211.パンを食う
翌日。
ヨツバは既に宿に戻っている。
俺は朝食前に、ヨツバに任されたスペンサー君の治療を行うことにした。
もちろん無料だ。
彼は小麦アレルギーに罹っているらしい。
アレルギーは、軽度の場合、咳やかゆみ等だけで済むのだが。
重度の場合、呼吸困難や、血圧低下による臓器障害など起こり、最悪死ぬ。
鑑定してみたが、小麦の他にスギと卵にもアレルギーを持っているらしかった。
スギアレルギーを持つ人は、果物でアレルギー反応を引き起こすことがある。
メロンやスイカなどウリ系の果実、キウイ、トマトなどが代表的か。
本当ならアレルギーの治療はとても繊細で難しい。
だがここは魔法スキルが存在するファンタジー世界。
スペンサー君に【解毒】を施し、血中の免疫グロブリンのうちアレルギーをもたらすものを消去。
【ヒール】でアレルギーを起こす白血球にプログラム化された死を引き起こす。
それから【ヒール】で白血球の数を回復させる。
仕上げに【ヒール】で、白血球成熟過程にてアレルギー反応を起こす細胞を死亡させる働きを追加する。
うーむ、コーディが【ヒール】は複合スキルだと言っていたのがよく分かる。
これだけ色んなことが出来るスキルだからな。
その分、修得が困難であるというのも頷ける。
ちなみに【ヒール】をかける場合、相手に承認をとった方が効果が高いらしい。
承認を取らない場合、効果が減少し、時には効かない場合があるそうだ。
コーディが言っていた。
これだけたくさんのことを彼女は知っていたのだ。
他にも何か知っているはず。
俺が徹夜で根掘り葉掘り聞き出したくなるのも分かるだろう。
後から考えたら、彼女には悪い事をしようとした。
ヨツバが来てくれなければ、本当に徹夜させていただろうな。
反省反省。
「これが治療? 吾輩の体は何ともないが」
「にゃんこさん、朝食が出来ましたよ~」
アウレネには、スペンサー君の分も作ってもらっていた。
肉入りスープ、木の実、そして……パン。
「どぞ~」
「済まないが、パンは遠慮する。
本当に洒落にならない」
タイプで『病気は治した。一口でいいから食ってみろよ』と打つ。
ちなみに本当にアレルギーな人は一口でもヤバいのだが。
鑑定によれば、彼のアレルギーは完治したはずだ。
もしもの場合に備えて、一応様子には注意するが。
「そうか。では頂くとしよう。
ヨツバには、猫を信頼するように言われている。
吾輩の最後の晩餐にしては貧相だが、どうせ奴隷のこの身。
生き恥を重ねるより、いっそ病で死ぬのも一興か」
言いつつ、スペンサー君はモグモグとパンをかじる。
アウレネが差し出したジャムを塗り、食べる。
俺達が差し出したパンはスペンサー君のお気に召したらしく、2つほどおかわりを要求された。
そして、時間が経過する……。
昼食時、彼は朝と同じく、パンを美味そうに食べていた。
夕食時、彼はデザートアプル酒を楽しみつつ、キラーボアステーキを食べる。
合間にパンを食べつつ。
「いつもなら、とっくに症状が出現する。
本当に治ったようだな、吾輩は」
『よかったな』とタイプする。
「ああ……」
目を瞑り、おだやかな笑みをするスペンサー君。
今までむすっとした顔をしていたが、機嫌が良くなったのか表情が柔らかくなった。
良い事だ。




