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38. エピローグ

とうとうここまできました。これでこの物語は完結となります。

冬が過ぎ寒さが和らいできてラクヒエ村周辺の森の木々に芽が出始めたころ、フードを目深にかぶり森の中を歩く小柄な姿がみえた。

夕日がさす中、その姿は逆光でシルエットのようになっていた。

森に近い村はずれにある一軒家の前に来ると、ためらうようなそぶりを見せた後、ドアをノックした。


「どちらさんかな」


ドアの内側から老齢の男の声がした。


「じいちゃん、ユエです」


フードを被った少女が声をかけると、なかから老人が勢いよく扉を開けてでてきた。

少女はフードをとり、透き通るような白い髪をもち頭頂部に獣の耳をつけた姿を露にした。


「ただいま……」


「……おかえり」


老人は目を丸くしたあと、笑顔になり家のなかに少女を招きいれた。


家の中に入った後、夜通し、戦争にいったことやそのときアレキサンダー様に獣耳を見られてしまったことを説明した。


じいちゃんは黙って聞いたあと、深いため息を吐いた。


「こんなところでリアナに似てるとはな…… お前の母さんも、しばらく会っていなかったら突然夜更けに帰ってきてな。話す内容も心配させるようなことばかりだったよ」


小さい頃森に一人で入って迷子になったことなど、昔あったことをこんこんと言い聞かせるように話した。


「だが、よく帰ってきた」


「ありがとう…、じいちゃん」


わたしの頭に手を置いたじいちゃんのぬくもりを感じ、感謝の言葉をだすので精一杯だった。




帰ってきてから数日間、以前のように森と家で生活する日々を送っていた。


「じいちゃーん、ごはんできたよ」


昨日狩ったウサギの肉を削ぎ切りにして塩をつけて焼いたものと、生野菜のサラダを食卓にならべた。


「おお、うまそうじゃな。それではいただくとするか」


わたしとじいちゃんは向かい合って座りながら、食卓を囲んだ。


「ひさしぶりのユエの手料理か、前よりも見た目がだいぶよくなったのう」


「街のほうでいろいろ食べまわったからね。それに、屋敷の料理を毎日たべてればいろいろ教わることもあったよ」


ほめてくるじいちゃんに自慢げに胸を張りながら語った。


「あー、くったくった、腹いっぱいだ」


夕食を食べ終わり、食後のお茶を息をふきかけてさましながらゆっくりと飲んでいた。


「ユエとこうして過ごすのもひさしぶりだな。屋敷での生活はどうだった?」


「いろいろあったけど楽しかったよ」


屋敷での生活を思い出しながら話していると


「もしかして、屋敷にもどりたいのか?」


「屋敷にはもうもどれないよ。頭のコレをみられたからね」


気づかうように聞いてきたじいちゃんに、頭の獣耳を触りながら返した。


きっと、わたしは欲をかきすぎたんだ。

物心ついたときから森の中ですごし、わたしにとっての世界は森と家だけで出来ていた。それが、村にもいくようになってから世界が外にも広がっていることを知り、もっと見てみたいと思ってしまった。外でも自分の居場所ができるかも知れないと期待をいだいてしまったのが間違いだったんだ。


ぬるくなったお茶の入ったカップを握りながら、ボーっと考えていた。

そんなわたしを、悲しそうな目でじいちゃんは見ていた。


次の日、村に買い物に一緒に行かないかとじいちゃんに誘われたが断った。また村にいくと、色々と考えてしまいそうでいやだった。


じいちゃんが出かけている間に家の中の掃除をしていた。

掃除をしていると、屋敷でメイドとして働いていた事を思い出してしまった。

もやもやした気持ちのまま掃除を終わらせ、イスにすわってボーっとしていた。


玄関のほうからただいまという声がきこえて、じいちゃんが帰ってきた。


「おかえりなさい」


出迎えたわたしに、じいちゃんは幾何学的な模様のはいった大きめの布をわたしてきた。


「前のバンダナを失くしたと聞いたからな、あたらしいのを買ってきたぞ」


「ありがとう。でも、もうわたしには必要のないものだから……」


渡されたバンダナをじっと見ながら、わたしはうつむいた。


「ユエ、一度でいいから街にいってこい」


「でも、うぅー」


じいちゃんは、わたしの肩に手をおきゆっくりと語りかけてきた。


「おまえは、拒絶されたと思っているようだが実際はどうだかわからない。頭で考えて決め付けるなどお前らしくないな」


頭のなかで考えてみたけど、ぐるぐると思考が回ってまとまらなかった。


「あー、もう!! わたし行ってくるよ!!」


「それでいい、納得できるまでいってこい!!」


すぐに支度を整えると、家を飛び出していった。

じいちゃんが家の前に立って笑顔で見送ってくれた。



勢いのまま道を走っていき、プレンジアの街がみえてきた。

身がすくんで前にすすむのをためらったが、頭に巻いたバンダナを触ると気が落ち着いてきた。

フードを目深にかぶりなおしてから、門に立っている衛兵に身分証を見せて街の中にはいった。


頭の獣耳について街のひとにどれぐらい知られているかわからなかったので、警戒しながら歩いた。

大通りをすすみ屋敷が見えてきたところで、足が重くなり進めなくなってしまった。


(うぐぐ、どうしよう…… 足を踏み出せばいいだけなのに)


