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閑話 オルレアンの昔 (後編)

次から本編にもどります

エレナを見送った3日後、屋敷にぼろぼろの姿の兵士が転がるように入ってきた。


「報告申し上げます。突如侵攻を開始したカスール神聖帝国の軍が国境の河を越えて、砦へ猛攻を加えています」


「なんだと!?帝国軍の規模はどれほどだ」


「1万を超える兵を確認しました。あの数で攻め込まれた砦は長く持ちこたえられないと思われます」


報告を聞き、すぐに王都にむけて援軍を求める連絡員を送り、砦の状況を知るための斥候を送ると同時に、街の防備を固める準備をはじめた。

砦にいたはずの父上とエレナのことを考えると、胸が張り裂けそうだった。


斥候にだした兵士は、砦は陥落し、すでに帝国兵がこちらにむけて進軍中だという報告をしてきた。


大量の帝国兵が街にむけて進軍中だときいた住民たちが屋敷の前に集まり、不安そうな顔をしていた。

ここでオレが不安な顔をしていれば、守りは瓦解するだろう。

「街の者たちよ。現在帝国兵がこちらにむけて進軍中である。街にいる兵だけでは、長く持ちこたえることはできない。諸君らの力も貸してもらえないだろうか。街の人間の総力をもってすれば帝国の攻撃をはじくことなどたやすいであろう」


