36. 失敗
砦を脱出したあと、王都方面への道を全力ですすんでいた。
「くそ、くそっ」
馬の手綱をにぎりながらアレキサンダー様は悔しそうにつぶやいていた。
このまますすんでいけば王都方面からくる国軍と合流することが出来る。
だが、後ろの方から騎馬で追ってくる足音が聞こえてきた。守りを突破してきた帝国兵の騎馬が数騎が追ってきていた。
こちらは二人乗りなため次第に追いつかれてきた。
「貴様ら、止まれ!!」
帝国兵は弓を構えるとこちらに向けてうってきた。
何発かうたれ、矢が馬に当たってしまった。
馬が体勢を崩し、わたしとアレキサンダー様は地面に投げ出された。
ごろごろと地面を転がりながら受身をとると、体の痛みを我慢しながら立ち上がると、帝国兵は剣をぬき馬にのったままこちらに突進してこようとしていた。
地面に倒れているアレキサンダー様を抱え、道の横に広がる森の中に逃げ込んだ。
茂みの中で、まだ意識がはっきりとしない様子のアレサンダー様を、木の幹に背をあずけるように座らせた。
「アレキサンダー様、敵兵が迫っています。わたしが引きつけるので先をお急ぎください」
「なにを…いっている。バカなことをいうな…」
そのとき、後ろの方からガサガサと茂みを掻き分けて近づいてくる音がした。
「見つけたぞ、おとなしく裁きを受け入れよ」
背後から声がし、さっきまで追ってきていた騎馬兵の3人が、こちらに剣を向けていた。
ナイフを抜いて帝国兵の方に体をむけると、こちらを見る様子がおかしかった。
「なんだその頭のモノは…この悪魔め!!やはり異教徒どもは浄化せねば」
叫び声を上げながら剣を振り下ろしてきた。ナイフの腹で剣先をすべらせ、相手の体制がくずれたところですれ違いざまにわき腹を切り裂いた。
「貴様よくも!!」
残った兵士が激昂し剣をつきこんできた。体を半身にかまえつきこんできた腕をとり、後ろ手にねじり上げてた。
捕まえた兵士を盾にしたまま、残りの一人に突っ込むと相手は困惑した様子だったので、そのままぶつけると二人の兵士はもつれ合った倒れた。
「ぐっ、くっそ」
うめく二人の首元にナイフを突き入れると力なく倒れた。
「ふぅ、追手はまだきています。お急ぎください」
アレキサンダー様の方を振り向くと、目を大きく見開き顔をゆがませてこちらを見ていた。
「おまえ… 頭についている獣の耳のようなモノは、なんだ」
その言葉でハッとしながら、頭に手をやるとバンダナが外れていた。
猫のようなピンと上をむいた獣の耳が露わになっていた。
マズイマズイマズイ、さっき馬から落ちたときか。
「・・・」
視界がゆがみ頭がぐるぐると混乱して、なんて答えればいいかわからなかった。
「さがせ、この辺にいるはずだ!!」
追ってきた帝国兵がさがしているようで、大人数が近づいている音が聞こえてきた。
道の方に目をやると、さきほどたおした兵国兵が乗っていた馬が木につながれているのをみつけた。
「アレキサンダー様、そこの馬にのって先をお急ぎください。いままで、お世話に、なりました」
「まて、おれはおまえを…」
アレキサンダー様の言葉を最後まできかず、敵がいる方向に向かって走り出した。
(ばれちゃったし、もういいよね)
頭の獣耳を隠すことなく外にだしたおかげで、周囲の音が良く聞こえ、敵の足音や気配が感じ取れた。
後方でアレキサンダー様が馬にのり走っていく音がきこえた。
(よし、あとはこいつらを足止めすればいいだけだ)
敵の方を見ると兵士が整列しながら、道をすすんでいるのがみえた。
おくの方には、わたしが矢を射た指揮官がいた。
「さあさあ注目せよ!!わたしはアレキサンダー様の従者ユエ!!先の戦いで総大将へ矢を射たのはわたしだ!!」
道の中央に立ち、黒弓を掲げて周囲の注目を集めるように大声をだした。
