9. はじめての王都
道中を無事に過ぎて王都にたどりついた。
王都入口では検問のための列ができていたが、クロードさんが兵士に家紋を見せると列の横を通ることができた。
王都の往来を馬車で通りながら、馬車の窓から町並みをみていた。プレンジアの街も初めてきたときは人の多さとひしめく建物に驚いたが、王都はそれ以上の広さに驚いた。
「なにをきょろきょろとみている。田舎者に見られてしまうぞ」
「王都には初めてきたもので物珍しくて」
周りを見渡していたわたしをみて、アレキサンダー様がたしなめる口調でいってきた。
そのとき視界にひときわ大きな建物が目に入った。
「すごい大きい、王都の人間は大きいのかな?」
「あれは王城だ」
驚いておもわずつぶやいたわたしに、あきれたようにいってきた。アレキサンダー様が素直に教えてくれるなんて明日は槍でも降りそうだ。
そうこうしてるうちに、ある邸宅の前に止まった。ここは王都にあるプレンジア家の別宅で、パーティーまでの3日間をここに過ごす予定だ。
別宅の門の前には中年の男が直立不動の姿勢で立っていて、わたしたちを出迎えた。
「ようこそいらっしゃいました、アレサンダー様」
「ジョス、久しぶりだな。こちらは変わりはないか」
「はい、問題ありません」
男性の名前はジョスといい、プレンジア家の人間が不在の間、別宅の管理を任されているとクロードさんから聞いていた。
髪はきっちり七三に分けられ、かなり真面目そうな人のようだ。
クロードさんがアレキサンダー様を別宅内に案内している間に、わたしは馬車につんだ荷物を降ろしていた。そういえばアレキサンダー様の居室がわからないなと思って、廊下の向こう側からやってきたジョスさんに聞いた。
「すいません、アレキサンダー様の居室はどちらでしょうか?」
「はい、2階のつきあたりです。運ぶのをお手伝いいたしますので一緒に参りましょう」
そういって、わたしが持っていた荷物の半分をもってくれた。
荷物を部屋に運びいれ、荷を解いてクローゼットの中に衣服をかけていこうとしたら
「いけません、パーティー用の礼服はこちらに、部屋着はここにかけてください。はい、よろしいです」
別宅には、ここのルールがあるのかなと思ってジョスさんの指示に従って進めていき、荷物の整理が終わった。
そういえば、自己紹介してなかったと思って
「ありがとうございました、ジョスさん。紹介が遅れましたが、わたしはユエといいます。プレンジアの屋敷でメイドをさせてもらっています」
「はじめまして、アレキサンダー様の滞在中よろしくお願いします」
挨拶してる間も、ジョスさんはあまり表情を動かさず、しゃべり方も固かった。
アレキサンダー様は居間のソファーでくつろぎながらお茶を飲んでいて、クロードさんが側に控えていた。
「アレキサンダー様、これから予定はございますか」
「今日はもう疲れた、はやく寝ることにする」
「かしこまりました、それでは食事を用意いたしますので少々お待ちください」
ジョスさんが料理も担当するようで、あらかじめ下ごしらえしておいた食材を手早く料理していき、わたしが食堂に運んでいった。
「あいかわらずジョスの料理はうまいな、これが別宅に来るときの楽しみだ」
「もったいないお言葉です」
アレキサンダー様が料理を食べながら、そばで控えていたジョスさんに声をかけていた。
アレキサンダー様がひとを褒めるなんてめずらしい。たしかに、食欲をそそるにおいと見た目をしていてすごく美味しそうだった。
食事がおわるとアレキサンダー様は居室に入っていった。後片付けをしてから、ジョスさんが夕飯を作ってくれたが、ジョスさんはまだ仕事があるようで一人で食卓についた。
料理はパンとスープと鶏肉を焼いたもので、鶏肉からたべてみると皮はぱりぱりで肉から油があふれ出てきた。鶏肉にかけられているソースはレモンをつかっているため、油っぽさを感じることなくさっぱりとした味わいになっていた。スープも野菜をふんだんにつかっており、とても食べ応えがあり、食べ終わると満足感を感じた。
