31. ふたたびの王都
季節は夏となり、暑さを感じるようになってきたころ手紙が届いたとアレキサンダー様から知らされた。
「ヨハン殿から、誕生パーティーの招待状がとどいた」
今年もきたか、まあ今回はアレキサンダー様のパートナーはエリザベス様がいるから、わたしは行かなくて大丈夫だろうな。
この春に、オルレアン様からフェアウッド家の方に縁談の了承を伝えて、晴れてエリザベス様との婚約が成立していた。
「手紙には、おまえもぜひつれてきてくれと書いてあった」
アレキサンダー様がニヤニヤ笑いながらいってきた。
なぜだ、ちょっと弓を教えただけなのに…
「安心しろ。他の貴族たちを招待して行うパーティーとは別に、別室であって話したいらしい」
それなら、別の貴族たちに気を使わなくて気楽そうだとおもった。
パーティー前の1週間前となり馬車に乗って王都にむかった。途中でフェアウッド領に寄り、エリザベス様と合流した。
フェアウッド家は王都に別宅などはなかったので、それならと、プレンジア家の別宅に来ることになった。
客席にはエリザベス様とアレキサンダー様が並んで座っていて、わたしは御者台にすわり馬の手綱をにぎっている。
「ユエ、あなたも客席のほうにきなさいな」
「エリザベス様、馬の手綱を握っているのでご容赦ください」
「はぁ… これなら、御者ができるものをだれかつれてくるんだったわね」
不満そうにエリザベス様がつぶやいていた。
フェアウッド家からもエリザベス様の世話役の使用人をつけようとしたのだが、ユエがいるから大丈夫といってだれも連れてこなかったらしい。
「おまえら、いつからそんな仲になっていたんだ」
アレキサンダー様は砕けた口調でエリザベス様に話しかけていた。
婚約後に二人で何度か会った結果、二人とも猫を被っているより、砕けた感じのほうが性にあったようだ。
わきあいあいとした雰囲気で王都までの道をすすんでいった。
王都の別宅に到着すると、玄関で管理人のジョスさんが出迎えてくれた。
「ようこそいらっしゃいました、アレキサンダー様。お初にお目にかかりますエリザベス様」
ジョスさんにはエリザベス様が婚約者だということは連絡してあり、今回始めての顔合わせとなる。
笑顔でよろしくといいながらエリザベス様は返事をしていた。
馬車につんである荷物をジョスさんと一緒に降ろしながら挨拶をした。
「ジョスさん、またよろしくおねがいしますね」
誕生パーティーまでの1週間、エリザベス様とアレキサンダー様のお世話をしなきゃならない。
ひとりでは厳しいのでジョスさんをあてにさせてもらおう。
次の日、王都は初めてだというエリザベス様をアレキサンダー様が案内したのだが、帰ってきたエリザベス様が興奮しているのに対してアレキサンダー様はぐったりしていた。
服やアクセサリーの店を何件も見て回り疲れ果てたよううだ。
次の朝朝食の席でエリザベス様がアレキサンダー様に今日の予定を聞いていた。
「アレキサンダー様、今日はどこにいきましょうか」
「すまんな、今日は所用があってな案内できないのだよ」
アレキサンダー様はごまかすようにいって、エリザベス様と一緒に出かけるのを回避していた。
エリザベス様をそれを聞くと、どうしようかと考えてからわたしの方に視線を移した。
「ユエ~、今日は手は空いてるかしら」
「きょ、今日はちょっと立て込んでいまして、時間の余裕がないかと思います」
視線をそらしながらごまかそうとすると、そこにジョスさんが
「食材の買出しなど昨日のうちに済ませてあるので、別宅での仕事は私一人でも問題ないでしょう」
「さすがね。それじゃあ、ユエ一緒に王都見物にいきましょう」
エリザベス様が目を輝かせて言ってきたので、わたしは観念してうなずいた。
王都の大通りを、エリザベス様の後ろに控えるようについて歩いていた。
「エリザベス様、わたしも王都は詳しくありませんが、どちらにむかいますか?」
「昨日、見て回ってるときにいくつか面白そうな店を見つけてね。そこにいくわよ」
エリザベス様の後をついていくと、服屋の前についた。王都の大通りに構え、貴族向けの高そうなドレスなどを売っていた。
中に入ると、物腰の丁寧なのりのきいた黒服をきた男性が出迎えた。
「いらっしゃいませ、エリザベス様」
「あら、1回きただけなのによくおぼえてたわね」
「一度でもいらっしゃった方は、大事なお客様ですので」
客の顔全部おぼえてるとは、これが王都の高級店の実力か。
「今日は、この子の服を探しに来たのよ」
そういって、わたしを目線で示すと、店員は個室に案内したあと、服をもってくるために一旦退出した。
「さあユエ、そんな野暮ったいメイド服じゃなくてかわいい服をきましょう」
「あの、わたしは使用人ですのでこれで十分です」
「だめよ、せっかく王都にきたのだから雰囲気にあわせた服をきないと」
目に力をいれながらエリザベス様はいってきた。
「失礼いたします」
そこに、店員がキャスターつきの洋服掛けを押してきた。色とりどりの服がかけてあり、それをみてエリザベス様が目を輝かせていた。
