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35. 砦での攻防

朝日が昇ったころ、敵の動きがあった。神父の格好をした男が馬にのって門に近づいてきた。


「貴様ら異教徒は、偉大なる聖下のお慈悲を拒み、あまつさえ抵抗を選んだ。だが、われらの断罪を粛々と受け入れればその魂は救われるだろう」


大声で一方的に言い放つと男はきびすを返し戻っていった。


「おじさん、あのひとなにいってんの」


「さあな、帝国のやつらはいつもあの調子で異教徒、異教徒っていってきてるな」


不快感を感じながら帝国軍をみると、指揮官とおもわれるでっぷりと太った中年の男が白い房や金などで飾られキラキラ光ってる神輿に座って踏ん反りかえっているのが見えた。


なんであんな狙いやすい場所に指揮官がいるんだろ。


「おじさん、もう戦いは始まってるんだよね」


「そうだな、そろそろやつらも進軍を開始するだろうさ」


よし、それならやってもいいよね。わたしはアレキサンダー様よりいただいた黒い強弓を引き絞り、指揮官の男を狙った。


「おい、矢の無駄になるからやめとけ、まだ射程範囲じゃないだろ」


おじさんが止めてきたが、すでに矢を放ってしまった。

矢は放物線を描きながら指揮官の方へと飛んでいき、神輿の背もたれに突き刺さった。

突き刺さった矢に驚いた男は神輿から転げ落ちた。

その様子をみた砦の兵士たちは最初はなにが起きたかわからず呆然としていた。


アレキサンダー様は呆れた顔でこちらを見ていたが


「見よ!!あの様子を、じつに無様だな」


地面でもがいて、わめき散らしている指揮官を見て大笑いした。他の兵士たちもつられるように笑い始めた。


「嬢ちゃん、やるじゃねえか」


おじさんが笑いながら肩をばしばしと叩かれた。

指揮官の男はさっきまでいた位置よりかなり後方までさがり、まわりを盾でもった兵士で固めた。

さっきは、風を読みきれずにはずしたから、もう一度射ろうとおもったが、さすがにあの様子じゃ無理そうだ。


ほどなく、帝国の兵士たちが進軍を開始し砦に迫ってきた。

砦の兵士たちは大笑いしたおかげで、いい具合に緊張がぬけて、戦意にみちた顔で帝国の兵を見ていた。


「弓隊、構え!!」


近づいてきた帝国兵をみながら、アレキサンダー様が矢を放つタイミングをはかっていた。


「放て!!」


一斉に放たれた矢は、雨のように敵に降り注いでいった。何人もの兵士が矢を受けて倒れたようだが、前進の速度を緩めず近づいてきた。


矢を放ち続けたがとうとう、敵が高壁近くまでやってきた。


「まずいな、押し切られちまう」


隣のおじさんが焦ったように敵をみていた。

わたしは、腰につけたポーチから小袋をとりだした。


「ん?なんだ、それは」


「これはね、こう使うんだよ!!」


わたしは小袋をなるべく敵が密集している場所になげつけ、あたった場所に中身の粉末が広がった。

近くにいた兵士たちは、ごほごほと咳き込み動きが悪くなった。

粉末は森に生えていたキノコを乾かしてすりつぶしたもので、獲物をしびれさせるときに使っている。

しびれて動けなくなった兵士が邪魔になり進軍速度がゆるんだ。足の止まった兵士に矢が射かけられ、数を減らしていった。


「とりつかせるな!!」


だけど、足の止まった場所は一部であり、左側の高壁には帝国兵が近づき、いくつものはしごがかけられ登ってこようとしていた。


「おじさん、こっちお願い」


「かまわんが、どうする気だ?」


「向こうの応援にいってくる」


わたしはしびれ薬の入った小袋を渡し、左側に走っていった。

何人かの帝国兵がはしごを登りきり、高壁の上では敵と味方が入り混じった戦いとなっていた。

人のすき間をぬうように走り、砦の兵士に向けて剣を振り下ろそうとしていた帝国兵の背後から、首筋にナイフを突き入れた。


「すまん、助かった!!」


