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後日談1 戦天使のウワサ (後編)

王都に出向き、アレキサンダー様と一緒に公爵家を訪ねた。

公爵家の執事に案内されて応接間にはいると、そこには当主であるグエン様、以下公爵家の面々が待っていた。


「よくぞきてくれた、アレキサンダーとユエよ。先の戦いではそなたたちの活躍で被害を抑えることができた」


グエン様はアレキサンダー様と握手をした後、膝をおってかしずくわたしの手をとって立たせた。


「もったいないお言葉です」


「ハハハ、もっと誇ってもよいのだぞ!!それだけの活躍をしたのだから」


グエンさまがわたしを持ち上げてくるので恐縮していると、ヨハン様が心配そうな顔で声をかけてきた。


「ユエさん、戦場でひどい傷をおったとききましたが、お加減は大丈夫ですか」


「はい!!問題ありません」


傷が直ったことをアピールするために胸をドンとたたいた。

ヨハン様は安心した表情をし、ヨハン様の表情をみてレティシア様がゆるんだ顔をしていた。

そんな空気のなか、マルク様が笑顔のまま切り込むように質問してきた。


「話は変わりますが、ユエさんに関して妙なうわさを聞きましてね。指揮官を一人で討ち取り、敵軍を壊滅においこんだものがいて、そして戦天使という呼び名で呼ばれていると」


どう返答しようかとアレキサンダー様に目配せをすると


「はい、事実です」


アレキサンダー様がはっきりと答えた。

軍部のトップであるグエン様には、おおよそのことは報告されているだろうから隠しても無駄だろうな。


「先日のファビョアンによる誘拐事件もユエがさらわれたということか……」


グエン様が腕をくみながらうなり声をあげていた。ヨハン様はグエン様の言葉に反応して、わたしに心配そうなまなざしを向けてきた。


「今後、今回のような貴族からの干渉がなくすための提案が一つあります」


笑顔のままいってきたマルク様を、みんなが注目した。


「今回の戦争を舞台にした演劇を、公爵家とプレンジア家で共催しましょう」


「演劇ですか?」


「戦争で不安になった民衆への娯楽と、戦争の結末の公表もかねて、戦争の様子をテーマとした劇を王立劇場で上演します」


すらすらと今後の計画についてマルク様は語っていった。


「つきましては、おふた方にご協力をお願いします。戦争で実際にあったことを元に劇の内容を作っていくので、戦場にいたあなた方の話をきかせてもらいたい」


今思いついたように言っているが、絶対にあらかじめ考えていたことだろうな。


「演劇のことなどまるで知らないのですが、大丈夫でしょうか…」


「演劇に関する采配はすべて監督が行うので、劇のあらすじを作るために、戦争の様子を聞き取りさせてもらえば、あとはこちらで手配するさ」


不安そうなわたしに、マルク様は笑顔をむけて安心させるように語ってきた。

結局、マルク様にながされるように演劇をすることが決まった。


次の日、王都の別宅に、マルク様と演劇の監督であるペタルさんがやってきた。この手配の早さから、公爵家訪問の返事を受け取った時点で計画していたのかもしれない。

ペタルさんはきっちりと撫で付けられた髪をしていて、赤い派手な服をきているが、ペタルさんのまとう雰囲気に合っていた。


「このたびは戦の英雄であらせられるアレキサンダー様とユエ様に、お目通りいただけて光栄の至りでございます」


大仰な仕草でこちらに礼をしてきた。

その後、別宅の客間で聞き取りが行われた。


ペタルさんはなかなかの聞き上手で、戦争中に見たことをよく思い出しながらしゃべることができた。


「大変興味深いお話を聞かせていただき、恐悦至極にございます。必ずや、満足のいただける劇に仕上げて見せます」


ペタルさんは優雅な礼をしてから、マルク様と一緒に帰っていった。

聞くところによると、ペタルさんが手がけた劇は人気作品になっていて、かなりのやり手らしい。


それから、3ヵ月後、劇が仕上がりリハーサルをするので、確認のために見に来てほしいという手紙が届いた。

エリザベス様も誘ったが、領内の仕事で忙しくてこれないそうだ。後から絶対に見に行くといっていた。


王都の中央にある王立劇場にやってきた。王立劇場にはステージが4つあり、定番の演目と、新しいものが毎日上演されている。王都の名所のひとつでもあり、貴族から庶民まで足しげく通うものも多い。