服を一つ選び出し、これがいいわといいながら着替えさせようとしてきた。
「できれば、恥ずかしいので後ろを向いてもらえるでしょうか」
「おっと、そうだったわね」
意外とすんなり後ろをむいてくれた。こっちを振り向かないかヒヤヒヤしながら着替え終わった。
「うーん、やっぱりユエにはシンプルなデザインの方が似合うわね」
その後も何着もきせられて、着替え後の姿をみて、頬に手を当てながら顔を赤らめていた。
数時間後、ようやく服がきまり店を後にした。
「ありがとうございました、ごひいきにお願いします」
入口で店員のひとが腰を深く曲げながら見送ってくれた。
「本当によろしかったのですか、このような高価なものを買っていただいて」
「ユエに着てもらいたかったから、プレゼントしたのよ。よく似合ってるわよ」
店で買った服をきてそのまま店からでてきた。白い生地に紫の飾り糸をつけたワンピースで、全体的にふわふわしていて落ち着かなかった。
「なにかしらあれ?」
上機嫌な様子で歩いているエリザベス様が指さすほうをみると、広場に巨大なテントが張ってあり、芸人がおどけた仕草をしながら客を呼び込んでいた。
「あれはサーカス団ですよ。テント内で芸を披露しているのですよ」
プレンジアの街でもときどき興行しているのを見かけた。
「へぇ、おもしろそうね。いってみましょう」
「はい、お供いたします」
エリザベス様は興味を引かれたようで、わたしも中に入ったことはなかったので行ってみたかった。
中に入ると、扇状にイスが置かれ中央にステージが設置されていた。客もそれなりにはいっていて、空いている席に座り待っているとステージに道化師がでてきた。
「紳士淑女のみなさまよくぞおいでくださいました。本日は、我が一座が誇るメンバーの技の数々をお楽しみいただければ幸いでございます」
道化師がステージ脇にひっこむと左右から、肉体を見せ付けるように体にぴったりとした服をきた男女がゆっくりと出てきた。
二人は腕の力だけで様々な体勢をとり、絶妙なバランス感覚を披露し、周囲の人は惜しみない拍手を送っていた。
その後も、ボールや器具を使った芸や、大人数が息をあわせた演技などを披露していった。
演目も終盤に差し掛かったあたりで、道化師がステージの中央に立ち、シートで覆われた檻が引っ張られてきた。
「次が、本日の最後の出し物となります。西方の国におりますライオンの中でもさらに希少な存在でございます」
シートが取り払われると、檻の中には真っ白な体毛をもつ大型の肉食獣がいた。
ライオンという動物は初めてみるが、その色は違和感を覚えるほどの白さだった。
周囲の観客はどよめき、隣で座っているエリザベスは食い入るように見つめながら手をわきわきと怪しい動きをさせていた。
檻の鍵が開けられライオンがゆっくりとした動作で出てきた。道化師の男がムチで床を打つと、ライオンはステージをのたのたと歩いた。
わたしはライオンのどこかふてくされたような表情をずっと見つづけていた。
「本日の公演は以上となります。足元に気をつけてお帰りください」
出し物がすべて終わり、観客がテントから吐き出されていった。
「んん~、初めてみたけどなかなか見ごたえがあってよかったわ」
エリザベス様が通りを歩きながらのびをしていた。
「ちょっと疲れたし、その辺でお茶にしましょうか」
近くの喫茶店に入り、紅茶を注文した。
紅茶の温かさを手のひらで感じながら、においを楽しんでいると
「ねえ、ユエ、サーカスを出た後からなんだか元気がないけどどうしたのかしら」
エリザベス様が心配そうにこちらを見ていた。
「そんなことないですよ。ほら元気元気」
わたしはにぱーと笑って見せた。
「ユエ、あなたって結構顔にでて分かりやすいのよ。ほら話してごらんなさい」
わたしの作り笑いではごまかせなかったようだ。
ためらった後、素直に話すことにした。
「最後にでた白ライオンなのですが、あの子はどんな気持ちだったのかなって… 生まれつき体の色が他と違っているって理由で見世物にされてるのをみてるとなんだかモヤモヤしてしまって」
他と違うと注目を集めやすく、あのサーカス団はそれを金儲けに利用した。
もしも、普通のライオンだったら故郷で、ほかのライオンの群れの中で過ごせていただろう。
わたしが話してる間、エリザベス様は黙って聞いていた。
「ねぇ、ユエ」
エリザベス様が落ち着いた声でわたしに呼びかけてきた。
「わたしね、ユエが好きよ」
唐突な告白にとまどっていると
「ユエがどんな存在でも、それを含めて好きよ。アレキサンダー様と結婚したあともいい関係を築いていきたいと思ってるわ」
何かを含むような言い方だった。もしかして、エリザベス様はわたしのアレをみたのかと疑念がわいてきた。
混乱して何と返事をすればいいかわからなかった。
でも、もしも、それを見た上で受け入れてくれるならこんなに嬉しいことはないだろう。
「これからも、よろしくお願いいたします」
「ええ、よろしくね」
いろんな感情をのせながらなんとか返事をしぼりだすと、エリザベス様は笑顔で返してくれた。




