60.マック君絶賛の童話
俺が宿屋の扉をノックすると、ナンシーさんが迎えてくれた。
「あら、おかえりネル。
ずいぶんたくさん買えたのね。
ところで、そちらの方はどなたかしら?」
「ニコっていう、変な人だよ!」
「どうも、こんにちはお姉さん」
ニコはぺこりと礼する。
カツラがとれないか俺は心配しているのだが、これくらいでは大丈夫らしい。
「お嬢さんが持ちきれないほどの肉を持っていたので、運ぶのを手伝ってあげました」
「まぁ。わざわざありがとうございます。
こらネル。
手伝ってくれたお兄さんを変な人呼ばわりして」
「この人、女だよ?」
「一応女性です」
「え? あら私ったら、ほほほ」
マック君の性別を間違えたナンシーさんは気まずそうに肉を受け取った。
その後、ごゆっくりどうぞ、と厨房の方へ行ってしまった。
昼食時にはまだ早いはずだが。
「じゃあねニコさん。ばいばい」
『じゃあな』と書く。
「待った二人とも! ボクはもっと猫さんと話がしたい!」
『また今度、森の家に来い』と書く。
「森は今、魔王軍幹部のエルフとガーゴイルが居るからって、侵入禁止にされているんだ。
だからボクが猫さんと話すチャンスが今しかないんだって!」
フランベルジュが現れたせいで、森への警戒が強まったらしい。
話がややこしいことになっているようだ。
「頼むよ猫さん、ボクは猫さんの素晴らしい知識を聞きたいんだ」
俺をヨイショしすぎじゃないだろうか、マック君は。
「猫さんのお話? 私も聞くー」
俺達はネルとナンシーさんの寝室に入る。
そして俺はお話をすることになったのだが。
『で、何について聞きたい?』と書く。
「ボクは、猫さんの魔法の知識を聞きたい!」
俺は魔法のことなんて、これっぽっちも知らないので断った。
「猫さんの好きな本のお話が聞きたい」
ネルのリクエストに答えて、俺はお気に入りの話の一つ、『不思議の国のアリス』を話してやることにした。
ネルはとても喜んでいた。
マック君は最初つまらなさそうにしていたが、だんだんと興味が沸いてきたらしく、最後は俺が書いた板をくれと言った。
「これはすごいよ猫さん!
ボクが知ってる童話の中でも面白さでは随一だ!
王様ご用達の出版屋に頼んで、本を作らせるよ!
絶対売れる!」
後日、『不思議の国のアリス』はフランベル国のみならず、全世界でベストセラーとなるのだが、この時の俺はそんなこと知る由もない。




