25.錬金術師ニコ
・フランベル4世視点
「陛下! マクドーン・ハウエル氏が入城したようです!」
「すぐに通せ」
「はっ!」
兵士が部屋から出ていく。
珍しい客が来たものだ。
稀代の天才錬金術師、マクドーン・ハウエル。
その錬金理論は、従来の賢者の石を基礎とした物とはまるでかけ離れていたため、錬金術仲間の間では異端者扱いされていた。
なので、人気のない場所で独学で研究されていたそうだ。
だが、その研究で生み出された魔法兵器の数々は、威力、生産力ともに優れ、魔王軍を圧倒する結果となり、彼の評価がひっくり返った。
今ではあらゆる国が、彼を迎え入れようと、あの手この手を尽くしているが……
「もしや、我が国につくことを考えたのでしょうか?」
防衛大臣が言うが、それはあまりにも楽天的な発想というものだ。
「彼は色んな者に狙われて亡命中だったはずだ。
わざわざここに現れた意味は何だ?」
「陛下! 間もなくマクドーン氏が現れます」
何にせよ、彼の目的を聞き出すことだ。
そこで取引が生じれば、彼に協力を要請することが出来る。
そうなれば魔王軍との戦いも有利になる。
コンコン。ノックの後、一人の少年が現れる。
「あの森に住む猫はどなたでしょう?!
教えてくださいませんか!」
マクドーン少年は開口一番、そんなことを話した。
一体何の話をしているのだ?
「っと、その話は後でいいか。
フランベル国王様、ボクはマクドーン・ハウエルです。
錬金術師をしているのですが、色んな奴に狙われて、困っています。
旅費も食料も尽きてしまって、もうどうしたらいいか……。
技術を提供するので、かくまってもらえませんか?」
マクドーン少年は天才錬金術師とはいえ、15歳の子供だ。
必死に逃げ回ってる最中に、財産が無くなって打つ手が無くなったのだろう。
彼の境遇に少し同情した。
「勇者の住む部屋の隣が開いていたな?
そこに住まわせることにしよう。
マクドーン氏よ、そなたには偽名を使って、変装して生活してもらうことになるが良いか?」
「国王の御心のままに」
「この場に居る者が、もし口を滑らせたなら、本人だけでなく家族類縁も打ち首にするぞ。
皆の者、良いな?」
兵士数人と防衛大臣がうなずく。
「では錬金術師よ、名を」
「ボクは『ニコ』と名乗ることにします、国王」
「うむ。ニコに女神ハーディスの祝福があらんことを」
ニコを部屋へ案内させ、食事を与えさせた。
貴重な錬金術の技術が手に入る千載一遇のチャンスだ。
決して無駄にはしない。
……ところで、最初に申していた森の猫というのは
何だったのだろうか?




