37. 戻るとそこには
ユエと別れてから馬を小一時間走らせると、行軍中の国軍が見えた。
「止まれ!!なにものか」
「オレは、プレンジア家のアレキサンダーだ。閣下へ急ぎ報告することがある」
馬を走らせてきたオレを警戒して、先頭の兵が槍をむけてきたが、馬を下りて名前を告げると軍の奥の方に通された。
「アレキサンダーか。国境のガプラス砦はどうなった」
国軍の総指揮官であるグエン閣下に、砦が落とされて撤退中であることを説明した。
「ガウルン、騎馬隊をつれてすぐに救援にむかえ!!」
「了解しました、騎馬隊オレに続け!!」
「ご苦労だったな、アレキサンダー。おまえはこのまま合流して傷の手当をしていけ」
「せっかくのお言葉ですが、部下が心配ですので騎馬隊についていきます」
一礼して、馬にまたがると騎馬隊の後を追った。
騎馬隊と共にユエと分かれたあたりに到着したが、そこに広がる光景をみて困惑していた。
「なんだこれは…」
何人もの帝国兵の死体が散在し、まわりの血のにおいでむせそうだった。
「付近に帝国兵がいないか警戒せよ」
周囲の索敵をガウルン将軍が部下に命じた。
「周囲に敵はいませんでした。それと、敵の指揮官と思われる死体を発見いたしました」
「アレキサンダー、確認してくれ」
見つけた場所に案内されると、そこには、神輿にのっていた男の死体があった。
「間違いありません、この男が指揮官です」
「指揮官が倒れたとなると、帝国軍はすでに撤退している可能性が高いな」
指揮官の男の周りの死体の数が特に多く、もしかしたらユエもこの辺に倒れてるのではないかと見回してみた。
「これは… あいつにやった黒弓じゃないか」
血にぬれた黒弓が地面に落ちているのを見つけた。
その後、砦に向かったが砦内にも敵はいなかった。
本隊が砦に到着し、一週間警戒を続け、帝国軍が完全に撤退したのが確認された。
そして、戦争の終結宣言が、国王陛下の名の下で発表された。
体中を包帯で巻かれたオルレアンが、プレンジア領の屋敷のベッドで寝ていた。
砦に本体が到着してから、帝国兵が潜んでいないか周囲の捜索が行われ、父上や他の兵士が一緒に森の中に潜んでいるのが見つかったそうだ。
「父上、お加減はいかがですか」
「こんなものかすり傷だ、さっさと直して砦にもどるぞ」
「せっかく生き延びたのですから、ゆっくり養生してください」
オレは苦笑しながら、強がる父を見ていた。
ベッドで横たわる父から、オレが砦から脱出した後の話を聞いた。
ある程度時間をかせいだと判断した父上は撤退を始めた。しかし、追撃の手が緩まずあきらめかけたそうだ。
そのとき、名乗りをあげる声がして敵軍の注目があつまり、声に反応した指揮官が戦力のほとんどをそちらに向けたため助かったそうだ。
「よく通る声ではっきりとこちらまで聞こえてきた。ユエと名乗っていたな」
「無茶しおって、あいつは…」
敵軍の注目をあつめるなど自殺行為だ。
「遠目にみた姿だったが、見事な戦いぶりだった。兵士を分散させながら森に引きこみ各個撃破し、ある程度兵が散らばったところに、指揮官の元に突撃し討ち取っていた」
そのときの光景を思い出しながら語る父上は、目を細め遠い目をしていた。
「そのときの光景はいまでも目に焼きついている。透き通るような白い髪をたなびかせながら小柄な少女が戦場でナイフを片手に踊っている姿はさながら、戦場に舞い降りた天使のようだったな。同じ光景をみていた兵士の一部は、祈りをささげていたよ」
ユエは自分がそんな風にみられていたと知ったら、どんな顔をするだろうかと想像すると、苦笑してしまった。
「それと、これは誰にも話していなくて、一緒にいた兵士にも口外厳禁を命じたことなのだが…」
父上は声をひそめながら、一旦口を切った
「あやつの頭に、獣の耳が、生えてるのをみた」
「…父上もみたのですね」
「おまえも知ってたのか」
「はい、知ったのは撤退中に偶然頭のバンダナがはずれてしまったときです」
「そうか… 正直、おれにはどう扱えばいいかわからん」
困惑した表情の父上にいわれたが、オレにもどうすればいいかわからない。
ただ、別れたとき最後に見た泣きそうなあいつの顔が頭から離れなかった。