今回はリハーサルであるため、観客席にはアレキサンダー様や、公爵家の面々だけが座っていた。


ペタルさんがステージ中央にたち礼をしてから、よく通るこえで演目をいった。


「それでは、『第二次ガプラス砦戦役』を上演いたします」


ペタルさんがステージ脇に下がると、垂れ幕があがり劇が始まった。

劇はカスール神聖帝国が宣戦布告をした場面からはじまり、帝国軍が撤退するところまで演じられた。


劇の内容がわたしたちの見聞きしたことを元にしているため、わたしとアレキサンダー様の配役を使わせてほしいということを事前に聞いていた。


わたしの配役をしているのは、10代後半の栗色の髪をした少女で若いながらも堂々とした演技をしていたものだった。

アレキサンダー様の配役は、金髪碧眼の若い男性で人気のある俳優の一人だそうだ。


劇が終わると、わたしは恥ずかしさで真っ赤になりうつむいていた。アレキサンダー様もほおをひくひくとさせていた。

劇の内容自体は、実際にあったことに即していて、ところどころ演出がはいって見ごたえのあるものだった。


問題は、わたしとアレキサンダー様の配役が演じた内容だ。

国境のガプラス砦での防衛線あたりから、アレキサンダー様とわたしの配役が目立つようになってきて、そのときのセリフは、どれもこそばゆいものばかりだった。

極めつけは、劇の佳境となるアレキサンダー様が国軍への報告のために砦から脱出し、森の中で敵に囲まれた場面だ。


「アレキサンダー様、どうかお逃げください」


「ばかをいうな、お前をおいていけるか」


そういいながら、二人の役者は口付けを交わしていた。


劇が終わり垂れ幕が下がると、ペタルさんがステージ中央にでてきた。


「いかがだったでしょうか、今回は実にいい仕事をさせていただきました!!」


「予想以上のできだったよ。注文どおりにつくってくれて満足しているよ」


マルク様が笑みを浮かべながら、こちらに語りかけるように返事をしていた。


たしかに、最後の方で倒れたわたしの前に、戦天使が天より舞い降りてきて言葉をかけたあと、敵指揮官を倒し帝国兵たちを撤退させていた。

これをみたひとはわたしと戦天使が別の人物であり戦天使は架空の人物と思わせる描写になっていた。


公爵家の反応をみると


「部下からの報告ではきいていたが、高壁での戦いはなかなか見ごたえがあったな」


「まあまあまあ、いいわねわたくしもあんな恋をしてみたいわ」


「やっぱり、ユエさんとアレキサンダー殿はそういう関係なのか…」


興奮してるひとや、顔に手をあてて潤んだ目をしてたり、落ち込んでるものがいて反応はバラバラだったが、公爵家の面々からの反応も上々のようだ。うつろな目でつぶやいているヨハン様をのぞいて…


その後、一般公演された結果、かなりの人が見にきて、中には何度も見にくる人もいるほどの盛況ぶりらしく、定番演目として上演され続けるようになった。


世間的にも戦天使は、戦を繰り返す人間をとめるために神様がつかわした使いとして語られるようになった。


興行収入として、プレンジア家にそれなりのお金がはいりアレキサンダー様は満足気な顔をしていた。おそらく、公爵家にもお金が入ってるはずで、これもマルク様の計画の内だと思うと複雑な気分となった。

ヨハン「あの、ユエさん。アレキサンダー殿との仲は……」

ユエ「はい。アレキサンダー様からずっといっしょにいていいといわれました」

ヨハン「やっぱりぃぃぃ」ウワァァァン

ユエ「ヨハン様!?いっちゃった…… 屋敷にずっといていいって言ったほうがよかったかな」

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