声の反応した指揮官があわてた様子でこちらを見ていた。
「やつは悪魔じゃ、はよう討ち取れ!!」
指揮官の指示に従った帝国兵たちがこちらに向かってきた。
(よし、うまく追っ手の兵士の気を引くことができた)
道からはずれ森の方に走っていくと、帝国兵たちもつられるように森の中に入ってきた。
木の間を不規則に動き回ることで、追ってきた兵たちは分散していった。
死角から矢を射たり、木の陰に隠れて孤立した兵士を背後から襲うことで森に入った兵の数を減らしていった。
「まだ、みつからぬのか!!」
「はっ、現在も捜索中です」
木の上に上り周囲の状況を確認したところ、指揮官の男が森の入口で部下に怒鳴り散らしていた。あの男を討ち取りたいが、まわりにはまだ多くの兵が残っていた。
矢筒の中には1本だけ矢が残っていた。あいつを倒せば指揮が乱れて、アレキサンダー様も逃げやすくなるはずだ。
最後の矢を弓につがえ指揮官の男に狙いをつけ放った。
「グエッ」
しかし、偶然男の前を兵士が横切り盾になってしまった。
「そこにいるぞ!!」
位置がばれて、兵士たちがわたしの登っている木の元に集まり始めた。
木を飛び降りごろごろと転がりながら着地をして、その勢いのまま指揮官の男のほうに走った。
「来たぞ、迎えうて!!」
護衛の兵士たちは横一列にならび槍を構えて、迎撃体勢をとっていた。構わずつっこむと槍が突き出されわき腹を切り裂いたが、そのまま兵士の間をすり抜けた。
「こ、この悪魔め。敬虔なる信徒であるわしに貴様の刃が届くものか!!」
指揮官の男はわたしを見て、しりもちをついて後づさりながら、手に持った剣をこちらに向けていた。
わたしは男に近づき、剣をナイフではじいて胸に突き入れた。
「なぜだ、なぜ、わしがこんなところで…」
「大司教様!!きさまよくも」
ナイフを引き抜くと、男のからだがビクッと動き血があふれ出した。
護衛役の男たちがこちらを殺気だった目でみながら、近づいてきた。さらにその後ろからは、森でわたしを探していた兵士たちも集まってきていた。
どれだけ敵を殺したか10人目を数えたあたりからもう分からなくなった。
あたりは敵と自分から流れた血のにおいが交じり合い、いま自分がどんな状態か分からなくなっていた。
最後の一人の首筋にナイフをつきこんだところで、周囲に動くものはいなくなっていた。
ナイフを腰の鞘に収めたところで、どっと疲労感がおしよせ、さらに血を失ったことで体に力が入らなくなり今にも倒れそうだった。
「帰らなきゃ、でもどこに…」
アレキサンダー様にはわたしの正体を知られてしまった。
わたしを見る目は異物をみるときのものだった。
(あーあ、結局わたしの居場所はつくれなかったなぁ…)
あの日、アレキサンダー様に屋敷で働くことを強制されたとき、わたしは一つの賭けをした。もしかしたら、こんな自分を受け入れてくれる場所をつくることができるのかもしれないと。
アレキサンダー様は自分の居場所がはっきりせず、不安であたりをいつも見回してるような方だった。
だから、わたしがアレキサンダー様の安心できる場所をつくって差し上げることができれば、わたしもそこの片隅にでもいることが出来るかもしれないと思った。
最近は、わたしを頼ってくれることがあり、誇らしい思いとともに期待を抱くようになってけど、ダメだったな。
ぼんやりしながら立ち尽くしていると、腹に熱さを感じた。
腹を見るとナイフが突き刺さっていた。
「グッ」
「悪魔め… 死ね」
血を出し地面に倒れている兵士がこちらをみていた。
腹に刺さったナイフを引き抜き兵士に投擲すると、頭に突きたち今度こそ息の根を止めた。
血がながれていき、体が冷えていくのを感じた。
ここで死ぬのかと思うと、無性に寂しさばかりを感じた。
ここまで引っ張ってきたユエの隠していたことがばれました。




