33.魔王シルフ
シルフ婆さんが語った内容を要約すると……。
昔婆さんが森に迷った時、エルフに助けられて、人間の里に送ってくれた。
お礼をしようと、大人達にエルフの住み家について教え、宝石のネックレスを託した。
だが、大人達はエルフを捕えて売り飛ばした。
ネックレスはネコババされていた。
大きくなったシルフがそれに気付き、怒り、当時その行いをした人間を殺した。
エルフ達亜人が受けている迫害に真っ向から喧嘩を売り、途中でエルフの仲間に出会い、エルフが仲間にしている魔獣も保護し、やがて魔王と呼ばれるようになり、なんやかんやあって今に至る、と。
確かに人間の敵ではあるな。
だが根っからの悪者じゃないらしい。
「バステト様、ワシは間違っておるのじゃろうか?」
「にゃー(知らん)」
『さぁ?』と書く。
立ち場が違えば正義も違う。
なるほど、エルフ族にしてみれば、人間なんてクソ食らえってわけだ。
魔王につくというのも納得できる。
だからと言って、シルフ老婆は関係ない人間を殺めすぎているらしい。
人間社会からすれば倒すべき敵なのだろう。
『ところでエルフ族ってどんなの?』と書く。
「私みたいなのですよ~」
彼女は人間にしか見えないのだが、何か違うのか?
「バステト様にとっては、亜人と人間の区別なんてささいなものなのじゃろう。
エルフ族は、耳が伸び、森に住まう種族じゃ」
ふーん、耳が伸びてるだけで迫害されるとか、大変だなエルフ族は。
生前でも、肌が黒いだけで差別してた歴史もあったくらいだし、なんだかなぁ。
っと、喉が渇いた。
水を飲もう。
俺は水瓶とコップを四次元空間から取り出し、水をすくって飲む。
猫だからほんの少しでいい。
ごくごく……ぷはっ。
美味い。
「にゃんこさん、私にもお水くださいな~」
「これ! ずうずうしいぞアウレネ!
……ワシにもくれると嬉しいのう」
二人に焼き粘土製コップで水を汲んで渡す。
水分補給は大事だからな。
特に年をとると、自分が脱水状態になったと分からなくなるし。
シルフ婆さんはその後、雷になって帰っていった。
金髪少女アウレネを残して。
「今日から私もここに住みます~」
いや、お前も帰れよ。
というか何しに来たんだあの老婆。