兵士は息をついてお礼をいってきた。


帝国兵の間をすり抜け高壁にかかったはしごをけり倒し、残った帝国兵を他の兵士と一緒に押し込んで倒していった。

なんとか敵の攻撃をしのぎ、夕方になると下がっていった。


「敵の攻撃がやんだ!!臨戦態勢から警戒態勢に移行し、負傷者の手当てや物資の補充を行え」


アレキサンダー様が兵たちに指示をだし、警戒のために残るものと休憩に入るものに分かれた。

アレキサンダー様が高壁で待機するわたしのところに歩いてきて、頭を殴られた。


「イィッタィー」


「持ち場をはなれてウロウロするんじゃない!!正規兵だったら命令違反で処罰の対象だ!!」


独断で持ち場を離れて、高壁の左側にまわったことを怒られてしまった。


「まあ、おまえのおかげでしのぎ切ることができた部分もある、そこは褒めてやろう」


そういって、その場から離れて砦内部に入っていった。


夜の間に仮眠をとり、明け方近くから高壁の上で警戒を行っていた。

朝になり兵士たちが緊張した面持ちで帝国軍を見ていた。

そこにアレキサンダー様がきて、兵たちを鼓舞するように声をかけた。


「みなのもの、今日中に国軍の先発隊が到着するという連絡がきた。今日をしのぎきれば敵を押し返すことができる!!死力をつくしてくれ!!」


兵たちはこの知らせをきいて、オォーと喚声をあげてやる気に満ちた表情となった。

帝国軍が進軍を開始し、昨日と同様に矢による迎撃を行ったが、投入する兵士の数を増やしたようで敵の勢いはまるで減りそうもなかった。


「嬢ちゃん、しびれ粉はもうないのか」


「さっき投げたので打ち止め!!」


帝国兵が城壁にはしごをかけ始め、高壁の上の兵たちは焦った顔をした。

兵たちはちくしょうと悪態をつきながら、投擲用の岩を登ってくる帝国兵にぶつけて落としたが、数にまかせて次々と登ってきた。


「総員抜剣!!登ってきた敵を迎え撃て」


次第に、はしごを登りきった帝国兵たちが高壁の上に増えていった。帝国兵は手近にいる砦の兵から襲い掛かり斬りあいが始まった。

戦いのさなか、ドーンという音がし、砦の門に破城槌を打ち付ける姿が見えた。


「だれか、あれを止めろ!!」


アレキサンダー様が大声を上げるが、敵味方入り乱れ混乱する戦場では動けるものはいなかった。

そのとき、ひときわおおきく打ちつける音がしたあと、扉が破られ、勢いに乗った敵の姿が見えた。


「くそ、扉が破られたか、総員広間まで退避せよ!!」


じりじりと後退しながら高壁から味方の兵たちが退却を始めた。


「おじさん、先に行ってて!!」


目の前の帝国兵を蹴り飛ばし、周囲の敵を巻き込むようにして他の兵が撤退するのを手助けした。

兵たちで固まりながら高壁からの階段を下り、王国側に抜けるための門がある広間にでると、そこもすでに戦場となっていた。


オルレアン様が指揮を執りながら、敵兵を食い止めていたが、敵の物量に押されて苦しい戦いとなっていた。


「父上、高壁の兵の退避は完了しました!!」


「アレキサンダー、近くまできてる国軍のもとまで現状を報告に走れ。オレはここで敵を食い止めてから撤退する」


「しかし、それでは父上が危険です。わたしも残ります」


「ばかもの!!砦が落ちたことを知らずに国軍が来たら被害が拡大するだろう」


そこに馬をつれた兵士がやってきて、アレキサンダー様を促した。


「早く行け!!もうあまりもたない」


「父上!!必ず生きて会いましょう!!」


「ユエ、おまえもついてやってくれ。あいつのことを頼んだ」


うなずくと、アレキサンダー様の後ろに飛び乗り、馬にムチを当て砦から抜け出た。


「さあ、ここがふんばり時だ!!死力を尽くせ!!」


「オォォー!!」


絶望的な状況にもかかわらず、兵士たちはひるまず押し寄せる帝国兵に向かい合った。


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