後日談1 戦天使のウワサ (中編)
次の日の昼過ぎ、モニカたちに会うために、人目を避けて路地裏を歩いて孤児院を目指していた。
路地裏に入ってから歩いていると、後ろから2人組みの男がついてきていた。
さらに、道の先にはふさぐように男2人が立っていて挟み込む形をとってきた。
男たちは荒事になれているようで、カタギではない雰囲気をだしていた。
「おまえがユエか」
「ひとちがいです」
「おまえに用のある方がいる、おとなしくついて来い」
わたしの言葉に反応せずに、前後から挟み込むように迫ってきた……
路地裏に気絶して転がる4人を置いて衛兵を呼びにいった。
詰め所にいた衛兵に声をかけると、直立不動の姿勢をとった。
落ち着かない気分になりながら、さっきの男たちのことを伝えた。
「不審者ですって!!戦天使様を狙うとはなんという不届きな」
「あの~、その呼び方、できればやめていただけないでしょうか」
「衛兵の中でも、あなたのおかげで戦場から帰れたものが自分も含めて多くいます。われわれは尊敬の意味もこめて呼ばせてもらってます」
気づけば、詰め所にいた衛兵たちがわたしをキラキラした目でみていて、断りづらい雰囲気だった。
「人前ではその呼び方をしない方向でお願いします……」
衛兵たちは了解しましたと大きな声で返事してきた。
衛兵たちを現場に案内すると、迅速な動きで転がっている4人を縛りあげた。
「では、この者達にはしかるべき処置を与えます」
敬礼して衛兵たちは、男たちを連行して詰め所にもどっていった。捕まえた男たちを運ぶときの扱いがかなり荒っぽかったのは気にしないことにした。
後日、執務室で捕縛したものたちの詳細をアレキサンダー様からきいた。
「やつらはファビョアンに雇われたものたちだ。お前をさらってくるように命じられたらしい」
他人の所有物を譲ってもらうために金を積んで交渉しても上手くいかないときに、あいつらに命じて無理やり奪うことを繰り返してきたらしい。
「それでは、あいつらの言ったことを証拠にファビョアンを捕まえるのですか?」
「ダメだ。あいつらのことなど知らないで押し通すだろう」
アレキサンダー様は難しい顔をしながら考えこんでいた。
「そうか、関係があるってことをはっきりさせればいいんだな」
アレキサンダー様はニヤリと笑いながらこちらをみていて、嫌な予感がした……
日没後、暗くなった路地裏を歩く4人組の姿がみえた。一番後ろをあるく男の肩には、人が1人はいっているような大きさのズダ袋が背負われていた。
ある一軒家の前にくると、先頭の男が不規則なリズムでノックした。それが合図だったようで、中から執事服を着た男がでてきた。
「注文どおり、さらってきました」
「よろしい、中にもって行きなさい」
男たちは恐縮したようすで中にはいっていくと、ソファーに踏ん反りかえりながら座っている男がいた。
「ファビョアン様、こちらがご注文のものです」
「おそかったではないか、昼間にさらいにいったはずであろう」
「足がつくとまずいので、夜までまってたんでさぁ」
へりくだった様子の男に、ファビョアンはフンと鼻をならした。
「さて、早速ご対面といこうか」
ファビョアンはギラついた目をしながらズダ袋に手をのばした。
そこに明かりをもった衛兵たちが入ってきた。
「貴様!!戦天使様になにをする」
「な、なんだ貴様たちは、この無礼者!!」
殺気だった衛兵たちが部屋のなかになだれこんできて、手に持った剣を向けた。
衛兵たちの後ろからアレキサンダーが入ってきた。
「さて、ファビョアン殿、うちの領民に手をだした申し開きをしてもらおうか」
「なんだと!?アレキサンダー、わたしをはめたのか」
「しらんな、オレはひとさらいの現場を押さえただけだ」
歯軋りしながらにらむファビョアンに、そ知らぬ顔でアレキサンダーが返答した。
「罪人を捕らえよ!!」
衛兵たちが一斉にファビョアンに殺到した。どさくさにまぎれて腹や顔にこぶしを打ち込まれたようで、悲鳴をあげていた。
「この程度の罪、父上の力があればもみ消せる。あとで後悔させてやるぞ」
ぼろぼろな状態になり後ろ手に縛られ、捨てぜりふをはきながら連行されていった。
「ふん、おれのものに手をだしたことを死ぬほど後悔させてやる」
アレキサンダーは連行されるファビョアンをみながらつぶやいていた。
「あのー、そろそろ出してもらえないでしょうか…」
ズダ袋がもぞもぞと動いて中から声がした。
ズダ袋の口を開けてもらい中からでてきた。はぁ、窮屈だった。
「ご苦労だったな、上手くいったぞ」
アレキサンダー様が満足気な顔をしながら、こちらを見下ろしていた。
乱れた髪や服を直しながら、今日の昼に執務室でいわれたことを思い出した。