住民たちは顔を見合わせてざわざわと話していたが


「おれはやるぞ、俺たちの街をまもるんだ」


ひとりが声をあげると、ほかの人間も声を上げ始めた。

やがて、到着した帝国兵によって街は包囲されたが、準備をすすめた兵士や住民たちの士気は高かった。


国軍が到着するまでの一週間、兵士だけでなく住民たちとの協力によってなんとか持ちこたえることができた。

到着した王国軍は包囲している帝国軍の背面をつくように攻撃を開始し、同時に街の中からもうってでることで挟撃し、撃退することに成功した。


街の住人たちは撤退していく帝国軍をみて、喚声をあげて喜んでいたが、砦のことが気がかりで心は焦りで満たされていた。


帝国軍の撤退を確認するために、王国軍は国境砦に向かっていったので、オレも同行した。

砦は無残な状態になっていた。

内部から黒煙がくすぶるようにたちのぼり、門が打ち破られ、中は踏み荒らされていた。


「父上、エレナ!!いるか、返事をしろ!!」


大声をあげながら中を探したが、砦を守っていた兵士と帝国兵の死体だらけだった。


「オルレアン殿、発見したぞ」


国軍を率いていた将官のひとりに案内された先は、門の前だった。

ひときわ戦いが激しかったようで、死体の数も多かった。

時間がたった死体はカラスや野犬などに食い荒らされ無残な姿となっていた。


その死体の中に、壁際に追い詰められた父上をかばうように剣を握ったままのエレナの死体があった……



そのあと、どうやって屋敷にもどったかよく覚えていない。

気づくと、屋敷の居室のベッドで寝転び天井をボーっと眺めていた。

ドアをノックする音がきこえ返事をしないでいると、扉があきアレキサンダーが心配そうにこちらを見ていた。


「父上、お加減はだいじょうぶですか?」


そうだ、アレキサンダーを守らないといけない。


「ああ、もう大丈夫だ」


ベッドから体を起こし、街の被害の報告をうけ、指示を出していった。

その後、父上やエレナを含めた戦争で死んだもの葬儀を執り行った。

幼いアレキサンダーは母の死を聞き、葬儀でも泣きっぱなしだった。

葬儀がおわったあと、泣いているアレキサンダーの頭をなでていた。


「父上… わたしは、こんなことがないように必ず騎士になってみなを守ってみせます」


しゃくりあげながら、強い意志を感じる目で言ってきた。

それじゃあだめなんだよ、エレナも騎士になろうとして結局は死んでしまった。


次の日、アレキサンダーに稽古をつけてやるというと、はいと大きな声で返事をしてきた。


「うぐっ」


「だめだな、そんな実力ではとうてい騎士になどはなれいないだろう」


アレキサンダーに打ち込ませてから、剣を吹き飛ばすように打ち返した。アレキサンダーが疲労で動けなくなるまで続けた。


「オルレアン様、あまり無理をさせてはケガをさせてしまいます」


クロードが諌めるようにいってきたが構わず続けた。


「立て、アレキサンダー」


「無理です、ぼくには…」


「そうか… 期待はずれだったな」


ここまですれば、二度と騎士になりたいなどと思わないだろう。

その後、オレは領主への着任と同時に砦の守備隊長として、砦におもむいた。

クロードを領主代行とし、屋敷のことはすべて任せ、砦の防壁をより強固にし、街に住人に兵役を課し予備戦力とするなど、防衛体勢を整えることに邁進していった。





昔のことを思い出していると、クロードの声が聞こえたのでそちらを向いた。


「あちらが、昨年の秋から区画整理をはじめた元スラム地区です。いまでは南商業区と名を改めています」


クロードの示す先には、露天商の天幕が通りにいくつも建てられ、客呼びの声が聞こえ活気に満ちていた。前にきたときの記憶は、あばら家が立ち並ぶ陰気な場所だった。


南商業区からでて衛兵の詰め所に赴き、衛兵隊長と会った。


「何か、問題はないか」


「ハッ!!街の治安に問題はありません。スラム地区の区画整理を進めるに当たり、アレキサンダー様が先頭に立っておられるので、住民たちも安心しています」


「そうか、ご苦労だった、引き続きたのむぞ」


敬礼する衛兵隊長を後にし、屋敷に戻った。

クロードから定期報告の手紙を通して知ってはいたが、実際にきてアレキサンダーの評判を聞くと住民からの評判は良いようだ。


昼食をすませると、アレキサンダーからまた稽古をつけてほしいと言ってきた。

昨日あれだけ叩きのめしたにも関わらず意外だった。

訓練場に来て、アレキサンダーの様子をみると昨日とは違いしっかりとした様子でこちらを見据えていた。

模擬戦を開始する前に、後ろで待機していたメイドと目配せをしているのが見えた。


アレキサンダーは昨日と同様に単純な動きでつっこんできたので軽くいなそうとすると、転がりながらなんとかかわしてきた。

だが、体勢を大きく崩しているので追撃をしようとしたところに、砂を投げられた。

とっさに腕で顔をかばったが目に砂がすこし入ってしまった。

ゆがむ視界の先でアレキサンダーが気合を入れた声をあげていたので、突っ込んでくると予測し構えた。


だが、飛んできたのは木剣だった。予想外の攻撃に体勢を崩しながら何とかよけたが、そこにアレキサンダーが切り込んできた。

なんとか足払いをしてしのぐことができたが、切り込むスピードがもう少し早ければおそらく負けていただろう。


(なぁエレナ、こどもってやつは知らないうちに成長してるもんだな)


自然と笑みがこぼれたきた。

ただ、やられっぱなしは性にあわないので、立ち上がるのを手助けすると見せかけて、握った手で投げ飛ばしておいた。


夜になり、クロードに聞きたいことがあったので、居室に呼び出した。


「お呼びでしょうか」


「アレキサンダーに最近なにかあったのか」


「いいえ、すべてはアレキサンダー様のお力によるものでございます」


「では、質問を変えよう。あの小柄のメイドがきたのはいつだ」


「昨年の春からでございます」


「ほう、昨年の春か。そして、アレキサンダーの行動が変化したのもその頃からだったな」


こめかみに指を当てながら、クロードをにらみつけた。


「あのメイドは何者だ」


「名前はユエといい、ラクヒエ村からアレキサンダー様が雇い入れてきたものです。村ではハンターである祖父の手伝いをしており、鹿狩りの前にはアレキサンダー様の弓の訓練をまかされていました」


クロードはすました顔で説明していた。こいつ、わかっててだまっていたな。


ほかにも公爵家の誕生パーティーのパートナー役や、スラム街の区画整理の立案、さらに普段からの世話役も請け負っていることを聞いた。


つまり、あのメイドはほぼつきっきりでアレキサンダーの側で働いてきたってことか…

ようやく、わかった。稽古のときにみたあのメイドがアレキサンダーに送っていたまなざしは、姉が弟にむけるような、いや、母が息子を見るような目つきだったのだ。

どこかで見たと思ったら… エレナに似ていたのだな。


次の日、出発するオレを見送るために使用人たちが玄関ホールに並んでいた。

使用人の中に小柄な姿を見つけ、声をかけた。


「ユエといったな。不出来な息子だが、これからも支えてやってくれ」


不思議そうな顔をしながらも、おまかせくださいという元気な返事が聞こえた。

あいつはおそらく自覚なくやっているのだろうな。


よく晴れた空の下、街をでて砦への道を馬にのって進んだ。


最近、カスール神聖帝国が怪しい動きを見せている。クロードには準備を整えておくように伝えたが、杞憂におわることを祈るばかりだ。

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