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238.猫、プレゼンする


王都では植物紙が既に出回り、植物紙の本も出版されつつある。

ただし貴族向けの値段だ。


今回は一般向けに本を安価に作ってもらえないかを出版関連の商会に依頼することになる。


俺は生前、薬の研究をしていたのだが、何も研究室に籠りっぱなしだったわけではない。

時に学会の連中、時に医者連中相手にプレゼンすることもあった。


その時の経験が役に立つだろう。


よーし、さっそく資料をパワーポイ○トで作るとしよう。



「にゃー!(ってパソコンもスクリーンもプリンターも何もねぇ?!)」



トークだけで何とかなるか?

一応資料はタイプライターで作るつもりだが。


その前に出版ギルドで、企画説明の時間を作ってもらえるか、リオン君を走らせて聞いてもらうとしよう。


む、この世界で、企画や商談に相当する単語が分からん。

本のことでお話があります、で通じるか。


手紙を書いたので、すぐにリオン君に届けてもらおう。

俺は資料作りに勤しむ。

あっ、鑑定で分からない単語を調べたら良かったな。

まあいいか。


リオン君が帰ってきた。

今日の夕方さっそく時間をとってくれるらしい。

随分と急だなオイ。


急いで資料を作らなければ。


◇ ◇ ◇ ◇



・各出版商会の反応


ここは出版ギルドの本館、その中央広場。

各商会に居る責任者が緊急で集められ、その中心に大魔導士の猫がすげぇ目つきで居る。


やべぇ。

俺達出版ギルドは、大魔導士の猫様に目を付けられたっぽい。


彼は良い噂では、バジリスクを殺し、闇ギルドを1つ潰し、疫病から国を救い、ルカタ帝国を従属させたとか。

だが悪い噂では、大工ギルドを解体したり、ホーア伯爵の取り潰しに関与したとか言われている。


そんな大魔導士様が、何たって俺達に目を付けた?

森の遺跡の宝石の文字盤を、勝手に本として出版したのがマズかったか?

いや、雑貨屋クローバーの壁のコラムを本にして、利益の多くを俺達が取ったのがバレたか?


心当たりが有り過ぎて、これから何を発表されるのかビクビクしている。

他の者も同じ気持ちか、顔色が悪い。



「にゃー……にゃん!

(えー、ではまず、お手元の資料をご覧ください。

……ああっ?! くそ!

やっぱり言葉が通じないのは不便だな!)」



大魔導士様は非常に不機嫌だ。


なぜかこちらを見て手招きしている。

え? こっち来い?

俺か? 俺を指名なのか?


左右を見ると、気の毒そうに顔を背ける。

ちくしょう! 何だって俺なんだ?!


ごめんな商会の皆。

どうやら今日で商会はお終いになりそうだ。

皆と仕事出来て、俺幸せだったよ。


大魔導士様はタイプライターを取り出し、『今からセリフ打つから読んでくれ』と打った。

何だ、ただの読み上げ係に俺を呼んだだけだったのか。

寿命が縮まったじゃないか。


始まったのは、文字の読みを学習出来る児童向けの本を、貴族でなく一般向けに出版しないか?

という内容だった。


大魔導士様に逆らう愚を犯す者はここには居ない。

満場一致で、その案を採用することにした。



『……ん? 反対意見は無いのか?』と打つ大魔導士様。



めっそうもない、と伝えると、何故か大魔導士様は『えー。何でだよ』と打った。

非常につまらなさそうにしている。


意見を述べよということか?

おい、誰か意見しろよ!


もういい!

毒を食らわば皿まで!



「恐れ多くも意見申し上げます。

まず一般向けに出版する際のデメリットについてですが……」



俺の意見に対して、余計なこと言うな! 機嫌を損ねるだろ!

と仲間連中の顔には書いていた。


だが大魔導士様は頷き、改良案を提示した。

何だ、話が分かる人じゃないか。

人じゃなくて猫だが。



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