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閑話 アレキサンダーの喪失感

秋がすぎ冬に入りかけ父上のケガも完治した頃、国王陛下の名前で王城への召集を受けた。


「オルレアン・バン・プレンジアならびにアレキサンダー・フォン・プレンジアにカスール神聖帝国からの侵攻防衛の功をたたえ青鷲十字章を授与する」


オレと父上は、王城の謁見室で国王陛下の御前でひざまずき勲章を賜った。

謁見室には、国の重鎮たちが並び拍手を送ってきたが、オレの心はどこか冷めていた。


(これは、オレの功績ではない。本当にたたえられるべきなのはあいつだ……)



戦争が終結してから2ヶ月がたったが、ユエは帰ってこなかった。

戦死したものたちを家族におくりとどけるために、死体が調べられたが、そこにユエは入っていなかった。そのうち戻ってくると思ったがまるで姿を現そうとしなかった。

結局、ユエは行方不明者リストの中に加えられたが、大半のものはすでに死んだものと考えている。


「あいつが死んでるものか…」


おれも頭のなかではあいつが死んでるのではないかという考えがよぎったが、必死に否定を続けた。

余計なことを考えないように、執務に頭を集中するようにした。しかし、ふとした拍子にあいつとのやり取りを思い出してしまう。

思えば最初の出会いから、あいつのことが気に食わなかった。



母上が死に、そのショックも冷めないうちに父上から騎士への道に引導を渡された。

幼い頃は騎士になるなどと考えていたが、父上のいうとおりおれには合ってなかったのだろう。


目標をなくしてからは、クロードのすすめにしたがって貴族学校に通い、卒業してからは領主代行の任についた。

しかし、やる気がでるはずもなく、それまでどおりクロードとメールビットにすべてまかせ、あてもなくそのへんをぶらぶらとする毎日を送っていた。


あの日、気分を変えてラクヒエ村の奥にある森の中に向かおうとした。そこで、小さい子供をつれたハンターがいたのでからかってやろうと思って無理難題をふっかけた。

だが、あのときのあいつの目が気に食わなかった。祖父に弓をむけられているのに、まっすぐと気負わずに前をみていた。

だから、オレはあいつの表情を歪めてやりたくて、使用人として屋敷に連れていくことにした。


いままでやってきたメイドにしてきたように、軽い嫌がらせをしてやると、驚いたあと怒った表情をしていて愉快だった。

だが、嫌がらせをつづけても、こちらのやることに真っ向から対応してきた。


平民にはなれていないだろう貴族が多く集まる場所につれだしたりもしたが、メールビットの手助けもあったとはいえなんとか対処していた。

次第に、四苦八苦しながらもなんとかしようとする姿を見ているのが楽しくなってきた。


あいつがいなくなってから始めてきづいたが、いつもあいつはオレがしてくることを、正面から受け止めていたのだとわかった。

オレが弓の訓練でなやんでいたことも、父上とのわだかまりも、あいつなりに考えて答えをくれていたのだ。


「いつのまにか、あいつがそばにいてくれると安心するようになっていたんだな」


きっと、オレはあいつに依存していたのだと思うと無性に笑いがこみ上げてきた。

胸にぽっかり穴があいたような空虚感で苦しくなった。


メールビットのいるメイド長室にクロードがはいってきた。


「メールビットさん、すこしお時間よろしいですか」


「クロード、どうしました?」


「最近のアレキサンダー様についてですが、ふさぎこみがちでして、なにかを忘れるようにひたすら執務にうちこんでらっしゃるご様子です」


「そうですね。少々度がすぎてるようです」


「まるで、エレナ様を亡くされたばかりのオルレアン様と似ています」


「しかし、わたしたち使用人が口をはさむことはできません」


「われわれは見ていることしかできないのでしょうか……」


クロードは無力感を感じながら、部屋から出て行った。


「ユエ…… あなたのおかげでアレキサンダー様は変わることができましたが、同時に消えない傷も残してしまったわね」


一人になった部屋で、メールビットはため息をはいた。


ある日、父上が屋敷に帰ってきた。


「アレキサンダー、調子はどうだ」


「はい、問題ありません」


父上の口調はどこかおれに気遣うような感じがした。


「今から、エレナの墓参りにいくが、いっしょにいかないか」


「はい、ご一緒します」


街のはずれにある墓地に向かう途中、父上は花屋によって白いユリの花束をかってきた。


「あいつはな、この花が好きでな」


「もしかして、毎年墓に花をそなえていたのは、父上だったのですか?」


おれが命日に墓参りにいくと、必ず白いユリがそなえてあった。


「ああ、まあな」


父上は照れくさそうに頬をかいていた。


「アレキサンダー、エレナのことはまだ覚えているか?」


「母上はとても優しいかたでした。でも、厳しいところもありましたね」


母は、オレが転ぶと手助けしたりはせず、ずっと見守ってくれて、泣くのを我慢しながら立ち上がると手放しで褒めてくれた。


「そうだな、あいつは一人で生きていけることを信条にしていたからな。だが、けっこう寂しがり屋でもあったのだぞ」


なつかしそうに語る父上はとても優しい目をしていた。


「あいつはひとと話すのが好きでな、おれがあいづちをうってるだけでも楽しそうに話していたよ。オレは、そんなところを心の支えにしてたのだろうな」


母のことを語る父に、はじめて弱さを見た気がして、とても意外だった。


「エレナを亡くしてからは、おれは自分のたっている場所がわからなくなった。何を軸にして動けばいいかわからず、不安定になった」


「父上…」


「そのあとは、ひたすら砦の防衛能力を高めることだけを考え、ほかの事はなるべく考えないようにした」


そこで、父上は一旦言葉をきった。


「ある日部下にいわれたことあってな。あなたはまるで何かに祈りをささげるように仕事をしている、とな。おそらく、すべてのことをエレナのためと考えながらやっていたのだろうな」


そういって父上は目をふせて、オレはだまって横を歩いた。


父上が砦に帰ったのを見送り、おれは執務室のイスに深く座った。

ユエは自分の正体をしられたとき、絶望した顔をしていた。

あれは、普通の人間と違うと知られた自分に居場所などないと思っていたからなのだろうか。


「あいつはほんとバカだな。頭に獣の耳がついてるぐらい、おまえの突拍子のなさに比べたら小さいもんだろうが…」


あいつは、どこでも何かしら楽しさをみつけて笑っているようなやつかと思っていた。だが、あれはいつかばれるんじゃないかと思い、その瞬間瞬間を楽しんでいたのかもしれない。

ユエにも弱さがあったんだと、いまさら気づくことができた。


「よし、目標は決まったな。あんな変なヤツでも自由に住めるような街をつくってやろうじゃないか」


父上がいっていたことが分かった気がする。

何かをするとき、いつでもユエのためになるようにと祈り続けるのだろうな。

そうすると、胸の空虚感が少しだけ和らぐ気がした……

当初の構想ではここで完結にするつもりでしたが、別の終わり方がみたくてもう少し続けることにしました。

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