のゲームの鍵になりそうだ。