屋敷のボルクさんのご飯も美味しいけど、ジョスさんのも美味しく甲乙つけがたかった。なるほど、アレキサンダー様が褒めるわけだ。
ジョスさんに料理のお礼をいってから、わたしも寝ることにした。
次の日、いつもの時間におきて馬たちの世話を始めた。カールさんから馬車の馬のことを頼まれていて、別宅にいる間は馬の世話はわたしの仕事だ。
馬の世話が終わり、屋敷での掃除の手順と同じように玄関の掃除から始めることにした。掃除をしていると、ジョスさんが玄関のドアを開けて出てきたので挨拶をした。
「おはようございます、ジョスさん」
「ユエさんおはようございます。はやいのですね。」
「馬の世話がおわって、玄関の掃除を始めたところです」
「そうでしたか、しかし、玄関の掃除を始めるのならこちらの隅のほうからお願いします」
どうしてこっちからなんだろうと疑問に思いつつも、いわれたように掃除をすることにした。
「では、わたしは朝食の用意をしてまいります」
そういって、ジョスさんはドアをくぐって戻っていった。
その後も、別宅の部屋の掃除や洗濯をしていったが、やり方について細かく注意を受けた。なんでこんなに細かく指摘するんだろうな~と、悩んでいた。
次の日も馬の世話を終わらせ、ジョスさんに指摘された方法通りに進めていった。確かにこの方法の方が効率がいいなと実感できた。
ジョスさんは1人でこの別宅の管理をしなきゃならないので、効率化をすすめていった結果、今のやり方にしたんだろうと納得できた。
それなら、さらに早く終わるように本気を出して見た結果、もうすこしで終わるというときにジョスさんが昼食によんできた。
「ユエさん、そろそろ昼食の時間ですよ」
「もうすこし、もうすこしで終わりそうなんです!!掃除、洗濯、各部屋の整頓がおわって、あとはこの窓ガラス磨きをすれば終わりなんです!!」
もうすこしで終わりそうなので、もうちょっとまってもらるようにお願いしたら
「窓は逃げないですから、昼食が冷める前にたべましょう」
ジョスさんは笑いながらいってきた。そういえば、ジョスさんが笑った顔をはじめて見た。
昼食を食べ終わり、午前中に残した分の仕事を終わらせると、やることがなくなった。
「ジョスさん、やることがないのですが、なにか手伝うことありますか?」
「それでは、食材の買出しにいくので手伝ってもらえますか」
やった、王都の中を見て回れると心の中で喜んだ。
ジョスさんについていくと、王都のバザールにきた。そこには露天が立ち並び様々な食材が売られていた。
「ユエさんは、王都にくるのは初めてですか?」
「そうなんですよ、王都の広さにはびっくりしました」
「広さだけではなく、さまざまな人や物が集まっているのも特徴ですね。ほら、この魚の干物は西の街からきたものですよ」
「西って海があるところですよね、川魚を食べたことはありますが、海のものは初めて見ました」
ジョスさんは王都暮らしが長く、バザールで売られているものに詳しかった。
「ユエさんが掃除をがんばってくれたお礼に、今夜の料理は魚を使った料理にしましょう」
「ほんとですか!!たのしみです」
そういって、ジョスさんはわたしに笑いかけてきた。ジョスさんが魚を選んでいると
「おや、ジョスさん、その子はもしかしてあんたの子供かい。ずいぶんとかわいい子じゃないか」
「ちがいますよ。こんどあたらしく入ってきたメイドの子ですよ」
「あんたはなかなか結婚しないから、わたしゃ心配なんだよ」
店のおばちゃんがジョスさんに親しげに話しかけていた。
「その子に良いものたくさん食べさせておやりよ、おまけしとくよ」
「おばさん、ありがとう!!」
おまけして魚をもう一匹つけてくれたのでお礼をいって、その場を離れていった。
晩にでてきた海の魚は表面をキツネ色に焼かれ、脂が乗っていて美味しかった。
魚からかいだことのない不思議なにおいがして、ジョスさんにこれが海のにおいだと教えてもらった。
いつか、海を見に行きたいと心の中に書き付けておいた。
1,000PVいきました。拙い作品ですが見てくれた人に感謝です