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閑話 オルレアンの昔 (前編)

長いので前後編にわけました

アルステーデ王国とカスール神聖帝国の国境に位置し、代々プレンジア家が守護隊長をつとめるガプラス砦で手紙を読んでいるオルレアンの姿があった。


クロードからアレキサンダーの縁談についての連絡がきた。

いい機会だ、プレンジアの街の様子を見るために帰るのもいいだろう。


砦の副隊長を呼び出し、留守にする間砦の守備を任せる旨を伝えた。

「久しぶりの帰郷ですね。ゆっくりしてらして下さい」


にっこりと笑いながらオレを送り出した。

副隊長のこういうところが苦手だ。


馬にのって半日ほどでプレンジアの街に到着した。

ひさしぶりにみる街の風景に懐かしさを感じた。


屋敷まで戻るとクロードや、いつもの顔ぶれに加えて新しい使用人が出迎えのために扉の前に並んでいた。


アレキサンダーを呼び、居間で座って待っていた。


「おひさしぶりです、父上」


入ってきたアレキサンダーに視線をむけると、体を強張らせ緊張している様子が見て取れた。


本題である縁談の話をきくと、相手はフェアウッド家の令嬢であり、アレキサンダー自身も気に入っているようなので縁談を進める許可を与えた。

クロードから縁談の話がきたときにフェアウッド家について、調査をさせたが特に問題もなさそうだ。


しかし、そのあと特に話すことがなくなってしまった。

クロードから、アレキサンダーが参加したという鹿狩りの話がでたので、アレキサンダーの腕前の確認をすることにした。

模擬剣をもち相対したアレキサンダーの様子をみたが、剣先がふるえて視線も定まっていなかった。バカ正直につっこんできたアレキサンダーの動きは単純で、なるべくケガをしないように叩き伏せることにした。