「おまえ、あいつらにさらわれてこい」
どういう意味かと、アレキサンダー様に聞き返すと
「今日捕まえた4人組を使って、依頼主のもとにおまえを届けさせるのだ」
つかまえた4人組は衛兵たちにだいぶ手荒く尋問されて、すっかり従順になっているらしい。
わたしをずだ袋に詰めた後、4人組に運ばせてあとをつけたそうだ。
「上手くいったからいいですけど、もしもそのままさらわれてたら、どうするつもりだったのですか」
「オレがそんなこと許すはずないだろ」
当然といった様子で言い切るアレキサンダー様をみて、ため息をはいた。
数日後、ファビョアンの家であるサンクレッジ伯爵家からファビョアンを引き渡すように抗議がきたが、アレキサンダー様はつっぱねた。
すると、王国議会からの呼び出し命令が書かれた召集状がきた。
「ふん、やはりきたか」
アレキサンダー様はニヤニヤ笑いながら召集状をみていた。
かなりのおおごとになってるみたいだけど、大丈夫なのだろうか。
「では、いってくる」
意気揚々と馬車に乗り込み、王都に向けて出発したのを見送った。
一週間後、アレキサンダー様が屋敷に帰ってきた。
「くくく、なかなか傑作な見物だったよ」
笑いながら、議会での様子を語った。
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議会の壇上でサンクレッジ伯爵家当主ショークンは、議会の面々に訴えかけていた。
「我が息子ファビョアンは、アレキサンダー・フォン・プレンジアによって無実の罪によって不当に拘束されている。どうか、公正な裁きをお願いしたい!!」
「ふむ、では、アレキサンダーより申し開きをきこうか」
議長が声をかけ、アレキサンダーが壇上に上ると、静かで坦々した声で説明を始めた。
「まず、聞いていただきたいのはファビョアンがかどわかそうとした対象についてです。かの者は、先の戦争において多大な貢献をし、巷では戦天使とよばれている者です」
オレの言葉を聴いた議会は、ざわざわと騒ぎ始めた。
「かのものは我が屋敷の使用人であるため、ファビョアンは譲るようにいってきたが、わたしは断った。そして、やつはごろつきを雇いさらうという許されざる行為にでた。これが罪といわずなにを罪というのか」
アレキサンダーはいいきった後議会を見渡し、颯爽と壇上から降りた。
「静粛に、静粛に!!」
議長が声を張り上げるが、ざわつきはなかなか収まらなかった。
「ショークンよ、アレキサンダーがいっていることに対して申し立てはあるか?」
「ぐ、やつのいっていることは根も葉もないデタラメです。貴族が下賎なものたちとつながりがあるなどあろうはずがないです」
ショークンは苦々しそうな顔をしながら必死に否定をし、その様子を議長は静かにみていた。
「ふむ、それでは、採決を採る。アレキサンダーを有罪とするものは立ち上がり、無罪とするものは座っていただきたい」
議会は静まり、誰一人として立つものはいなかった。
ショークンはあたりを見回し、議会のうちの幾人かにに目をむけるが、顔をそむけらた。
「全会一致でアレキサンダーを無罪とし、ファビョアンを有罪とする」
アレキサンダーは当然の結果を受け入れるように落ちついて座り、対照的にショークンはうなだれていた。
伯爵家は王国政府の官僚に多額の賄賂を贈ることで、様々な便宜をはかってもらい罪をごまかしてきたようだが、今回はちがった。
二度目の帝国からの侵攻を防いだプレンジア家は多くの貴族たちから支持されており、さらに英雄とウワサされているものに危害を加えようとした。
自身の立場を悪くしないために、ショークンを見限ったようだ。
その後、戦争に国軍として参加したほかの貴族から白い目で見られるようになり、結局、伯爵家はファビョアンを廃嫡して尻尾切りをした。
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議会での様子を思い出しながら、アレキサンダー様は愉快そうに笑っていた。
「ああ、そうだ、公爵家からおまえに会いたいという催促をもらったぞ。特にヨハン殿がおまえの心配をしているらしいな」
議会のあとで公爵家のグエン様と会い、わたしが戻ってきたということを聞いたグエン様からの要請だそうだ。
うぐ、そういうことなら会わないわけにはいかないな。
公爵家に返事をだして数日後、すぐにでも来てほしいと返事が返ってきた。
ごろつきA「おれたちはなにもしゃべらねえぞ」
衛兵A「戦天使様サイコーとだけ答えろ」
ごろつきA「なにいってんだ」
衛兵A~E「戦天使様サイコー!!」
数時間後
ごろつきA~D、衛兵A~E「戦天使様サイコー」




