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29. 父、帰る

春の穏やかな日差しがさす中、執務室で政務にはげむアレキサンダーの姿があった。


「…以上で、今月の報告を終わります」


「スラム地区の区画整理も順調にすすみ、店舗の数も増え始めたようだな」


アレキサンダーが喜んでいる横からクロードが付け加えるように報告した。


「もう一つご報告がございます。オルレアン様に縁談について報告しましたところ、屋敷に帰ってくるという返事がきました」


「ち、父上がかえってくるのか…」


「縁談の件で確認したいことがあるそうです」


「そうか、出迎える準備をしておけ」


アレキサンダーは喜びから一変して強張った表情をしていた。


メールビットさんから領主であるオルレアン様が帰ってくるということを聞き、くれぐれも粗相のないようにといわれた。


カティナねえさんにオルレアン様について聞いてみたら、知らないことに驚かれてしまった。


「オルレアン様は王国でもかなりの有名人だな。9年前に突然カスール帝国が攻めてきて、国境の砦を落としてプレンジアの街まで来たのさ。そのとき、防衛の指揮をしたのがオルレアン様で、陣頭でみんなを励ましながら、国軍の応援がくるまで守りきったのさ」


戦争後、国境の砦に常駐するようになり、プレンジアの街の住人はオルレアン様が守ってくれるなら安心だといっているそうだ。

そんな立派な人なのに、アレキサンダー様が会うのをためらう理由が気になった。


数日後、数名の兵士とともに、あごひげを蓄えたがっちりした男性が屋敷の門まできた。

門の前に立っていた衛兵の二人は、直立不動の姿勢をとりながら敬礼をし、兵士たちは門の前で別れた。


「お帰りなさいませ、オルレアン様」


玄関の前にクロードさんが立ち、使用人一同で玄関の脇に頭を下げたまま並んで出迎えた。


「クロード、詳しい話はあとで聞こう。アレキサンダーはいるか」


「ただいま呼んでまいります」


居間で座って待っていたオルレアン様の前にアレキサンダー様が来た。

わたしは部屋の隅で控えて、親子の様子をみていた。


「おひさしぶりです、父上」


立っているアレキサンダー様を下からにらみつけるようにみて、アレキサンダー様はたじろいだ。


「座れ」


短くいうと、腕を組んだままだまっていた。

アレキサンダー様はイスに座りおずおずとオルレアン様の方をむいた。


「縁談の話がきているそうだな」


「は、はい。フェアウッド家との縁談を進めております。牧畜が盛んで最近では羊毛の生産も始めているため良い関係を築きたいと思っています」


「そうか、すきにするといい」


そういうとオルレアン様はむっつりと黙った。


「と、砦の方は問題ないでしょうか」


沈黙に耐え切れなくなったのか、アレキサンダー様が切り出した。


「ああ、なにも変化はない」


短く答えた後、また沈黙が続いた。


「アレキサンダー様の精力的に活動なさっております。最近では公爵家の鹿狩りに参加なさいましたな」


「そ、そうです。訓練の成果もあって鹿を仕留めることができました」


沈黙を破るようにクロードさんが話題を出し、アレキサンダーさまが乗っかった。


「ほう、鹿狩りか」


ここで、はじめてオルレアン様の表情が変化した。右眉をピクリと動かして興味を示したようだ。


「腕前をみようじゃないか、訓練場にこい」


オルレアン様は立ち上がり裏庭に向かっていった。

その後につづくアレキサンダー様は、重い足取りだった。


裏庭の訓練場で2人は、木でできた模擬剣をもって向き合っていた。


「どこからでも打ち込んで来い」


オルレアン様は悠然と構えてるのに対して、アレキサンダー様は視線をキョロキョロとさまよわせ手足もこわばっていた。

アレキサンダー様が剣を上段にかかげながら突っ込み振り下ろすと、オルレアン様は体を横にずらして下から切り上げた。

アレキサンダー様のわき腹にあたり、その衝撃で地面に倒れた。


「どうした、もう終わりか」


アレキサンダー様はふらふらしながらもかかっていくが、そのたびにカウンターをもらって地面に倒れた。


「成長しとらんな。手当てしておけ」


動けなくなったアレキサンダー様を見下ろすと、その場から離れていった。


「痛む場所はありませんか」


わたしはアレキサンダー様に駆け寄り、手を貸そうとした。


「ひとりで…たてる」


よろけながらアレキサンダー様は立ち上がり、こちらを拒否する態度をとっていた。


「ほら、はやく治療しますよ」


「お、おい、ひっぱるな」


わたしはアレキサンダー様の手をとって、ぐいぐいと引っ張っていった。

アレキサンダー様の居室で、イスに座ったアレキサンダー様の傷を手当していた。

派手に打ち込まれていたが、多少の打ち身と擦り傷だけだった。

手加減して相手をうまくいなしてやらないとこうはならない。

手当てをしている間、アレキサンダー様は黙っていて、自分の世界に閉じこもっているようだった。


「これで手当ては終わりです。特に大きな傷もないようですね」


「・・・」


「それでは、失礼いたします」


退室するときにみたアレキサンダー様は、うなだれたままだった。


お茶の時間となり、いつものように執務室の方にいったがアレキサンダー様はいなかった。

居室のほうにいくと、ベッドに寝転がってぼーっと天井を眺めているのを見つけた。


「アレキサンダー様、お茶の時間です」


「そうか、そこにおいておけ」


気の抜けた返事をするアレキサンダー様をみて、わたしは息を大きくすって吐いた。


「オルレアン様はとてもお強いかたなのですね」


「ああ、国防の英雄だから。オレなんかでは足元にも及ぶまいさ」


そういいながら、自嘲気味に口を歪めた。


「ですが、勝つ方法はありますよ」


「…なんだと」


体を起こしわたしをみてくるアレキサンダー様に、わたしはなるべく不敵に見えるように笑いながらいった。


「アレキサンダー様にはアレキサンダー様に合った戦い方があります」


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