28.錬金術師、風呂に入る
・錬金術師マクドーン視点
ボクはマクドーン・ハウエル。
今は偽名で『ニコ』と名乗っている。
外れの小屋で研究してただけなのに、研究成果が戦争に役に立つと分かると色んな国の連中が目の色を変えてボクを捕まえようとした。
追跡を逃れ、旅費も食料も尽きてフランベルの森で何か食べるものを、と探索してたら道に迷ってしまった。
森で猫さんに助けられていなければ、あのまま野垂れ死にしていたことだろう。
あの猫さんは、四次元空間、ライトの魔法を使っていた。
もしかすると聡明な魔法使いが変身していただけなのかもしれないな。
今度会ったら、改めてお礼しよう。
コンコン。部屋がノックされる。
「ニコ様! 風呂の用意が出来ております!」
「ありがとう」
体はかなり汚れていて、汗もかいている。
水で拭けばいいやと思ってたけど、まさか風呂を用意してくれるとは。
風呂なんて王族や貴族しか使えないはずだけど、ボクは王様のお客さん扱いだからかな。
◇ ◇ ◇ ◇
大きな木の桶みたいな風呂は、体を伸ばしても浴槽の端に届かないくらいには広かった。
うん、気持ちいい。
「勇者様! ただ今ニコ様が入浴中です!」
「だからどうした? 俺は入るぞ。
汗が酷いからな」
「ニコ様は大事な来客です!
失礼のないようにお願いしますよ!」
「わかったわかった」
ん? 扉の向こうから声が聞こえる。
がちゃり。
「あー、来る日も訓練、訓練。
ったく、やってらんねーよ」
黒髪の男の子が入って来た。裸で。
「隣入るぞー」
「え、ちょっと待っ」
ざぶーん!
「はー、生き返る!
風呂上りのコーヒー牛乳があれば最高なんだけどなー」
何で平然としているんだろうこの男の子は。
風呂って男女が一緒に入ってもいいのだろうか?
「にしても、お前イケメンだな。
体もすらっとしてるし、まるで女……んんん?」
男の子はボクの下半身を見て、顔を赤くする。
「女かよ?! くそっ!
どうしてあの兵士、止めなかった?!」
言いつつ急いで彼は出ていった。
そしてボクも温まったから風呂から出る。
布で体を拭き、着替えを着て自室に戻って寝た。
翌日、王様一同から謝られた。
ボクのことを男だと思っていたという。
別に自分のことを美少女だとかは思ってないけど、ちょっと傷つくなぁ。