稽古を切り上げたときのアレキサンダーは打ちひしがれた顔をしていた。


気になったのは、稽古をつけている最中、新しく入った小柄なメイドが、アレキサンダーを見ていときの目だった。

怒っているわけでも憐れんでいるわけでもない、不思議な目つきだった。


翌日の朝、街の様子をみるためにクロードを伴い外出した。

街の風景をみていると、昔を思い出してしまう。

父上に領主の座を譲られる前は、妻であるエレナと一緒に街の中を良く歩いていた。


エレナとは貴族学校の騎士課程で出会った。

あいつは、男ばかりの騎士課程の仲で、唯一の女だった。

騎士は男がなるもので、女で騎士となっているものは少数だった。


エレナは必死に訓練に励み、体の軽さを利用してすばやい動きを武器に、訓練でも中位の成績を収めていた。

あるとき、模擬戦の相手をすることになり、初めはすばやい動きに戸惑ったが、打ち込んでくる剣は軽く打ち合いに持ち込むと簡単に勝つことが出来た。


そのときの負け方が悔しかったのか、よく模擬線の相手を申し込まれるようになった。

面倒になってきたオレは、いらつきながら質問した。


「おまえ、女のくせになんで騎士になろうとするのだ」


エレナの家は代々騎士の家系だが、家督を継ぐ予定の兄が病弱なため、自分がその騎士になるのだと強い目でいってきた。


「女が騎士を叙勲された例はすくない、だが、上位の成績をとり実力を証明してやる」


このときのオレは同期のなかでもかなり上位の成績をとっていたので、オレを倒すことで実力を示そうとしていたのだろう。


その日から、なんとなく放っておけなくなり、学校の訓練の時間外でも、稽古に付き合うようになった。

月日は経ち、卒業の時期にはいった。騎士課程を卒業するものは、卒業試験で騎士との模擬戦を行い。そのときの結果で騎士になれるか決まる。

オレの相手は熟練の騎士だったが、勝つことはできなかったが、なんとかくらいついて全力を出すことができた。相手の騎士からも、おまえの腕なら問題ないといわれた。

一方、エレナのほうはさらに鋭さを増したすばやい動きで相手を翻弄しようとしたが、盾でおしこまれ体勢をくずされたところで一本とられていた。


そして、オレは騎士になることが決まり、エレナは落ちた。


学校を卒業する日、同期たちが別れを惜しんでいる中、エレナが一人離れた場所でぼーっとしているのを見つけたので、声をかけた。


「よう、なんというか… 残念だったな」


「いや、全力を出した結果だからいいんだ。これまでつきあってくれて感謝する」


エレナは弱々しげな笑みをうかべていた。


「エレナ… おまえはこれからどうするんだ」


「そうだな、実家にもどったあとは、街の衛兵にでも志願するか」


「それならば、うちにこい」


「キミの領地の衛兵になるのかい?プレンジアの街ならば雇い口はありそうだな」


苦笑しているエレナに、もっとはっきり言うことにした。


「ちがう、オレの嫁にならないかと聞いているんだ」


オレの言葉を聞いたエレナは戸惑ったあと


「すまん、気持ちはありがたいがわたしは家に戻ろうと思う」


そういって背をむけて歩いていくエレナを見送った。いつもの強気な態度と違うエレナをみて、思わずいってしまったが、あれはオレの本心だったのだろう。


領地にもどってからは、国境の砦で守備隊長を務める父上に代わり領主代行として執務に励んだ。


「こちらが、今年の衛兵に応募してきたもののリストです」


執事を務めるクロードが、応募者の経歴の書かれた書類を渡してきた。

応募者の選定はクロードと衛兵隊長が行っていて、最後にオレが認可する。


リストのなかには貴族の三男坊や、ハンターを引退したものなど戦闘関連のこと意外はからっきしで、衛兵を選んだものが多かった。

リストを追っていくとエレナの名前を見つけた。


「なんで、あいつが…」


「オルレアン様、なにか不備がございましたか」


不審そうにするクロードに、おれはなんでもないと首をふり認可のサインをした。


数日後、気になったオレは衛兵の詰め所に立ち寄った。すでに、新しい衛兵が配備されていて、衛兵の制服姿のエレナの姿を見つけた。


まちがいない、あいつだ…


オレの姿を見つけた衛兵が敬礼をしてきたので、気にするなと手を振った。

エレナもオレに気づいたようで、こちらをみてきまづそうな顔をしていた。


「こいつを少しの間借りてもいいか」


エレナの上官に声をかけてから、連れ出した。

詰め所からすこしはなれた路地裏でエレナに聞くことにした。


「さて、おまえがなんでここにいるか理由をきこうか。家には帰ったんだよな」


エレナは目線をさまよわせた後、こちらを見て説明を始めた。

卒業後、失敗した自分になにをいってくると重い気持ちで家に帰ったところ、兄に謝れられたらしい。

妹であるエレナに責任を負わせてしまったのを、ずっと負い目に感じてたらしく、あとは自分でなんとかするから、エレナは自由に生きろといわれたそうだ。


それで、とりあえず食い扶持をかせぐためにプレンジアの街の衛兵に応募したそうだ。

説明し終わったあとのエレナは、すっきりした顔をしていて以前の張り詰めた表情よりも大分ましになっていた。


それから街の中で出会うと向こうから声をかけてくることが増え、意外と話好きなことがわかり、笑顔で話しかけるくる姿にドキリとすることがあった。


ほどなく、もう一度結婚を申し込むと、驚いた顔をされたが了承を得ることができた。


結婚後、第一子であるアレキサンダーが生まれた。

アレキサンダーはいつもエレナの後をついていき、エレナとオレが訓練をしているのを見て真似しだした。


「ほーら、アレキサンダー、弓を構えるときはしっかりと足をふんばるのよ」


エレナがアレキサンダーの横について、弓の指導をしていた。


「オルレアン、この子はきっといい騎士になるわよー」


「はい、ぼくは父上のような立派な騎士になり母上をお守りします」


アレキサンダーはやる気に満ちた目で訓練に励んでいた。

笑顔で息子を見守るエレナの目はまっすぐに息子に向いていて、慈しみに満ちていた。


ある日、国境砦への交代要員を送り届けるためにエレナが砦に赴くことになった。


「それじゃあ、いってくるわね。アレキサンダー、すぐにもどるからまっててね」


「ああ、砦にいる父上にもよろしく伝えておいてくれ」


屋敷から出発するエレナを、不安そうな顔をするアレキサンダーと一緒に見送った。


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