物陰にかくれて屋敷をちらちらと見ながら、行こうか行くまいか悩んでいたら、後ろから声をかけられた。


「あんた、そんなところでなにやってんだい」


振り向くと、そこにはカティナねえさんが呆れた顔をして立っていた。


「えーと、あの、その」


「ほら、さっさといくよ」


なんて声をかけようかまごついていると、カティナねえさんがわたしの手を握って屋敷の方に大またで歩きだした。


「カティナねえさん、怒ってます?」


「そりゃ怒ってるさ、半年近くもどこをほっつき歩いてたんだい」

「それは、いろいろとありまして……」


口ごもった後に気になっていたことを聞いてみた。


「あの、アレキサンダー様はわたしのことなにかいってました?」


のしのしと歩くカティナねえさんは、足を止めてこちらを振り向いた。


「アレキサンダー様は、あんたがいなくなってから何かにとりつかれたように仕事に没頭してるよ。たまに猫をじっとみて、あんたの名前をつぶやいてるし」


そういうと、顔に手を当ててため息をついた。


「なにか事情があるのかもしれないけど、早く顔をみせて安心させてやんなさいな」


カティナねえさんは優しく言い聞かせるようにいってきた。


思っていたのとはかなり違うことになっているようだ。アレキサンダー様の様子を想像するとおかしくなった。


「お、やっと笑ったね。まったく、さっきまで死にそうな顔をしてたよ。あとは自分の足で屋敷に向かえるね」


そういって、わたしの手を離して一緒に屋敷まで行ってくれた。

途中、屋敷の門の衛兵2人組にも挨拶をしたのだが、なぜか直立不動の姿勢で敬礼された。


屋敷に入り、まずメールビットさんに戻ったことを報告することにした。

メイド長室をノックすると返事が来たので、中に入った。


「長らく留守にしてしまい、申し訳ありませんでした」


腰を深く折り謝るわたしを、メールビットさんが見据えたあと


「仕事がたまってるわ、はやくメイド服に着替えてきなさい」


表情を動かさず淡々とした口調で、いつもどおりの対応だった。あいかわらずの鉄面皮で、このひとが動揺したり表情をくずしたのをみたことがない。


「そろそろ、アレキサンダー様のお茶の時間だから、もっていってちょうだい」


使用人部屋にいくと、アイロンをかけられたメイド服がいつもの位置にかけてあった。


(だれがやってくれたんだろ? あとでお礼をいっておかないと)


メイド服を手に取ると、屋敷にもどってきたんだという気持ちがじんわりとわいてきた。

メイド服に着替え、茶器をのせたワゴンを押して執務室前にきた。


「お茶の時間です」


「入れ」


ノックをしながら声をかけると、中からアレキサンダー様の返事が返ってきた。

アレキサンダー様は机にむかって書類を書いていた。

机の上ににお茶の入ったカップとソーサーを置いた。

アレキサンダー様は書類に目を向けながら、カップを手に取りゆっくりと飲んだ。


「む、今日はすこし味がちがうな。メールビット、お茶の淹れ方を変えたのか?」


アレキサンダー様がこちらに顔を向けると、わたしを凝視したまま動きが止まっていた。


「おっと、あぶない」


手から抜け落ちたカップを空中でキャッチして、机の上に戻した。


「お、おま…」


つっかえながら何かを言おうとしている。


「おまえは、いままでどこにいたんだ!!」


アレキサンダー様は大きく息を吸うと、怒鳴り声を上げた。

大声のせいで耳がおかしくなりそうだった。


「おれが、いったいどれだけ探したと…」


なおもなにかを言おうとしてくるアレキサンダー様は、怒っているのに泣きそうな疲れた顔をしていた。


「アレキサンダー様……」


わたしはアレキサンダー様の目をまっすぐ見てから、メイドキャップをはずして頭の獣耳をさらした。


「こんな… こんなわたしでも、いいのでしょうか?」


アレキサンダー様はイスから立ち上がり、わたしの前でひざを折って目線の位置を合わせた。


「お前の頭に猫のような獣耳が生えていようが、角が生えてこようが、そんなものお前がもつ個性の一つだ」


「お屋敷に…、いても、いいのですか?」


「ああ、許す。すきなだけいていいぞ」


表情を取り繕えなくなりうつむくわたしに、アレキサンダー様は頭に手をのせて、静かだがはっきりとした声で伝えてくれた。


こらえきれず涙が頬をつたって床に落ちていった。

こんな風に泣かせるなんて、やっぱりアレキサンダー様はイジワルだ。



わたしは今日もいやがらせを受けています。


ここまで読んでくださった方ありがとうございました。

毎日更新を目指してがんばってきましたが、なんとかここまで続けることができたのは読んでくれているひとがいたおかげでした。

後日、おまけの話を投稿するのでよければ読んでください。

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